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ヒミメグリ  作者: あじせ
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第1話 解雇を楽しめたのは、たぶんここまでだった

【速報】失業初日にパジャマで職場へ突撃!?

――望月アカネ、人生終了のお知らせを受け取り完全暴走――


映画で泣いていた。


チョコを探していた。


普通の夜だった。


……そのはずだった。


しかし。


届いた一通の手紙。


そこに書かれていたのは――


「解雇」


終了。


人生終了。


理性終了。


そして始まる――


パジャマ出勤事件。


恐竜スリッパ出動。


老人ホーム騒然。


受付さん頭痛確定。


さらにその頃――


別の場所では、


一人の男にも同じ通知が届いていた。


理由不明。


説明なし。


未来不明。


これはただの解雇通知じゃない。


二人の人生が激突する、


すべての始まり――!!


よく晴れた、ある夜。


太陽が自分の勤務時間を完全に無視して、空に居座っていた。


帰りたくない宴会客みたいに、しつこく。


望月茜の部屋では、なぜか雨が降っていた。


もちろん、本物ではない。


雨の音を流しているだけだ。


本人いわく、「その方が雰囲気に浸れる」らしい。


ただし、感情の方は。


完全に、嵐だった。


茜はクッションソファの上で小さくなり、鼻まで毛布に埋まっていた。


赤い目。

鼻水。

世界の終わりを見届けたような、打ちのめされた顔。


目の前の画面では、エンドロールが流れていた。


人間を壊すためだけに作られたような、物悲しい音楽とともに。


「いやああああ……!」


茜は鼻をすすった。


苦しんでいるアヒルみたいな声だった。


「何であんなことするの!?」


彼が何をしたのか。


それは、茜が最初の場面から知っていたことだった。


ずっと、知っていた。


その映画は、十五回くらい見ている。


それでも、毎週火曜日。


欠かさず、同じことになる。


画面が暗くなった。


五秒ほど、静かだった。


茜は立ち上がった。


そして、体のどこかでスイッチが切り替わったように、変わった。


髪が跳ねる。


さっきまで本気の涙でいっぱいだった目が、細くなる。


歯がのぞいた。


表情によっては、牙に見える、あの歯。


「やああああ!」


膝にかけていた布を、床にたたきつけた。


その小ささに、まったく釣り合わない力で。


そのまま、台所へ向かう。


きっかり三秒、何もないところを見つめた。


分析。


処理。


「私のチョコ、どこおおお!?」


そこから、家宅捜索が始まった。


引き出しを開ける。

戸棚を探る。

冷蔵庫は二回確認。

食品棚も、上から下までひっくり返す。


ない。


茜は台所の真ん中で、腰に手を当てて立ち尽くした。


宇宙のどこかを見る目。


「そんなはず……」


怖いほど真剣な声で、つぶやいた。


「間違えてトイレに流した!?」


本気で、その可能性を考えていた。


その時、玄関の郵便受けが音を立てた。


「ん?」


時計を見る。


廊下を見る。


もう一度、時計を見る。


(こんな時間に?)


