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終戦

 

 停戦の翌日、交渉の場が設けられた。


 アストリア側は僕とレイン、ソル、が出席。

 ノルドラント側はナヴィとロザリーが出席。

 バルトスの姿はなかった。


 「バルトスは来ないんですか」と僕は小声でロザリーに聞いた。


 「レオ様のそばにいます。今は、そちらの方が大事だと思っているようで」


 「……いい変化だと思います」


 ナヴィが席についた。


 いつもの冷静な顔だった。

 でも、どこか普段と違う空気があった。


 「条件を聞かせてください」とナヴィが言った。


 「条件?」


 「停戦の条件です。賠償、あるいは資源の提供、技術の開示。何を要求されますか」


 「何も要求しません」


 ナヴィが目を見開いて固まった。


 「……はい?」


 「何も、です」


 「賠償なしということですか」


 「そうです」


 ナヴィが「……なぜですか」と言った。


 珍しく、計算ではない問いだった。


 「奪うだけでは豊かにはなれないと思っています」と僕は言った。


 「どちらかが損をする関係では、長続きしない」


 「では何を求めますか」


 「共有です」


 ナヴィが「共有」と繰り返した。


 「アストリアが研究してきた神器の技術を共有したい。ノルドラントからは奇蹟に関するノウハウを提供して欲しい。貿易という形で互いにに豊かになればいい。ノルドラントには教義の関係から神器がほとんどなかった。これから使っていけるようになればいいと思っています」


 ナヴィがしばらく黙っていた。


 「……拍子抜けです」


 「そうですか?」


 「最悪の事態を想定して来ました。何を奪われるかと」


 「奪いませんよ」


 「なぜそんなに穏やかでいられるんですか」とナヴィが言った。


 「守りたいものがあるので」


 ナヴィが「……わかりました」と言った。


 少し間を置いた。


 「わたしは奪うつもりでいました。手段が間違っていた」


 「そうですね」


 「認めます」


 珍しく、計算ではない言葉だった。


 「共有という形の方が、長期的には合理的です」


 「合理的、というのがナヴィさんらしいですね」


 「……褒めてるんですか?」


 「褒めています」


 ナヴィが少し間を置いた。


 「……ありがとうございます」


 メガネの奥の目が、少しだけ和らいだ気がした。



 交渉が終わった後、僕はロザリーと話をした。


 「アストリアに来てくれてよかったです」と僕はロザリーに言った


 「私も、来てよかったです」とロザリーが言った。


 「ただ」


 「ただ?」


 「ノルドラントに帰らなければなりません。やることがたくさんある」


 「教義の解釈を変えていく必要がありますね」


 「一人ではできませんが。少しずつ変えていきます」


 「レオはどうですか」


 ロザリーが少し笑った。


 「今のところ、バルトスとわたしの言葉を半分ずつ聞いています」


 「バランスがいいですね」


 「そうですね。あの子は賢い」


 レインが「ロザリーさん」と呼びかけた。


 「はい」


 「また会えるでしょうか」


 「会いに来ます。必ず」


 屈託のない笑顔だった。


 「次は戦場ではなく、もっと穏やかな場所で」


 レインが「楽しみにしています」と言った。


 ***************************************


 ――ノルドラント教会 教皇の間


 バルトスがレオのそばにいた。


 外の景色を二人で見ていた。


 「バルトス」とレオが言った。


 「はい、聖下」


 「もうわたしのことを奇蹟で動かさないで」


 バルトスが「……はい」と言った。


 「聖下の御意志を尊重します」


 「うん」


 「わたしが決める。バルトスは教えてくれるだけでいい」


 「わかりました」


 「あと」


 「なんでしょうか」


 「わたしを守ってくれてたのは本当だよね」


 バルトスが「……はい」と言った。


 「それはわかってる。だからいいよ」


 「聖下……ありがとうございます」


 「うん」


 レオが外を見た。


 空が広かった。


 「バルトス、戦争はもうしない」


 「……はい」


 「約束して」


 「約束します、聖下」


 バルトスが頭を下げた。


 長年の信仰の熱が、少し静かになった。


 *********************************************


 ――ノルドラント軍 訓練場


 ヴァードンが一人で訓練していた。


 奇蹟を使っていなかった。

 ナノマシンをあえて使わず、純粋な体術と筋力だけで動いていた。


 ロザリーが通りかかった。


 「また訓練ですか」


 「ああ」


 「なぜ奇蹟を使わないんですか?」


 「自分の力を知りたい」


 「……自分の、力」


 「奇蹟があったから強かったのか、それとも俺が強かったのか。答えを出したい」


 「答えは出ましたか」


 ヴァードンが「まだだ」と言った。


 「だが」


 「だが?」


 「奇蹟なしでも、俺はまだ動ける。それはわかった」


 ロザリーが「そうなのですね」と言った。


 「ソータとまた戦いたい。今度は奇蹟なしで」


 「あの人は奇蹟を使いませんよ」


 「そうだ。だから公平だ」


 ヴァードンが訓練を続ける。


 「……ヴァードン」


 「なんだ」


 「戦う理由が、戦いたいから、になってきましたね」


 ヴァードンが「……そうかもしれない」と言った。


 「神の御意志ではなく」


 「……そうだな」


 神の意思でなく、自分の意思で動く者の顔になっていた。



 夜、ルカの研究所にロザリー含む全員が集まった。


 アリアが料理を運んできた。


 「お疲れ様でーす!今日は特別メニューです!」


 「特別メニューなのだ」

 

 「ルカちゃん、準備よすぎじゃん」とゼナが言った。


 「ルカはいつでも準備しているのだ」


 食事が和やかに続いた。


 ヴェインが「……ご飯が美味しい」と言った。


 「出た!いつものヤツ!」とゼナが言った。


 「いつも美味しい」


 ロザリーが「デュフフ」と小さく言った。


 全員が止まった。


 「今何か言いましたか」とソフィアが言った。


 「なんでもないです」


 「デュフフって言いましたよね」


 「言ってません」


 「デュフフ、言いましたよ」


 「……感染ったのだ」とルカが言った。


 「感染ってないです!」


 笑いが起こって、賑やかだった。


 食事が終わった後、アリアが「連絡が入っています」と報告があった。


 「何がありましたか」


 「南方のドレイク商業連合から、使節が来るそうです」


 「商業連合?」


 「はい。神器を広く使っている地域です。古代遺跡の調査を依頼したいとのことで」


 「レリックへの依頼ですか」


 「そうです。ただ」とアリアが少し表情を変えた。


 「使節の方が、かなり急いでいるようで。明日にでも会ってほしいと」


 「急いでいる理由は」


 「詳細は直接、とのことで」


 ゼナが「死にやすいね、また何か来たよ」と言った。


 「なんとかしますよ」と僕は答えた。


 「根拠は」


 「ここまでなんとかしてきたので」


 ロザリーが「……いつ聞いても、いい言葉ですね」と言った。


 「そうですか?」


 「そうです。デュフフ」


 「言いましたね、今度は」


 「……言いました」


 ロザリーが「感染ったのかもしれません」と言った。


 「感染ったのだ」とルカが言った。


 「感染ったんですよ、デュフフ」とソフィアが言った。


 全員でもう一度笑った。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。

作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


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