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ヒミメグリ  作者: あじせ
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12/48

第12話 「お願いします」も言えるようになりたい!

【事件】はじめての自己紹介!?ツムギ、お年寄りたちとの“ほっこり初対面”が開幕!!


— 「よろしくお願いします。」


たった一言。

でも、それはツムギにとって大きな一歩だった。


初めてのお年寄りたちとの出会い。

照れ屋なおばあちゃん。

元お坊さんのおじいちゃん。

そして、相変わらず大騒ぎの明音。


髪の色は今日も自由奔放。

中瀬は今日も冷静。

ツムギは今日も一生懸命。


少しずつ広がっていく、

優しくて、あたたかい世界。


これは戦いの物語じゃない。


――"家族"が少しずつ増えていく日の物語。


茜は、最初のおばあさんの前へ進んだ。


テレビ番組の司会者みたいな勢いで。


「こちらは、高橋千代子さんです!!」


「こんにちはぁ!!よろしくねぇ!!」


高橋は、両手をぱたぱた振った。


嬉しそうだった。


ものすごく。


感情が全部、顔に出る人だった。


そして今、出ているのは。


喜び。


隠す気も、隠せる気配もなかった。


茜は、半円に並んだ椅子に沿って、次のおばあさんへ。


「こちらは、宮本鈴江さん!」


宮本は、控えめに顔を上げた。


紹介されることに、あまり慣れていないらしい。


「宮本さんは、すっごく器用なんです!!」


つむぎは、瞬いた。


知らない言葉。


また一つ。


中瀬は、宮本を見た。


それから、部屋を見た。


『器用な人が、どうしてこの部屋に……』


まだ、この部屋の仕組みを理解できていなかった。


「そんなこと言わないで、茜ちゃん……」


宮本の頬が、赤くなった。


肩まで、小さくなる。


でも。


茜は止まらない。


「本当ですよ!!先月、私にすっごく綺麗なラグを作ってくれたんです!!」


目が、きらきらしていた。


自分のラグに恋をしている人の目だった。


中瀬は思った。


『……ラグに?』


つむぎが、茜の袖を引いた。


「茜さん、器用って何?」


中瀬が、口を開きかける。


しかし。


茜の方が、早かった。


「宮本さんのこと!!」


宮本が、さらに赤くなった。


つむぎは、真剣な顔で確認する。


「宮本さん、器用?」


「そう!!器用な人っていうのは、宮本さんのこと!!」


「分かった!宮本さんは器用!」


「そう!」


「宮本さんは器用!」


「そう!!宮本さんは器用!!」


中瀬は、床を見た。


説明が、一歩も進んでいなかった。


宮本は、どこを見ればいいのか分からなくなっていた。


「もう、やめて……」


顔。


真っ赤。


でも、二人は続けた。


十秒ほど。


宮本の中で、行き場を失った恥ずかしさが膨らんで。


つい。


そばの壁に、手を当てた。


軽く。


本当に、軽く。


ぱきっ。


壁に、ひびが入った。


「……」


「……」


沈黙。


中瀬は、ひびを見た。


宮本の手を見た。


もう一度、壁を見た。


「宮本さん、怪我してない!?」


「鈴江さん、気をつけて!!」


高橋が、慌てて立ち上がろうとした。


なかなか立てない。


別のおばあさんは、もう立っていた。


「すっごいわね、鈴江さん!!」


宮本も、立っていた。


胸に手を当てて。


『またやってしまった』


という顔で。


「長く仕事してきたけど、こんなの初めて見たわ!」


「皆さん、ごめんなさい……!」


壁を壊したというより。


重大な罪を犯したような謝り方だった。


みんなが、宮本の周りに集まった。


大丈夫かと聞く人。


手を確かめる人。


壁を見て、なぜか感心している人。


長年、一緒に過ごしてきた人たちの動きだった。


茜は、その輪の外にいた。


特に驚いていなかった。


驚く必要が、なかったらしい。


その時。


高橋が、宮本の耳元へ顔を寄せた。


「鈴江さん……今がチャンスよ」


「……何が?」


「ほら、あちらの。かっこよくて、筋肉もある方に、抱っこしてもら――」


「もう、大丈夫そうですね」


