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ヒミメグリ  作者: あじせ
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14/48

第14話 助手席はつむぎ専用です。

【最新ニュース】老人ホームの入居者たちがピックアップトラックで夏の冒険に出発!?


―健康保険証と蚊帳を携え、危険な冒険が始まる!!―


老人ホームの駐車場。


茜は今にも壊れそうな古いピックアップトラックを運転してきた。


出発前に―


茜は全員に健康保険証を配る。


その理由は?


「万が一、死体が見つかった時のために」


そして―


高齢者たちはピックアップトラックの荷台にぎゅうぎゅう詰めにされ、地図が読めないつむぎは助手席に座らされる!


これは夏の旅行なのか?


それとも、老人ホーム全員参加のサバイバル遠征なのか!?


信じられない一日が始まろうとしている!!


隣の駐車場。


つむぎは、こんなにたくさんの車を見たことがなかった。


立ち止まって。


全部を、見ていた。


知っている世界の中に。


また、新しい世界を見つけたような顔で。


一台ずつ、違う。


色も。


形も。


完全に、見入っていた。


「どうして老人ホームの駐車場なんですか?」


中瀬が聞いた。


まだ、佐伯を支えながら。


「私の車を取りに」


「車は、ご自宅にあるんじゃないんですか?」


茜は、すぐには答えなかった。


中瀬は、待った。


なんとなく、想像はついていた。


ただ。


本人に、それを認める勇気があるのか。


そこまでは、分からなかった。


「マンションの駐車場代を払わなくていいように、老人ホームの駐車場に置いてるの」


「……」


茜は、ものすごく落ち着いて言った。


「ヨチ!!ここで待ってて!取ってくる!!」


元気いっぱいに、歩いていった。


世界中の問題を、たった今解決した人みたいに。


五分が、過ぎた。


つむぎは、姿勢を保とうとしていた。


誰にも容赦しない、日差しの下で。


お年寄りたちは、自然に待っていた。


時間のある人たちの、自然さで。


佐伯は、中瀬に支えられたまま。


静かに。


存在していた。


「どうして、こんなに遅いの?」


つむぎが、聞いた。


その時。


駐車場の奥から、音がした。


エンジン。


古い。


使い込まれている。


まだ動いてくれていることが、個人的な親切みたいに聞こえる。


そんな音だった。


茜の、小さな軽トラックが。


駐車場の角を、曲がってきた。


運転席には、茜。


窓に、肘を乗せて。


顔に収まりきらないほどの、誇らしさで。


中瀬は、かなり長い間、その車を見ていた。


反応は、なかった。


「すっごーーい!!」


つむぎには、世界でたった一つの乗り物に見えた。


いつもの、あの反応だった。


大きく開いた目。


頭より先に反応する、髪。


目の前にあるものが、今まで見た中で一番すごい。


疑いのない、確信。


「イッハーーーー!!」


茜が、運転席から叫んだ。


特に理由は、なかった。


生きていること以外には。


高橋が、宮本へ囁いた。


「……どうして独楽のまねしてるの?」


「さっきまで、落ち込んでなかった?」


宮本は、本当に不思議そうだった。


「もちすきさん、騒ぎが大好きなの……!」


つむぎが、言った。


ものすごく、自信満々に。


そして。


ものすごく、誇らしそうに。


「……」


中瀬は、反応しなかった。


「ああ、この軽トラ!懐かしいなぁ!!」


田中が、嬉しそうに言った。


昔からの友達に、再会したみたいに。


中瀬は、全体を見た。


軽トラック。


茜。


お年寄りたち。


お坊さん。


「市場で見かける軽トラみたいですね」


佐伯へ、話しかけた。


佐伯が、頷いた。


少しだけ。


心配そうに。


茜は、みんなが乗りやすいように、車をバックさせた。


荷物。


ポール。


装備。


お年寄りたちが、準備を始める。


以前にも同じことをして。


生きて帰ってきた人たちの、手際だった。


でも。


誰かが乗り込む前に。


「はい、はい、はい……ストップ!!」


茜が、軽トラックから降りた。


止まれの合図。


全員が、そのまま止まった。


ロープを握った、藤原。


スイカの袋を持った、田中。


旗を持った、つむぎ。


茜は、軽トラックの後ろへ向かった。


小さな収納箱を、開ける。


長い間、車の一部としてそこにいた箱だった。


もう、独自の人格があってもおかしくない。


中から、何かを取り出した。


全員。


沈黙。


ただ、待っていた。


「ヨチ!」


茜が、両手いっぱいに物を持って戻ってきた。


誰も、意味が分からなかった。


そして。


配り始めた。


「はい」


高橋へ、身分証。


「はい」


宮本へ。


「はい」


田中へ。


その調子で。


一人ずつ。


ものすごく重要な仕事をしている人の、真剣さで。


「何のためなの、望月ちゃん?」


藤原が、聞いた。


秘密任務の一部なのか、確認したかった。


「何かあって、遺体が見つかった時に――」


「縁起でもないこと言わないで、茜ちゃーーん!!」


「まだ終わってません!!」


今の言葉を、誰かが理解しきる前に。


茜は、次へ進んだ。


「はい!!高橋さん、日焼け止めを塗ってください!」


チューブを、差し出す。


高橋が、見た。


よく、見た。


そして。


「いやーーーー!!」


「塗らないとダメです」