扉を開けきる前に封筒をつかみ、すでに声に出して考え始めていた。


「水道代、払ってなかったっけ? それとも、ついにプロポーズの手紙? 人違いでヤクザから取り立てとか……あっ!」


目を見開く。


「高瀬さん、亡くなった!?」


封筒を破いた。


最初の一行を読む。


もう一度、読む。


解雇。


「……」


「クビ!? ど、どどどどどういうこと!?」


どこかに異界への扉でも開いたかのように、叫び声が近所中へ響いた。


紙を見る。


廊下を見る。


また、紙を見る。


そして、もう失うものなど何もない人間の、静かな決意とともに。


茜は、何も考えなかった。


正確には。


頭の中で「クビ」という声が響く以外、何もなかった。


職場へ向かった。


そのままの格好で。


パジャマで。


パ・ジャ・マ・で。


ただ、着ていたもののまま、職場へ行った。


黄色い星がついた青いパジャマは、少ししわくちゃだった。


緑色の、目玉のついた恐竜スリッパが、歩道を慌ただしくたたく。


下に着ている白いタンクトップには、何日か前のチョコの染み。


茜は、それを「模様」と呼ぶことにしていた。


外では、まだ夏の日差しが容赦なく降り注いでいた。


短パン姿の若者たちが、暑さを楽しんでいる。


女性が花に水をやっている。


カップルがアイスを食べている。


茜は怒りの形相で道路を渡った。


いっそ高瀬さんの訃報だった方がよかったと、思いかけていた。


気の毒に。


家から、五歩。


老人ホームの扉を押し開けた。


「こんばんは、もちづ――」


「受付さん」


女性が止まった。


「私の大好きな受付さん!」


茜は、犯罪の証拠品でも提出するように、両手で紙を差し出した。


「これ、何ですか!?」


受付の女性は、紙を見た。


茜を見た。


今にも爆発しそうで、泣きそうで、心臓発作まで起こしそうだった。


パジャマを見る。


スリッパの恐竜を見る。


(次の一言、慎重に選ばないと……)


まさに、その時。


廊下から、車椅子が現れた。


急ぐ理由など何もない人の、ゆったりした動きで。


「こんばんは、望月さ――」


「今はだめです、高瀬さん」


容赦のない目。


茜の中では、なぜか高瀬さんへの怒りまで生まれていた。


気の毒に。


九十歳。


この施設で、いちばん穏やかな魂の持ち主である高瀬さんは、静かに後退した。


「望月さん」


受付の女性は、手術でもするような慎重さで、手紙の上部を指さした。


「ここ……日本政府の、教育担当部門からって書いてありますけど」


茜が瞬きをした。


「……」


「どういうこと!? あのスーツの人たちが、私の大好きな仕事と何の関係があるの!?」


心の支えを求めて、高瀬さんを振り向いた。


「ですよね、高瀬さん!?」


五秒前には、容赦なくあしらわれた高瀬さん。


もちろん、茜のこの愛らしい性格には、とっくに慣れていた。


突然、弁護側の証人として呼び出された。


「そうですねえ、そうですねえ……」


人生でいろいろ見てきた人の、落ち着いた声だった。


「一度、何があったのか聞きに行った方がよさそうですね、望月さん」


「もちろん! 今から行きます!」


もう、扉を向いていた。


「望月さん」


受付の女性が、慌てて立ち上がった。


「まずは少し、頭を冷やしませんか……?」


茜が止まった。


左を見る。

右を見る。

上を見る。


スリッパの恐竜を見る。


口を尖らせた。


「……そうします」


そして、帰った。


「さようなら、高瀬さん……また、いつか」


二度と会えない人に別れを告げるような声だった。


「でも、いつでも遊びに来られますよ。向かいに住んでいるんですから」


「これで、お別れです」


芝居がかった声を残し、扉が閉まった。


部屋に戻ると、茜は神聖な儀式のような厳かさで、やかんを火にかけた。


待った。


「やっぱり、私の神聖なチョコが消えた時から――」


劇的な間。


「すべて終わりだったんだ!」


マグカップを取る。


ティーバッグを入れる。


座る。


台所には、静かな温かさがあった。


カップから、湯気が立ち上る。


そこでようやく、本当に実感した。


「ああああ、恥ずかしい!」


両手で顔を覆う。


(パジャマで行った。恐竜も履いて。夜なのに。道路を渡って。夏の日差しの中を)


拳を、反対の手のひらに打ちつけた。


自信たっぷりに。


「ヨチ! 明日、全部解決する! それで、高瀬さんにお菓子を買って帰ろう!」


一人で笑った。


町の反対側。


正確には数区画先だったが、緊迫感のためには遠そうな方がいい。


明るい仕事部屋で、一人の男が、よく似た封筒を開けていた。


眼鏡。

後ろに流した髪。

遅くまで採点をしていた人らしい、少ししわの寄ったスーツ。


中瀬俊介は、静かに手紙を読んだ。


差出人。


署名。


そして、詳しい説明もないまま、日本政府の教育担当部門の名において、教職から一時的に外れるよう告げる正式な通知。


紙を折りたたんだ。


深く息を吐く。


「……ああ」


そのため息には、いろいろなものが詰まっていた。


驚きだけは、一つもなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!♡


少しでも楽しんでいただけたら、下の☆から評価していただけると嬉しいです!

ブックマークも、続きを書く励みになります~!


(´▽`)


キャラクターデザインやイラストは、Pixivにも投稿しています!

よかったら、ぜひのぞいてみてくださいね♡


Pixiv:

https://www.pixiv.net/en/users/121622272


それでは、また次のお話で!♡

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