落ち着いた声が、割って入った。


二人のおばあさんが。


同時に。


残念そうな顔になった。


そこにいたのは、一人のおじいさんだった。


いつの間に。


この部屋にも、落ち着いた人がいたらしい。


おじいさんは、三人へ向き直った。


そして、丁寧にお辞儀をした。


年齢からは想像できないほど、綺麗な動きだった。


「田中源蔵と申します」


穏やかに笑う。


「よろしくね、お嬢ちゃん」


つむぎも、笑った。


嬉しくて。


髪が、緑になった。


ものすごく。


緑に。


「緑!?」


茜が声を上げた。


まるで、初めて見たみたいに。


中瀬は、深く息を吸った。


茜は、つむぎの前へ駆け寄る。


「つ、つ、つむぎちゃん!!」


つむぎは、自分の髪を見た。


「あっ」


それから、慌てた。


「ご、ごめんなさい!!」


集中。


眉を寄せる。


頬を膨らませる。


目を、ぎゅっと閉じる。


ものすごく頑張っていた。


髪は。


緑のままだった。


高橋は、その顔を見ていた。


胸の奥が、きゅうっとなる。


『うちの孫も、このくらいの頃……』


思い出して。


ますます、顔が緩んだ。


中瀬は、つむぎをしばらく観察した。


それから。


「望月さん」


「はい!?」


「髪の色は……つむぎちゃん自身の性質なんだと思います」


「え!?」


「自分で操る能力ではないのかもしれません」


つむぎは、まだ頑張っていた。


とても。


とても頑張っていた。


中瀬が、その肩を軽く叩いた。


「大丈夫。もうやめていいよ」


つむぎが、目を開ける。


お年寄りたちは、興味深そうに見ていた。


不思議そうではある。


でも。


長く生きてきた人たちだった。


簡単には、大騒ぎしない。


一人を除いて。


茜は、半秒だけ目を閉じた。


『分かってた』


「藤原さん……」


「すっごーーーい!!」


藤原が、走ってきた。


八十八歳。


走ってきた。


つむぎは、少し後ずさった。


勢いが、すごかった。


中瀬が、ぽつり。


「八十八歳で走れる方がすごいです」


藤原は、指先でつむぎの髪を確かめた。


「色が変わるの!?本物みたいね……かつら?緑には意味があるの?あっ、暑いと――」


「藤原さん」


田中が、控えめに咳払いした。


「あっ。そうね」


藤原は、二歩下がった。


思い出したように、姿勢を整える。


「藤原佳代です!つむぎちゃん、会えて嬉しいわ!!」


つむぎは、藤原を見た。


茜を見た。


もう一度、藤原を見た。


田中が、小さく笑った。


そして、改めてつむぎへ向き直る。


この人の周りだけ。


時間が、ゆっくりだった。


「つむぎちゃん。社会性を身につけたいんだね」


つむぎが、固まった。


『ミッションを知ってる!?』


茜も、固まった。


『田中さんも、超能力者!?』


思考が走る。


『それとも、政府のスパイ!?』


さらに走る。


『私たちの任務を確認しに来た!?』


止まらない。


『もしかして、本当はおじいさんじゃない!?』


そして、なぜか。


『政府、絶対お金払ってくれないじゃん!!』


中瀬の顔は、変わらなかった。


『見てれば分かるだろ』


それだけだった。


つむぎは、何と答えればいいのか分からなかった。


優しく話しかけられているのに。


緊張で、言葉が出ない。


田中は、すぐに気づいた。


「緊張しなくていいよ」


声も、ゆっくり。


「基本の挨拶を覚えに来てくれて、嬉しいんだ」


周りの人たちも、頷いた。


急がせない。


待ってくれる。


つむぎが、言葉を見つけるまで。


田中は、少しだけ身をかがめた。


「こういう時はね、『お願いします』とか、『こちらこそ、よろしくお願いします』って言うんだよ」


つむぎは、真剣に聞いた。


「それから、相手を大切に思う気持ちを込めて、お辞儀をするんだ」


つむぎの目が、ぱっと輝いた。


「分かった!」


姿勢を整える。


「こちらこそ、よろしくお願いします!!」


ぺこっ。


必要以上に、深いお辞儀だった。


田中も、お辞儀を返した。


八十七歳。


もっと深く。


五人が、笑った。


拍手もした。


小さな子が、立派に挨拶をした。