「塗らない!」


「塗ります!」


「私は色黒だから、いらないの!」


「真っ白ですよ!!」


「白くない!」


「白いです!」


「そんなの、顔に塗りたくない!」


「ほとんど肌の色です!!塗ってくださーーい!!」


近所中に、聞こえていた。


耳に問題があるわけではない。


ただ、叫ぶおばあさん。


そして。


普通に、普通ではない若い女性。


八十歳を超えたおばあさんが。


三十歳くらいに見える女性と。


子どもみたいに、言い争っていた。


茜が、前へ出た。


田中と宮本が、高橋の腕を押さえた。


似たような場面を、すでに何度も経験した人たちの諦めで。


「ヨチ」


茜は、あの顔をした。


三秒で、戦争に勝った人の顔。


高橋は、敗れた。


そして。


白かった。


ものすごく。


白かった。


「虫よけも、つけてください!」


次の指示。


全員が、つけた。


兵士みたいに。


質問は、なかった。


命令が来た。


それだけだった。


中瀬は、佐伯につけてあげた。


物事を片づけることに慣れた人の、手際で。


佐伯は、静かだった。


いつも通り。


でも今回は、少しだけありがたそうだった。


「佐伯さーーん!!」


茜が、呼んだ。


佐伯が、わずかに驚いた。


『……?』


「ちょっと待ってくださいね……」


茜が、収納箱を探した。


「あった!!」


差し出したのは。


ベレー帽。


佐伯は、帽子を見た。


茜を見た。


騒ぎにならないように、受け取った。


「日焼けしないようにです!」


かぶった。


似合っていた。


予想外に。


とても、似合っていた。


暑さが、もう限界だった。


「茜ちゃん!!もういいでしょ、行こうよ!!」


「待って」


茜が、振り向いた。


まだ、頭の中で何かを確認している目だった。


十秒ほど。


そのまま、立っていた。


いつも、何かを忘れた気がする人。


でも。


実際には、何も忘れていない。


あの種類の人だった。


「……」


そして。


「ヨチャ!!遊びに行こう!!」


「行こう!!」


「出発!!」


「やっとだ!!」


「やったぁ!!」


つむぎが、嬉しそうに跳ねた。


背中の漁網も、一緒に跳ねた。


完全に、場違い。


でも。


完全に、ここにあるべきものだった。


場面は、変わって。


軽トラックが、揺れていた。


何年も前に、舗装から忘れられたような道で。


満員。


完全に。


満員だった。


荷台には、お年寄りたちと中瀬。


選択肢はなかったけれど、工夫してどうにか座っていた。


佐伯は、ベレー帽をかぶって。


いつも通り、落ち着いていた。


藤原は、念のため。


すでに、どこかへロープを結びつけていた。


前の車内には。


運転する、茜。


古い軽トラックに慣れた運転手の、集中した目で。


道を見ていた。


そして。


つむぎ。


助手席。


膝には、地図。


何も、分からなかった。


記号も。


線も。


縮尺も。


でも、両手でしっかり持って。


重要な責任を任された人の、真剣さで。


前を見ていた。


茜の姿勢を、まねしていた。


そっくり、そのまま。


同じ肩の角度。


少し上がった、顎。


遠くを見つめる、目。


軽トラックが、道の上で少し跳ねた。


中瀬が、車内へ続く小さな窓を開けた。


「これ、違法だって分かってますよね」


天気の話みたいな、平坦な声だった。


茜は、振り向かなかった。


「つむぎ」


つむぎは、続きが来る前に理解した。


「つむぎちゃん、窓を閉めて」


「はい」


閉めた。


中瀬の、目の前で。


中瀬は、閉じた窓をしばらく見た。


反応は、なかった。


佐伯の隣へ、座り直した。


全部を見ていた高橋が、言った。


遠い出来事を、思い出すような声で。


「ああ……うちの主人も、何にでも口を出してたわねぇ……」


中瀬は、自分への当てつけなのか分からなかった。


続きを、待った。


「私も、よくあの人の目の前でドアを閉めたものよ……」


小さく、笑った。


懐かしくなる前には、幸せだった。


そんな思い出から出てくる、笑いだった。


「……それで、ご主人は生き延びたんですか?」


中瀬が、聞いた。


高橋は、ものすごく落ち着いて答えた。


「ううん。死んじゃった」


中瀬の顔が、曇った。


藤原が、心から笑った。


悪意は、まったくなかった。


人生全体を、面白がっている人の笑いだった。


中瀬は、座っていた。


理解しようとした。


ポケットから、煙草を出した。


火を、つけた。


軽トラックは、誰もいない道を揺れながら進んでいた。


助手席の窓からは、つむぎの漁網が見えていた。


ベレー帽をかぶった佐伯は、遠くを眺めていた。


茜が、ラジオをつけた。


音楽が、流れ始める。


お出かけは。


まだ、始まったばかりだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!♡


少しでも楽しんでいただけたら、下の☆から評価していただけると嬉しいです!

ブックマークも、続きを書く励みになります~!


(´▽`)


キャラクターデザインやイラストは、Pixivにも投稿しています!

よかったら、ぜひのぞいてみてくださいね♡


Pixiv:

https://www.pixiv.net/en/users/121622272


それでは、また次のお話で!♡

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