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第2話 もしかすると、スパイの方が楽だった

【政府】解雇された翌日、スパイになると思っていたのに、結局ベビーシッターになってしまった。


―期待と現実は、しばしば大きく異なる。―


解雇された翌日。


望月茜。


私は政府機関へ。


新しい仕事。


極秘任務。


秘密組織。


スパイ。


潜入捜査。


それが私の予想だった。


しかし…


私を待ち受けていたのは…


眼鏡をかけた真面目そうな教授。


そして、人形。


そして…


私の人生は…


あの日から…


すべてが狂い始めた。

 


朝だった。


 


いい天気。


 


 


鳥。


 


鳴いている。


 


 


風。


 


気持ちいい。


 


 


ヨーグルトのCMみたいな朝だった。


 


 


その頃。


 


望月茜。


 


 


寝ていた。


 


 


ぐっすり。


 


 


ほっぺ。


 


枕にぺたーっ。


 


 


よだれ。


 


少し。


 


 


いや。


 


結構。


 


 


髪。


 


爆発。


 


 


物理法則に挑戦していた。


 


完全に。


 


 


幸せそうだった。


 


 


責任感がないとも言う。


 


 


たぶん。


 


 


茜。


 


片目を開ける。


 


 


もう片方。


 


開かない。


 


 


目やにだった。


 


 


手伝ってもらった。


 


自分の手に。


 


 


成功。


 


 


十秒くらい。


 


天井を見る。


 


 


何も考えていない顔。


 


 


まだ。


 


脳が起動していなかった。


 


 


そのまま。


 


のびーっ。


 


 


ゆっくり。


 


 


罪悪感ゼロ。


 


 


「はぁぁぁ……」


 


 


幸せそうなため息。


 


 


「仕事がない朝って」


 


 


「こんなに気持ちいいんだぁ……」


 


 


もう一回伸びる。


 


 


両手。


 


 


ひとでみたいだった。


 


少し。


 


 


「目覚ましなしで起きるのって最高……」


 


 


沈黙。


 


 


返事。


 


なし。


 


 


でも。


 


 


何か変だった。


 


 


ものすごく。


 


 


茜。


 


瞬き。


 


 


時計を見る。


 


 


目覚まし時計。


 


 


真っ黒。


 


 


画面。


 


消えている。


 


 


電池切れ。


 


 


「……」


 


 


沈黙。


 


 


そして。


 


 


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 


その頃――


 


数駅先。


 


中瀬俊介。


 


朝食中だった。


 


 


スーツ。


 


 


髪。


 


きっちり。


 


 


姿勢。


 


まっすぐ。


 


 


右手。


 


コーヒー。


 


 


左手。


 


新聞。


 


 


いつも通り。


 


 


何も変わらない朝。


 


 


中瀬。


 


時計を見る。


 


 


「電車まで」


 


 


「あと七分」


 


 


落ち着いていた。


 


 


ものすごく。


 


 


駅。


 


家のすぐ隣だった。


 


 


便利だった。


 


 


とても。


 


 


その頃。


 


望月家。


 


 


「ズボンはぁぁぁぁぁっ!?」


 


 


絶叫。


 


 


朝から。


 


 


元気だった。


 


 


近所迷惑なくらい。


 


 


茜。


 


廊下へ飛び出す。


 


 


手には。


 


スラックス。


 


 


敵を見る目だった。


 


 


「なんで夏なのにぃぃぃぃっ!!」


 


 


怒り。


 


 


ズボンへ。


 


 


完全に八つ当たりだった。


 


 


政府へ行く。


 


 


だから。


 


 


正装。


 


 


必要。


 


 


でも。


 


 


真夏。


 


 


暑い。


 


 


つまり。


 


 


地獄だった。


 


 


茜の中では。


 


 


陰謀だった。


 


 


政府の。


 


 


たぶん。


 


 


着替える。


 


 


ものすごく嫌そうに。


 


 


コーヒー。


 


掴む。


 


 


パン。


 


掴む。


 


 


チョコ。


 


たっぷり。


 


 


自分へのご褒美だった。


 


 


昨日。


 


 


色々あったので。


 


 


時計を見る。


 


 


「……」


 


 


もう一回見る。


 


 


「え?」


 


 


そして。


 


 


「あと七分ぅぅぅぅぅぅっ!?」


 


 


理解した。


 


 


遅刻だった。


 


 


完全に。


 


 


朝ご飯。


 


 


終了。


 


 


一口も食べない。


 


 


バッグ。


 


 


パン。


 


 


両方持つ。


 


 


玄関。


 