それだけで。


十分、嬉しかった。


つむぎの頬が、桃色になった。


中瀬は、その様子を見ながら。


別の一人にも、気づいていた。


少し離れた場所に座る、おじいさん。


言葉が、ない。


動きも、少ない。


敵意は、感じない。


ただ。


三人が入ってきてから、ずっと見ていた。


一度も、目を逸らさずに。


中瀬も、見返した。


その時。


藤原が、田中へこっそり囁いた。


機密情報を伝えるみたいに。


「佐伯さんも、忘れないで」


「ああ、そうだったね」


田中が、そのおじいさんへ手を向けた。


「こちらは、佐伯宗一郎さん」


佐伯は、静かに三人を見た。


「以前は、お坊さんだったんだよ。今は、沈黙の誓いを立てていらっしゃるんだ」


「お坊さん!?」


茜が、驚いた。


この施設で。


五年も働いていたのに。


知らなかった。


「『手がかかりすぎるお坊さん』と呼ばれていたそうでね」


茜は、佐伯を見た。


そんなに手がかかる人には、見えない。


『……私がつけたあだ名も、そんなに悪くないのかも』


つむぎは、もう佐伯の近くにいた。


好奇心に。


ブレーキが、なかった。


「お坊さんって何?」


佐伯が、つむぎを見る。


「佐伯さん、お話ししないの?」


見ている。


穏やかに。


ゆっくりと。


「しゃべるの、嫌い?」


返事は、ない。


つむぎは、考えた。


そして。


ひらめいた。


『心を読めば分かる!』


でも。


禁止されている。


『ダメなんだった』


しかし。


知りたい。


『いいことに使うだけなのに……』


早く、社会性を身につけたい。


佐伯が、何を考えているのか知りたい。


でも、使ってはいけない。


髪が、灰色になった。


緑になった。


灰色。


緑。


茜が、首を傾げた。


「……髪、バグった?」


本気の疑問だった。


中瀬が、つむぎのそばにしゃがんだ。


低い声で。


落ち着いて。


「つむぎちゃん。佐伯さんのこと、ちゃんと尊重しよう。いい?」


つむぎは、少し黙った。


それから。


「……うん」


高橋が、両膝をぱんっと叩いた。


「さて!!」


部屋の空気が、一気に切り替わる。


「今日は何して遊ぶの、茜ちゃん!?」


五人が、茜を見た。


期待に満ちた顔で。


中瀬も、見た。


『手のかかるお年寄りと、パズルをするだけだと思っていた』


でも。


それだけでも。


すでに、かなりの情報量だった。


茜が、口を開いた。


その前に。


藤原が、話し始めた。


「茜ちゃんが、また遊びに来てくれて嬉しいわぁ!」


「前に、釣りに行ったの覚えてる?」


「茜ちゃん、船から落ちたのよね!!」


「私、忍者みたいに飛び込んだのかと思ったわ!」


「あの川、深さ六十センチしかなかったのに!」


「茜ちゃん、溺れたのよ!!」


全員が、笑った。


懐かしそうに。


楽しそうに。


みんなで持っている、いい思い出だった。


少なくとも。


茜以外には。


藤原は、腕を組んだ。


確信に満ちた顔で。


「私はスパイなのよ!いい!?」


中瀬が、茜を見た。


茜は、天井を見た。


つむぎは、二人を交互に見た。


理解しようとしていた。


『茜さん、本当に六十センチの川で溺れたの……?』


溺れた。


高橋は、まだ楽しそうだった。


「それで……」


五人が。


同時に。


少し、身を乗り出した。


まるで、一つのアンテナみたいに。


「今日は、何して遊ぶの?」

ここまで読んでくださってありがとうございます!♡


少しでも楽しんでいただけたら、下の☆から評価していただけると嬉しいです!

ブックマークも、続きを書く励みになります~!


(´▽`)


キャラクターデザインやイラストは、Pixivにも投稿しています!

よかったら、ぜひのぞいてみてくださいね♡


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https://www.pixiv.net/en/users/121622272


それでは、また次のお話で!♡

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