↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/46

第13話 誰も止められなかった。

【緊急遠征】平均年齢高めの登山隊、まさかの出発決定!?ツムギ隊長、世界一高い山を目指します!!


— 老人ホーム。


今日の目標は、


安全。

平和。

誰もケガをしないこと。


……のはずだった。


三年前の思い出話から飛び出した一言。


「ハイキングに行こう!」


しかも参加者は――


やる気満々のお年寄りたち。

すでに完全装備。

そして、謎の旗を掲げるツムギ隊長。


目的地は近所の公園。


しかし本人たちの気分は、


世界最高峰への大遠征。


止める中瀬。

諦める明音。

勝利する民主主義。


こうして軽トラックは、


夢と希望と大量の荷物を乗せて――


今日も元気に出発します。



老人ホームで、一番にぎやかな部屋。


間違いなく、一番うるさくて。


一番おかしな部屋が。


今。


静かだった。


ものすごく。


静かすぎた。


心配になるくらいに。


そして、この沈黙が意味することは。


ただ一つ。


全員が、同じ答えを待っていた。


「今日は、何して遊ぶの?」


茜は、考えた。


今度は、本当に。


『一日中、楽しめることじゃないと……』


『でも、誰も怪我しないやつ』


『料理?』


『ダメ』


『ゲーム?おもちゃ?美容サロン?』


『あぁぁ……もう……』


何も、思いつかなかった。


創造力。


不在。


宮本が、首を傾げた。


「前みたいなことをしたらどう?」


茜の顔が、少し固まった。


「あの……三年前の……?」


特定の出来事に、傷つけられた人の顔だった。


「そう!!あれよ!」


「ああ、忘れられないわねぇ!!」


高橋が、嬉しそうに会話へ入った。


よく覚えている人の声だった。


「忘れられない……」


茜は、あの日からずっと。


忘れようとしていた。


つむぎが、袖を引いた。


「もちすきさん、何があった日?」


「ふ、船が……ひっくり返った日……」


部屋に、小さな笑いが広がった。


一斉に。


佐伯以外。


三年前には、まだここにいなかった。


物語の途中から参加した人の落ち着きで、みんなを見ていた。


「バ、バランスを崩しただけです!!それだけ!!」


茜は、必死に弁明した。


「そうだったねぇ。望月ちゃん、かわいそうに……」


田中が、優しく頷いた。


「そもそも!!」


茜は、勢いよくポーズを取った。


劇的に。


深い怒りを込めて。


「全部、藤原さんのせいですからね!!」


「私ぃ!?」


藤原が、目を丸くした。


突然の攻撃だった。


「でも、一番楽しかったのは船じゃないでしょ!?覚えてない!?」


高橋が、場をなだめようとした。


沈黙。


誰も。


船で起きた、面白くて悲惨な出来事以外。


覚えていなかった。


「……何を言ってるんだろう」


田中が、ぽつり。


「小さな川のことしか思い出せないわ……」


宮本も、首を傾げる。


「別の日と混ざってるんじゃない?」


藤原にも、心当たりがなかった。


三人が、顔を見合わせた。


年齢のせいかもしれない。


別の出来事と、混ざっているのかもしれない。


高橋が、叫んだ。


「その川まで、歩いて行った時よ!!」


どんっ。


全員の記憶が、同時に戻った。


目が、輝いた。


元気が、増した。


藤原が、立ち上がった。


宇宙から直接、任務を受け取ったみたいに。


茜は、始まる前から諦めた。


「ハイキングに行こう!!」


「ちょっと待っ――」


止めようとした。


でも。


もう、何をしても無駄だった。


遅すぎた。


部屋の隅にある、謎の戸棚。


必要な時には何でも出てきて。


必要ない時には、存在すら知らなかったものが出てくる。


あの種類の戸棚が。


元気いっぱいの、四組の手で開けられた。


茜は、部屋の真ん中に立っていた。


深呼吸。


『つむぎちゃんに、全部の登山道へ木を倒してもらえば!!』


『日本中の空に、嵐を起こしてもらえば――』


自分で、自分を止めた。


『能力、使っちゃダメなんだった……』


しゅうう……。


がっかりして、しぼんでいく風船みたいだった。


その隣に。


中瀬が、現れた。


幽霊みたいに。


すでに、スマホを持っていた。


文字を打つ。


何も言わずに、茜へ画面を向けた。


『八十歳以上の高齢者にしてはいけないこと』


