↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/45

届かぬ声

 

――ノルドラント軍 作戦会議室



 バルトスが地図の前に立っていた。


 「アストリアの防衛ラインを突破し、王都まで進む」


 声が響いた。


 いつもの声だった。

 熱量があった。

 深い信仰から湧き上がる熱。


 「神の御加護のもと、我々は必ず勝つ。これは神の御意志だ」


 周囲の将校たちの目の色が変わった。

 バルトスの声を聞くたびに、より変化が大きくなる。

 福音の奇蹟の効果だった。


 ヴァードンが腕を鳴らした。


 「早くやり合いたいもんだな」


 「それしかないのか、貴殿は」とナヴィが言った。


 「あの鎧の男と、もう一度やり合いたい。それしか興味はねぇ」


 「機会はある」


 「いつだ」


 「戦況次第だ」


 ヴァードンが「そうかい」と言った。


 不満そうだったが、それ以上は言わなかった。


 ナヴィが地図を見ていた。

 表情は変わらなかった。


 でも内心では別のことを考えていた。

 早く決着をつけたい。


 アストリアの古代技術を手に入れたい。

 戦争が長引けば消耗する。

 短く、確実に。


 「次の動きは」とバルトスがナヴィに確認する。


 「前線を三方向から同時に押します」とナヴィが答えた。


 「アストリア軍に対応する余裕を与えない」


 「よし」とバルトスがニヤリと笑った。


 「神の御加護のもと、進め」


 将校たちが散っていった。


 会議が終わった後、バルトスがレオのもとを訪れた。


 レオは小さな部屋にいて、窓の外を見ていた。


 「バルトス」とレオが振り返った。


 「聖下」とバルトスが頭を下げた。


 「勝てる?」とレオが聞いた。


 純粋な問いだった。


 七歳の子供の問いだった。


 「神がともにあれば、必ず勝てます」とバルトスが答えた。


 声に福音の奇跡が乗っていた。

 無意識だった。


 レオの目が輝いた。


 「そうか、よかった」


 レオが笑った。

 子供らしい笑いだった。


 「聖下はご安心ください。バルトスが必ずお守りします」


 「うん。バルトスを信じてる」


 「ありがとうございます」


 優しい声だった。


 二人は信頼し合っているように見えた。

 バルトスにとって、レオは守るべき存在だった。

 利用しているつもりはなかった。


 自分の声がレオに影響を与えていることに、気づいていなかった。

 ただ、神の御意志のために戦っていると、バルトスは信じていた。


 夜、ナヴィは一人、執務室にいた。


 千里眼でアストリア側の動きを確認していた。

 レオのそばにいる間は、かなりの距離まで見える。


 ロザリーがアストリアに渡った。


 情報が漏れている可能性がある。


 「ナノマシン、か」


 ナヴィが一人呟いた。

 驚きはなかった。


 千里眼で古代システムの断片を見てきた。

 そこに記録されていたものと一致する。


 「むしろ証明されたと思えばいい」


 問題はバルトスだった。


 この情報がバルトスに届いた時、どうなるか。


 受け入れないことは明らかだ。

 暴走する可能性がある。


 「……使いにくくなるな」


 ナヴィが手元のメモに何かを書いた。

 誰にも見せないメモだった。


 ただし。


 戦争が長引けば、この情報はいずれ広まる。


 バルトスが制御できなくなった時、誰が次の主導権を持つか。


 それを考えると、今のうちに手を打っておく必要があった。


 ナヴィがメモをしまった。


 窓の外の夜空を見た。

 冷たい目だった。


 翌朝。


 ノルドラント軍にアストリア教会からの使者が来た。


 白旗を持っていた。


 使者はバルトスの執務室に通された。


 「アストリア王国の教会より、停戦の呼びかけです」


 使者が手紙を差し出した。


 バルトスが受け取り、読み始めた。


 「……奇跡の源を解析した結果、ナノマシンという古代の機械であることが判明した」


 バルトスの表情が変わった。


 「……神秘を解析することは神への冒涜ではなく、むしろ神が与えた知恵を理解する行為である」


 手紙がくしゃくしゃになっていた。


 「……この認識のもと、両国の停戦を呼びかける」


 「馬鹿にしているのか!」


 激昂したバルトスは手紙を破った。


 二つに。

 四つに。


 「神の御業を機械と呼ぶなど」


 声に奇跡が乗って、広域に響いた。

 近くにいた兵士たちの目が変わった。


 「これ以上の冒涜があるか!」


 使者が「……お返事を」と言った。


 「返事など不要だ」とバルトスが言った。


 「戦場で答える。帰れ」


 使者が退出した。


 ヴァードンが「そうこなくては」と言った。


 口元が笑っていた。


 ナヴィが黙っていた。

 少し間を置いて、床に落ちた手紙の断片を一枚、静かに拾った。


 「……やはりこうなったか」


 小さく呟いた。


 計算が変わった。


 戦争が長引けば、この情報はいずれ広まる。


 バルトスが制御できなくなった時、誰が次の主導権を持つか。


 ナヴィが手紙の断片をしまった。


 表情は変わらなかった。



 **********************************************


――アストリア王国 教会


 ノルドラントから使者が戻ってきた。


 「手紙を破かれました。戦場で答えると……」


 全員が黙った。


 「やはり、そうですか」と僕は言った。


 「予想していましたか?」とレインが言った。


 「していました。でも」


 「でも」


 「届かなかったとは思っていません。あの場にバルトス以外の人間もいたはずです。その人たちに届いた可能性はある」


 ロザリーが「……届いた人間が、いるかもしれません」と祈るような声で言った。


 「確信はありませんが」


 「それで十分です」


 ゼナが「死にやすいね、希望って」と言った。


 「どういう意味ですか?」


 「なんか、頼りないのに捨てられない感じがして」


 「……そうですね」


 「でも」


 「でも?」


 「……ソータが言うと、なんか信じられる気がするんだよね」


 ヴェインが「……次の手を考えよう」と言った。


 「なんとかします」


 「根拠は」


 「ここまで、なんとかなってきたので」


 ロザリーが「……そういう言い方、少し羨ましいです」と言った。


 「どうしてですか?」


 「根拠がなくても前を向けるのは、強さだと思うので」


 「ロザリーさんも同じですよ」


 「そうでしょうか?」


 「アストリアまで来てくれましたから」


 ロザリーが「……はい」と言った。


 少し笑顔になった。

 柔らかい笑顔だった。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。

作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。