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人海戦術


 ノルドラント軍の進行がはじまった。

 三方向からの同時進行だった。

 あちらの参謀のナヴィの作戦であることは明らかだった。


 「バルトスの声の範囲が前回より広いね」とゼナが言った。


 「死にやすいセンサーが前回より強い反応を出してる」


 「教皇が近くにいるということですか」


 「たぶん。なんかこう、全体的に底上げされてる感じ」


 前線を見た。


 数が違った。

 前回の比ではなかった。

 

 バルトスの演説が戦場全体に響いていた。


 「神の御加護のもと、進め!」


 声が届くたびに、兵士たちの目の色が変わった。


 「行きます」


 僕はスーツを展開した。


 一気に制圧を始めた。


 一人ずつ対処していく。


 センサーが位置を示す。

 動きを読んで、確実に無力化していく。


 でも今回は数が多かった。

 一人を対処している間に、次が来る。

 その次が来る。

 追いつかない感覚があった。


 「ソータ」


 低い声がした。


 前線の中央に、ヴァードンが立っていた。


 「待っていたぞ」とヴァードンが言った。


 「約束を果たしましょうか」と僕は言った。

 

 「邪魔なしで戦う。お前たちは下がれ」


 ヴァードンは周囲の兵士たちに向けて言った。


 兵士たちが引いた。

 一騎打ちの場が生まれた。


 ゼナが「ソータ、大丈夫?」と心配そうに言った。


 「大丈夫です」


 「死にやすいセンサーが振り切れてるけど」


 「わかっています」


 ヴァードンが動いた。


 前回と同じ、正面からの力押しだった。


 攻撃を腕で受けた。


 重かったが、今回は違った。

 力で押し返そうとしなかった。


 新たにスーツに追加したナノマシンセンサーがヴァードンの力の方向を示していた。

 その方向に逆らわず、流す。

 

 ヴァードンの力を使って、バランスを崩す。

 合気道の動きに近い。

 僕は合気道の覚えはないけど、センサーで力の向きが分かっているならコントロールできる。


 「……違う動きをしてきたな」とヴァードンが言った。


 「学習しました」


 「そうか」


 ヴァードンが力を増した。


 でも流される。


 方向が変わる。


 体勢が崩れる。


 「面白い」とヴァードンが笑みを浮かべながら言った。


 戦闘狂の目が輝いた。


 力を入れれば入れるほど、逆に崩される。


 「……なるほど」


 力だけでは通じないとわかったのか、動きが変わった。


 速さで来た。


 センサーがそれも捉えていた。


 速いだけなら読める。


 動きながら、一手ずつ対処した。


 「……やるな」


 「ありがとうございます」


 攻守が入れ替わっていた。


 ヴァードンが守りに入り始めた。


 押していた。

 完全に優勢だった。


 ヴァードンの動きが一瞬鈍った。


 今だ。


 関節を押さえる体勢に入った。

 無力化できる。

 その瞬間だった。


 べきん、と音がした。


 「ソータさん!」とソフィアが叫んだ。


 ケーブルが切れていた。


 一騎打ちの隙を狙って、別の部隊がケーブルを切っていた。


 バッテリー駆動に切り替わった。


 動きが変わった。


 ヴァードンへの制圧が、一瞬遅れた。


 制圧タイミングを逃した――


 「……ナヴィの差し金か」


 体制を立て直したヴァードンが舌打ちをした。


 「不本意だ」と漏らして、僕を見た。


 「お前の勝ちだ」


 「いえ、決着はついていない」


 「……」


 ヴァードンの目に、何かが残っていた。


 不完全燃焼の色だった。


 「次こそ邪魔なしで決着をつける」


 「そうしましょう」


 二人が離れた。


 「バッテリーが切れる前に引きます」と僕は呼びかけた。


 「わかった」とヴェインが言った。


 全員で後退を始めた。


 ノルドラント軍が追ってきた。


 「やっぱりそう来るよね~」とゼナが言った。


 「引いたら追ってくる。これも想定内だよね?」


 「そうです」


 「ルカちゃんには連絡した?」


 「もう連絡済みです」


 通信が繋がった。


 「準備はできているのだ」とルカが言った。


 「引き込んだら合図を出すのだ」


 「わかりました」


 ノルドラント軍が深く入り込んできた。


 アストリア側の陣地の中まで追ってきていた。


 ************************************************


 ――ノルドラント陣営



 ナヴィが千里眼で戦場を確認していた。


 アストリア軍が引いている。


 それをノルドラント軍が追っている。


 「……追いすぎかもしれません」


 ナヴィは小さく呟いた。


 何かが引っかかった。


 引きすぎている。


 わざと引いているような。


 前の戦いでこちらが実行した作戦をなぞられているような――


 「止まれ」と言おうとした。


 その瞬間だった。


 「今です」と声が響いた。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


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作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


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