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制御装置


 翌朝、僕達は遺跡に向かった。

 ジャミルが案内役として一緒に来てくれた。


 「俺も行くよ。地元だから道はわかる」


 「危なくないですか」とソータが聞いた。


 「お前たちと一緒なら大丈夫だろ」


 一方で本来の依頼人であるはずのカリムは来なかった。


 「会長はご多忙で」とナディアが言った。


 来ないだろうと思ってはいたが、多忙ではなく別の理由がある気がした。


 砂漠をひたすら歩いた。

 とんでもなく暑かった。

 アストリアでは感じることのなかった暑さだ。


 「暑い」とゼナが言った。


 「暑いですね」と僕が言った。


 「暑い……デュフ……」とソフィアが言った。


 「ソフィアさん、デュフフが弱くなっています」


 「大丈夫です……デュフフ……」


 「デュフフの元気がないですよ」


 「デュフフ……すみません……」


 ヴェインが無言で水を差し出した。


 「ありがとうございます……デュフフ」


 「少し元気になりましたね」


 「水分は大事ですね、デュフフ」


 ジャミルが「あの子、大丈夫か?」と小声で聞いた。


 「こっちに来てからずっとあんな感じです」と僕が答えた。


 「そうか……」



 遺跡が見えてきた。

 砂漠の中に、石造りの構造物が半分埋まっていた。


 入口付近に発掘の跡があった。

 かなり広範囲に掘られていた。


 「カリムの商会がやった跡だ」とジャミルが言った。


 「根こそぎ持っていったな。あいつら」


 ナディアが「……必要な調査のためです」と言った。


 「本当にそう思ってるのか?」とジャミルが言った。


 ナディアが黙った。


 不意にセンサーが反応した。


 「何かが動いています」と僕は警戒した。


 「何が動いてる?」とジャミルが言った。


 「まだわかりません。でも確かに動いている」


 「死にやすいセンサーも反応してる」とゼナが言った。


 「でも外からじゃわからない。中に入らないと」


 「行きましょう」


 入口で二手に分かれた。


 「ゼナさんとヴェインさんとジャミルさんで左側。僕とソフィアさんとナディアさんで右側」


 「了解」とゼナが敬礼をした。


 「何かあったら呼んで」


 「ジャミルさんは危なくなったら逃げてください」


 「俺を誰だと思ってる」とジャミルが笑った。


 「まあ、無理はしないよ」


 二手に分かれて進んでいく。


 僕等は右側の通路を進んだ。

 石造りの壁が続いていた。


 古い。でも頑丈だった。

 所々に装置が埋め込まれていた。


 ソフィアが「デュフフ……古代の施設ですね」と言った。


 「研究したいです」


 「今は調査優先で」


 「気になりますね、デュフフ」


 「帰ってからルカさんと一緒に調べましょう」


 「デュフフ、そうします」


 ナディアが「奥に大きな装置があります」と言った。


 「カリムの商会が入ったのはそこです」


 「案内してもらえますか」


 「はい」


 しばらく歩いた。


 ソフィアが「少し先を見てきます、デュフフ」と言って先に進んだ。


 「一人で大丈夫ですか」


 「少し奥を見るだけです、デュフフ」


 ソフィアが奥に進み、僕はナディアと二人きりになった。


 「……一つ聞いていいですか」とナディアが言った。


 「どうぞ」


 「なぜこの仕事を引き受けたんですか。金額だけで動く人には見えない」


 「レリックの仕事だから、というのが表向きの理由です」


 「裏向きは?」


 「ナディアさんが何かを隠していると感じたので」


 ナディアが「!……鋭いですね」と戸惑った反応をした。


 やはり。

 ナディアの挙動には最初から違和感があった。

 何かを隠してる――言えない何かがあるような。


 「話せますか」


 ナディアが少し間を置いた。


 「……全部は話せません。でも」


 「でも」


 「カリムが何を持ち出したか、は話せます」


 「聞かせてください」


 「この遺跡の奥に制御装置があります。カリムはそれを分解して持ち出しました。部品に貴金属が使われていたので、分解して販売しようと」


 「貴金属だけが目的だったんですか」


 「カリムはそう思っていました。でも」


 「でも」


 「部品の中に、貴金属以外の素材も含まれていました。見たことのない素材です。わたしにはそれが何かわからない」


 「ルカさんに調べてもらいます」


 通信を入れた。


 「ルカさん、聞こえますか」


 「何なのだ、急に」とルカが言った。


 「未知の素材があります。ナノマシンと関係があるか調べてもらえますか」


 「面白いのだ」とルカが即座に食いついた。


 「サンプルをこっちに送るのだ。ルカが調べるのだ」


 「わかりました」


 通信を切った。


 「カリムは普段からこんなことを?」と僕は尋ねた。


 「止めようとはしていました」とナディアが言った。


 「でも聞いてもらえなかった。それに」


 「それに?」


 ナディアが少し間を置いた。