中瀬が、囁いた。


「ハイキングは、八十歳以上の方にしてはいけないことの上位三つに入っています」


茜は、画面を見た。


横を向いた。


唇を、尖らせた。


「……みんなが決めたんだもん」


中瀬は、反応しなかった。


その時。


こほんっ。


誰かが、咳払いした。


二人が、振り向いた。


つむぎだった。


準備が、できていた。


四人のお年寄りの前に立って。


手には、旗。


どこから出てきたのか。


誰も、知らなかった。


目は。


任務を引き受けた人の目だった。


その後ろの四人も、同じ顔をしていた。


何が来ても、立ち向かう。


つむぎは、ハイキングが何なのか、よく分かっていなかった。


でも。


その概念には、全力で参加していた。


「ヨチ!!」


旗を、掲げる。


「世界で一番高い山の頂上に着いたら……ここに立てます!!」


半秒。


沈黙。


中瀬が、言った。


「子どもにしては、ずいぶん真剣な声ですね」


佐伯に、選択肢はなかった。


茜にも。


なかった。


茜は、目の前の光景を見た。


旗を持つ、つむぎ。


遠征に向けて装備を整えた、四人のお年寄り。


佐伯を支える、中瀬。


五分で、世界中の登山道を潰すことはできない。


受け入れるしか、なかった。


『でも、まだ邪魔はできる……へへへ』


茜は、あの顔をした。


少し間の抜けた。


少し悲しそうな。


計算し尽くした顔。


「でも……どうやって、そこまで行くんですか……?」


これで、行けなくなるはずだった。


「茜ちゃんの車!!」


高橋が、叫んだ。


要求だった。


質問する前から答えを知っていた人の、自然さで。


茜の目に残っていた輝きが。


その瞬間。


消えた。


つむぎは、もう出口へ行進していた。


旗を持って。


受付に着いた。


受付の女性が、顔を上げる。


「……え、何――?」


先頭は、つむぎ。


立派な、七十センチ。


背中には、漁網。


顔には、カラフルなスポーツサングラス。


お年寄りたちを率いていた。


堂々と。


そのすぐ後ろ。


高橋は、九十年代の帽子をかぶっていた。


紀元前の。


手には、懐中電灯。


昼だった。


トレッキングポールも、使っていた。


前髪が邪魔にならないように、ヘアバンドまでつけていた。


その隣を、宮本が歩く。


背中には、大きなリュック。


中身は。


水だけ。


腰には、武器でも入れていそうなポーチ。


でも。


片方のポケットには、日焼け止め。


もう片方には、虫よけ。


そして、もちろん。


二〇〇〇年代の、革のブーツ。


まだまだ、現役だった。


隣の藤原は、ものすごく真剣だった。


つむぎと、よく似た目をしていた。


どんな試練でも、受けて立つ。


軍服。


手には、ロープ。


襟元には、偽物の政府スパイのバッジ。


準備は、万全だった。


続いて、田中。


つむぎとお揃いの、サングラス。


日焼け止めで、真っ白な顔。


シャツのポケットには、家族写真。


戦争へ行く人が、持っていくみたいに。


さらに。


首からは、白い本格的なカメラが下がっていた。


そして、その後ろ。


佐伯が、中瀬に支えられて歩いていた。


中瀬は、佐伯よりかなり大きかった。


片腕で、佐伯を支えながら。


口には、煙草。


火は、ついていなかった。


つける時間が、なかった。


最後は。


茜。


手に、車の鍵。


顔は。


民主主義に敗れた人の顔だった。


四人のお年寄り。


一人の子ども。


勝てなかった。


受付の女性は、何も言わなかった。


ただ、目で行列を追った。


『……本当に、またやるんですね?』


答え。


やる。


本当に。


また、やる。

読んでいただき、本当にありがとうございます~!!♡♡


もしこの作品で少しでも笑顔になっていただけたら、★で応援していただけると、とっても嬉しいです!


皆さんからいただく評価は、

「もっともっと面白い作品を作りたい!」

と思える大切な励みになっています


(´▽`)


Pixivではキャラクターデザインやイラストも投稿しています!


Pixiv:

https://www.pixiv.net/en/users/121622272


また次回もよろしくお願いします~!!♡♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。