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初恋は、煌めく。まるでシリウスのように  作者: A
本編

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6/10

自転と公転

 自分の声が闇夜に吸い込まれ、消える。

 そして、目の前であたふたと慌てだす兎沢さんの姿を見て、僕は自分が何をしていたかに気づいた。



「え?あの、え?その、や、ええと………………」


「す、すいません!!完全に失言でした、どうか忘れてください」



 頭を深く下げて謝ると、最初彼女は見た目に分かるほど大きく驚いていたが、しばらくして、はにかむような、それでいて寂しそうな複雑な表情を見せた。



「きっと、忘れられませんよ。私には勿体ないくらいの素敵な言葉だったので」


「…………兎沢さんは、なんでそんなに自分を卑下するんですか?貴方は、僕とは違う。たくさんの可能性を持っているのに」



 彼女の噂は様々だ。だけど、ある程度共通していることもある。

 それは、優しく、美人で、お金持ちで、その上、勉学や芸術にも秀でていること。運動は得意ではないようだが、それも十分すぎるほど彼女はいろいろな物を持っているはずだ。



 たぶん、普段の僕ならこんなことは聞かない。

 だけど、どうしても気になってしまった。そんな彼女が自信を持てない理由が思いつかなかったから。


 







「……………………実は私、お母様を殺しているんです」


 

 しばらくの沈黙の後、彼女は胸に手を当て、まるで懺悔をするかのような雰囲気でそう言った。



「え?」



 殺した?誰が、誰を?、衝撃的な事実に頭が混乱し、何を言えばいいのかが分からない。

 いや、そもそも、それは本当のことなのだろうか。

 虫も殺さないような彼女が、母を殺した。それがどうしても信じられなかった。



「……嘘ですよね?」


「あはは、ちょっと語弊がありましたね。私が産まれる時、お母様は死んだんです。そして、お父様もそれを恨んでいるんでしょう。ほとんど、家には帰ってきません。仕事が忙しいのももちろん、あると思いますけど」


「そんな、それを恨むなんて」


「もちろん、直接聞いたわけじゃないんです。だけど事実、私達親子の間には、ほとんど会話なんてなくて、冷めきっているんですよ」


「…………話すのがただ苦手なわけじゃないんですか?」


「どうなんでしょうね。そもそも、ほとんど、お父様のことを知らないので。でも、一つだけ言えることは、お父様が笑った姿を私は見たことが無いということです」



 そう言うと彼女は、胸元にぶら下がっていたペンダントの蓋を開けてこちらに見せてくる。

 

 そこには、ひまわりのような明るい笑顔を浮かべた女性の横で、眼鏡をかけた線の細い男性が優し気な淡い笑顔を浮かべている写真が入っていた。


 対照的な二人ではあるが、それでもとても幸せそうなのがこれ以上無いほどに伝わってくるようだった。



「私は、産まれた時から咎人とがびとなんです。だから、さっきの言葉も正直私には過ぎた言葉で、受け取るべきではないと思っています」



 彼女の強い瞳に、明確な拒絶の意志があることがわかる。

 だけど、そんなことはあっていいのだろうか。こんな、優しい人が、自分ではどうしようもない理由で十字架を背負う。


 当然、努力しても報われないことがあるのは知っている。

 自分の力で何とかできないことがあることも。


 むしろ、それを知っているからこそ、僕は歩くのを止め、手を伸ばすことも諦めてしまっているのだから。



「…………それでも、知ろうとしていたんでしょう?お父様の趣味を、知って、近づこうと努力していたんでしょう?」



 でも、彼女は違う。咎人だと自分を追い詰め、自信を無くしていても、足掻こうとしていた。

 たとえ、それが足踏みしていただけただとしても、それでも、足を止めることは無かった。



「だったら、やっぱり兎沢さんはすごいと思います。すごく素敵で、輝いていて、見ているだけで勇気を貰えるような、そんな人です」



 明るい人や、楽しい人、そんな人を見ると憧れる。

 だけど、勇気を貰えることは無い、頑張ろうとは思えない。


 逆に、壁はどんどん高く、厚くなっていって、こうはなれないと諦めてしまう。

 僕じゃ無理だと、投げ出してしまう。



「どうか、僕に、応援させてくれませんか?貴方を引っ張るのは無理です、貴方を押すのも無理です。でも、きっと、後ろから声を出すくらいならできると思うので」



 だけど、彼女を見ると、勇気が湧いてくる。

 恐らく、似たような悩みに共感できるからだろう。


 それに、応援したくなる。自分と同じことを思い、悲しんでいる人だからこそ、出来る限りの力で助けたくなる。



「僕は、どうしても貴方の一歩を、見届けたくなりました。だから、全力で応援させてください。何でも手伝いますから」

 

 

 彼女の瞳を見つめる。想いが伝わるように、はっきりと。

 


「……………………やっぱり、東堂さんは素敵な方です。どうしてでしょうか、貴方を見ていると、私にも出来るってそう思えるんです」


「兎沢さんなら、やれます。きっと」


 

 根拠なんかない。だけど、何故かそう言い切れた。

 自分のことには全く自信なんか持てないのに。



「なら、少しだけ、頑張ってみることにします。東堂さんを信じて」


「それはダメです。自分を信じてあげてください」


「……私は、まだ、自分を信じられないんです。東堂さんがあれほど、素晴らしい言葉をくれたのに」



 お互いに自分を信じられない。

 それに、自分を信じろとも強く言えない。


 本当に不器用な二人だと思う。



「………………なら、こうしましょう。僕は、兎沢さんを信じています。だから、兎沢さんを信じている僕を信じてください」


「あははっ、それは面白いですね。じゃあ、私も東堂さんを信じているので、その私を信じてくれますか?」

 

「……はい」


「ふふっ、決まりですね。これから、よろしくお願いします」


「よろしく、お願いします」


 

 二人、不思議な約束をして、握手を交わす。


 今はまだ、自分を自分で信じることもできないけれど。

 自分を信じてくれる人がいる。ただ、それだけで、何となく歩ける気がした。

マンボウ外れて飲み会やらご飯会が増えつつありますね(笑)

遅れていますが、マイペースなので申し訳ありません。

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