 「……わたしには、カリムに逆らえない事情があります」


 「話せますか」


 「……以前、知らずにカリムの違法な取引に関わっていました。その証拠を持たれています」


 「知らずに、ということですか」


 「本当に知らなかった。でも証拠上は共犯です」


 「だから逆らえなかった」


 「はい」


 少し間があった。


 「でも」とナディアが続けた。


 「このまま放置すれば、もっと大きな事故になります。わたしの事情より、それの方が重要だと判断しました。だからあなたたちを呼んだ」


 「カリムの指示ではなく」


 「……わたしの判断です」


 「わかりました」


 ナディアが「……怒りませんか」と言った。


 「何にですか?」


 「わたしが全部話さなかったことに」


 「話せる範囲で話してくれましたよね」


 「……そうですが」


 「それで十分です。今は」


 奥の部屋に着いた。


 大きな装置があった。


 動いていた。


 でも不規則な動きだった。

 正常な動きではなかった。


 「これか」


 センサーが示していた。


 制御する部分が取り外されていた跡があった。

 そして。


 「……これは」


 センサーが別の情報を示していた。

 これはなかなかマズい状況だ。


 「ナディアさん」


 「どうしましたか」


 「これは制御装置がなくなると自爆するように設計されています」


 「……自爆!?」


 「古代の軍事施設です。制御装置が外れた時点で、自爆のカウントダウンが始まる仕組みになっている」


 「ということはカウントダウンが、もう」


 「始まっています」


 ナディアが「……いつ」と言った。


 「ルカさんに解析してもらわないと正確にはわかりません。でも急ぐ必要があります」


 ルカに通信を入れる。


 「自爆装置の解析をお願いします」


 「自爆装置なのだ?」とルカが言った。


 「面白いのだ」


 「面白くはないです」


 「ちゃんと急いで解析するのだ」


 「お願いします」


 「経緯を考えると制御装置の部品を取り戻して元に戻せばカウントダウンを止められる可能性があるのだ。」


 「わかりました」


 ソフィアが戻ってきた。


 「ソータさん、デュフフ。奥にも装置があります。動いています」


 「警戒システムですね」


 「デュフフ、なんか怖い動きをしています」


 「自爆が確定しているので、装置を守るように動き始めているんだと思います」


 「デュフフ……それは死にやすいですね」


 その後、ゼナたちと合流した。


 「こっちも変な装置が動いてた」とゼナが言った。


 「死にやすいセンサーが全部反応してる」


 「警戒システムでしょうね」


 「やばいやつか」とジャミルが言った。


 「やばいです」


 「どのくらい」


 「この施設、自爆します」


 全員が黙った。


 「……いつ」とゼナが言った。


 「わからないので、急ぎます」


 「死にやすいね!」


 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 とりあえず今後の方針を考えなければ。


 「まず制御装置の部品を取り戻す必要があります」


 一番自爆装置が止まる可能性が高そうなのは現状復帰させることだろう。

 制御装置がないことがトリガーならば戻せば止まるはずだ。 


 

 「制御装置はカリムが持っています」


 「素直に返すと思うか?」とジャミルが言った。


 「思いません」


 「だよな」


 「でも、返さなければ自分も困ると理解してもらう必要があります」


 「カリムはこの施設が自爆することを知らないんだな」とジャミルが言った。


 「知らないと思います」


 「知らせれば動くか」


 「……わかりません。爆発の規模がどれくらいになるかにもよるでしょう。このあたりだけが爆発するだけならシラを切るでしょうし、街までも巻き込むような大爆発だとしたら――」


 「そりゃあさすがにカリムでも素直に差し出すかもな」


 遺跡の外に出た。

 空が赤くなっていた。


 「なんとかします」と僕はみんなに言った。


 「根拠は?」とゼナが言った。


 「ここまでなんとかなってきたので」


 ナディアが「……あなたは不思議な人ですね」と言った。


 「そうですか」


 「根拠がないのに諦めない」


 「根拠がないわけではないですよ」


 「どんな根拠ですか」


 「みんながいるので」


 ナディアが「……そうですか」と言った。


 何かが少し和らいだ顔だった。


 「わたしも、なんとかしたいです」


 「一緒にやりましょう」


 ナディアが「……はい!」と言った。

 決意の宿った強い目をしていた。


 さて、中々マズい状況になってきたけど。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。

作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


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