六等星の輝き
そして、あの日から夏休みを終え、秋になっても僕たちの約束は続いていた。
最初星のことを教えるという目的で始まった二人の約束が、父親と仲良くなるというものに移り変わってもずっと。
「お父さんが帰ってくるのは来週でしたっけ?」
もうすぐ、十二月に差し掛かり、寒さを感じる頃、彼女の誕生日を目前に控えていた。
「………………はい」
「不安ですか?」
「……そう、ですね。やっぱり、本当に嫌われていないのかということはすごく不安です」
話を聞く中で、彼女の誕生日にはお父さんが必ず帰ってくることがわかった。
そこにほとんど会話はなくても、多忙ながらも欠かさず誕生日プレゼントを渡しに帰ってくるらしい。
「忙しい中、毎年、誕生日プレゼントを直接手渡しに来るような人が兎沢さんのことを嫌ってるなんてないと思いますよ」
「そう、でしょうか?」
不安げな瞳にもう何度目かになる言葉を伝える。
嫌いな相手にそんなことはしない。最悪準備すらしないか、よくても、義務的にただ送って終わりだろう。
それに、一応どんなものかを聞いては見たが、彼女の成長に合わせてしっかりと考えられたものが送られているようだった。
言葉に反応して言葉を返す可愛らしい大きなぬいぐるみ、本物の宝石のあしらわれた綺麗なドレスや装飾品、あげくの果てには安全に過ごせるように渡されたGPSとスタンガン付きのスマートフォンなど。
どれも、愛があるように僕には感じられた。
「そうですよ。それに、このまま何もやらなければ、きっと後悔すると思います」
「……はい、そうですね。確かに、その通りです」
話していてわかったが、やっぱり兎沢さんは僕のように気持ちが内面に向かいやすい。
ただ普通に生きているだけなのに、負の記憶の方が多いように感じる。
たぶん、何もしなくてもまた後悔するのだろう。
だったら、一度試して見たほうがいい。外から見ているからこそ、そう言えるのだと思うけれど。
「報われるかは正直まだわかりません。だけど、たくさん頑張ってきた兎沢さんが報われるといいなと毎日願ってます」
「ふふっ。星にですか?」
彼女は本当に頑張ってきた。とても真面目で、帰ってからも聞いたことを復習しているからだろう。星の知識もみるみると吸収していった。
それに、今回は彼女のお父さんが少しだけ長く滞在できる予定のようで、最近では、手料理を振舞おうと頑張っていた。
手にたまに絆創膏をつけながら練習しているのが本当にいじらしくて可愛いと思う。
「いいえ。星の見えない日も、毎日願っています。こんなに、頑張っている兎沢さんの努力が実るといいなと心から思うので」
「…………東堂さんは、どうして、そこまでしてくれるんですか?」
彼女の問いが、静かな空気の中に漂う。
横を見ても、彼女はただ空を見上げているだけで、こちらを向いてはいないようだった。
「……………………似た者同士の応援をしたくなったからでしょうか。貴方の成功が、自分の自信にも繋がるかもしれないので」
考えたあげく、当たり障りのないことを伝えることにした。
彼女を困らせたくは無かったから。
「そう、ですか」
「はい」
僕は、彼女に恋をしている。それこそ、どうしようもないほどに。
何かを望んでいるならば、全力で手伝ってあげたいし、そこに理由なんか必要ない。
恐らく、自分を犠牲にするのだとしても、今の僕はそれをしてしまうだろう。
「僕は、僕のためにやっているので、兎沢さんは自分のことだけを考えてください」
「……はい」
彼女に、この重たい気持ちを背負わせるわけにはいかない。
例え断ったとしても、それを几帳面に背負ってしまうのが彼女の性格だから。
出来る限り自由でいて欲しいのだ、何にも縛られない星達のように。
「うまく、いくといいですね。そしたら、お父さんと星のことを話せるようになりますから」
「もし、うまくいったとしても、私達の関係は続きますよね?」
「………………はは、そうだといいですね。でも、もうすぐ本格的な冬もきます。今のように会うこともできないでしょう」
正直なところ、彼女とお父さんの関係が上手くいけば、もうあまり会うことはしない方がいいと思っている。
そもそも、元々の理由が星の知識があるからということなのに、それをする必要が無くなる。
「僕、冬は苦手なんです。今年は寒いし、ほとんど外に出なくなるかもしれません」
「…………そうですか」
冬は別に苦手じゃない。むしろ、空が澄んでいるし嬉々として外に出ることもある。
だけど、このままダラダラと関係を続けるべきではないと思うから。
彼女は、もっと先に進める人だ。僕なんかに関わっていていい人ではない。
「ああ、そうだ。来週は、あまり天気が良くないようなので先に渡しておきますね」
「これは?」
話を誤魔化すこともあり、後で渡すはずだったものを鞄から取り出す。
本当は、渡すべきかも迷っていたけど、最後になるかもしれないしこれくらいはいいだろう。
「手作りのプラネタリウム装置みたいなものでしょうか。上手くいけば、お父さんとの話すネタになるかもしれません」
服一つとっても、僕の望遠鏡と同じくらいするかもしれない彼女に見合えるものなんか、到底買うことはできない。
だから、せめてもの意地で手作りという付加価値をつけた。欠片も価値のないしょうもないものかもしれないけれど。
「ありがとうございます!誕生日プレゼントとして受け取ってもいいですか?」
元々はそのために用意していたものだ。それに、なけなしのお小遣いで買った彼女の誕生石を見えない場所に埋め込んでおいた。
瞳と似た色をしたターコイズ。成功の意味を込めたそれを。
「はは、そんなにいいものじゃないですから。本当のプレゼントは、お父さんから受け取ってください。これは、ただの小道具みたいなもんですよ」
「そんなことありません!とっても素敵で、本当に、嬉しいんです。そう考えちゃ、ダメ、でしょうか?」
強い視線に思わず、隣を見ると、その綺麗な水色の瞳が月明かりの中で淡く輝いていた。
「…………なら、お任せします」
「はい!ありがとうございます」
好きな女の子にそう言われて断れる男なんているのだろうか。
相変わらず、弱い自分の意志力に辟易としながら、そう答えるしかなかった。