 


飛び出した。


 


 


階段。


 


 


どたどたどたどた。


 


 


高校生二人。


 


 


登校中。


 


 


「あっ!」


 


 


「望月先生!」


 


 


茜。


 


止まらない。


 


 


「早く学校行きなさーーい!!」


 


 


走りながら。


 


 


全力で。


 


 


二人。


 


 


笑う。


 


 


この町では。


 


 


望月茜。


 


 


有名人だった。


 


 


どう説明すればいいのか。


 


 


誰も分からない。


 


 


でも。


 


 


みんな好きだった。


 


 


何となく。

 


駅。


 


ホーム。


 


中瀬。


 


電車へ乗る。


 


 


七分前。


 


 


余裕だった。


 


 


バッグ。


 


肩に掛ける。


 


 


立ち位置。


 


決める。


 


 


完璧だった。


 


 


毎日。


 


同じ場所。


 


 


同じ時間。


 


 


同じ姿勢。


 


 


慣れていた。


 


 


その時。


 


 


扉。


 


閉まり始める。


 


 


ぷしゅー。


 


 


階段の向こう。


 


 


誰か来る。


 


 


速い。


 


 


いや。


 


 


速そうに見えるだけだった。


 


 


走り方が。


 


 


妙だったので。


 


 


望月茜。


 


 


到着。


 


 


ぎりぎり。


 


 


扉を見る。


 


 


あと少し。


 


 


閉まる。


 


 


計算。


 


 


一秒。


 


 


決断。


 


 


ゼロ秒。


 


 


「えいっ!!」


 


 


バッグ。


 


 


投げた。


 


 


目的。


 


 


扉を止めること。


 


 


四秒。


 


 


四秒あれば。


 


 


乗れる。


 


 


完璧な作戦だった。


 


 


……のはずだった。


 


 


バッグ。


 


 


飛ぶ。


 


 


思ったより。


 


 


ずっと飛ぶ。


 


 


その先には。


 


 


中瀬。


 


 


ちょうど。


 


 


立っていた。


 


 


ぺちん。


 


 


顔面直撃。


 


 


中瀬。


 


 


止まる。


 


 


世界も。


 


 


少し止まった。


 


 


「……」


 


 


何が起きた。


 


 


本当に。


 


 


分からなかった。


 


 


その間に。


 


 


茜。


 


 


乗車成功。


 


 


「はぁぁぁ……」


 


 


間に合った。


 


 


満足。


 


 


そして。


 


 


前を見る。


 


 


バッグ。


 


 


人の顔に乗っていた。


 


 


「あっ」


 


 


数秒。


 


 


思考停止。


 


 


「あっ」


 


 


もう一回。


 


 


「ああああっ!?」


 


 


慌てる。


 


 


ものすごく。


 


 


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 


 


バッグを取る。


 


 


顔。


 


 


現れる。


 


 


さっきの人だった。


 


 


「あぁぁぁぁっ!!」


 


 


さらに慌てる。


 


 


「ご、ごごごごめんなさいっ!!」


 


 


電車。


 


 


静かだった。


 


 


ものすごく。


 


 


だから。


 


 


茜の声。


 


 


全部響いた。


 


 


乗客。


 


 


ちらっ。


 


 


ちらっ。


 


 


ちらっ。


 


 


一人。


 


 


「しーっ」


 


 


注意した。


 


 


当然だった。


 


 


茜。


 


 


固まる。


 


 


「あっ……」


 


 


小声。


 


 


すぐ小声。


 


 


偉かった。


 


 


少しだけ。


 


 


でも。


 


 


慌てているので。


 


 


今度は。


 


 


身振り手振り。


 


 


ものすごい。


 


 


「だ、大丈夫ですか!?」


 


 


声は小さい。


 


 


動きだけ。


 


 


演劇部だった。


 


 


中瀬。


 


 


彼女の手を。


 


 


そっと下ろす。


 


 


静かに。


 


 


慣れている人の動きだった。


 


 


いや。


 


 


慣れてはいけない。


 


 


たぶん。


 


 


中瀬。


 


 


小さく頷く。


 


 


それだけ。


 


 


「大丈夫です」


 


 


言葉はいらなかった。


 


 


顔が言っていた。


 


 


『だから』


 


 


『もう静かにしてください』


 


 


茜。


 


 


「あ……」


 


 


「はい……」


 


 


一瞬で小動物になった。


 


 


そして。


 


 


二人。


 


 


並んで立つ。


 


 


同じ車両。


 


 


同じ方向。


 


 


妙な空気だった。


 


 


朝から。







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