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戦場

 

 国境付近の街は、静かだった。

 戦争前特有の静けさ。


 いつもの賑やかさがなかった。

 市場の店は閉まっていて、子供の声もしなかった。

 人々が荷物を持って、街の奥へ奥へと移動していた。


 「死にやすいセンサーが反応してる」とゼナが言った。


 「どのくらいですか」


 「まだ遠い。でも確実に来てる」


 ピリピリした空気を感じながら、僕達は前線に向かった。


 前線につくと、フレイヤが騎士団を率いていた。


 いつもと様子が違った。

 レリックに来る時のフレイヤではなかった。

 完全武装の騎士団長だった。


 凛とした立ち姿だ。

 赤みがかった長い髪が風になびいていた。

 目は前線を見据えていた。


 「フレイヤさん」と声をかけた。


 「ソータ」とフレイヤが振り返った。


 少し間を置いた。


 「かっこいいですね」


 フレイヤが固まった。


 「……え」


 「騎士団長として立っているフレイヤさんは、かっこいいと思います」


 フレイヤの頬が赤くなった。


 「……な、なんですの、突然」


 「思ったので言いました」


 「そういうことを、急に」


 「おかしかったですか」


 「おかしくはないですわ、でも」


 フレイヤが「もう、ですわ」と言った。


 顔を前線に戻した。

 でも耳が赤くなっていた。


 ゼナが「死にやすいよ、ソータの無自覚が」と小声で言った。


 「何がですか」


 「なんでもない!!」


 *******************************************


 ――ノルドラント軍陣営



 バルトスが兵士たちの前に立っていた。


 「神の御加護のもと、我々は進む!」


 声に奇蹟が乗っていた。


 福音のバルトスの由来となった、バルトスの持つ奇蹟。

 その声は聞いたものの士気を増幅させる。 


 広域に声が響いた。


 聞いた兵士の目が変わっていく。

 肩の力が入る。

 奇蹟の出力が上がる。


 「神秘を冒涜する者どもに、神の裁きを」


 兵士たちが応えた。

 バルトスの声は本物だった。

 狂信とも言える信仰。


 ヴァードンが腕を鳴らした。


 「早く戦場に行きてぇな」


 「焦るな」とナヴィがなだめた。


 「予定通りに進む」


 「なんか知らんがとてつもなく強い奴が来るんだろう?」


 「来るはずです」


 「なら早い方がいい」


 ナヴィが「焦る必要はない」と苦々しくもう一度釘を差した。


 「情報は揃っています」


 ヴァードンが「そうかい」と言った。


 好戦的な目が前線に向けられていた。


 *******************************************


 ――アストリア王国陣営



 ノルドラント軍が動いた。


 炎が来た。

 氷が来た。

 雷が来た。

 風が来た。

 複数の属性の奇跡が同時に飛んでくる。


 バルトスの演説効果で出力が底上げされていた。

 フレイヤが炎の奇跡で応戦したが、数が違いすぎる。


 騎士団が後退し始めた。


 「押されていますわ」とフレイヤが言った。


 フレイヤにしては珍しい余裕のない声だった。

 じわじわと追い詰められていた。


 ゼナが「ソータ」と呼びかけた。

 いつもと違う声だった。


 「センサーが、フレイヤさんに反応してる」


 「どういう意味ですか」


 「……死にやすい。すごく死にやすい。物理的に、今すぐ」


 センサーが仲間の危機を拾っていた。


 前線を見た。


 フレイヤが複数の奇跡に囲まれていた。

 炎で応戦しながら、氷と雷を同時に受けようとしていた。


 「……助けに行きます」


 このままではまずい。

 僕の勘が考えるより先に体を動かしていた 。


 「全員下がってください」


 一気に前に出た。

 スーツを展開した。


 フレイヤが「ソータ!?」と驚きの声を上げた。


 「後ろにいてください」


 センサーに情報が流れる。


 敵の数、位置、奇跡の属性、動きのパターン。


 炎は熱源として。

 氷は温度変化として。

 雷は電磁波として。

 全部センサーに映った。


 すべての攻撃を高速で避けながら、一人ずつ制圧した。

 倒すのではなく、動けなくする。

 関節を押さえる、意識を失わせる。

 殺さずの無力化。


 「なぜ効かない」という声が上がった。

 「神秘が通じない!?」という声も上がった。


 突然の圧倒的武力の出現にノルドラント軍はパニックになった。

 ほどなく、ノルドラント軍の前線が崩れ始め、撤退の合図が鳴った。


 静寂が落ちた。


 フレイヤが呆然と見ていた。


 「……また、助けられてしまいましたわね」


 「無事で良かった」


 「鎧ですの?」


 「鎧です」


 「体術ですの?」


 「体術です」


 フレイヤが「……もうなんでもいいですわ」と言った。


 

 少し間があった。


 「……ありがとうございます、ソータ」


 「どういたしまして」


 フレイヤの頬が赤かった。

 先ほどとは違う理由で。


 ゼナが「また惚れ直してるじゃん」と小声で言った。


 「そうなんですかね?」


 「どう見てもそうじゃん!!」


 ヴェインが「……問題ない」と言った。


 誰も聞いていなかったが、言った。


 **************************************


 ――ノルドラント陣営


 バルトスが「何なのだ、あれは」と驚愕の声を発した。


 動揺していた。

 演説が、止まった。


 「神秘が通じない。あのような存在が、なぜアストリアに」


 バルトスが忌々しげに拳を握る


 「神への冒涜か……神秘を否定する力を持つ者が現れたということか」


 「そういうことになりますね」とナヴィが言った。


 メガネの奥の目は至って冷静だった。


 ヴァードンが「……面白い」とニヤリと笑った。

 好戦的な目が輝いていた。


 「あれと戦いたい」


 「まだその時ではありません」とナヴィが言った。


 「なぜだ」


 「時間はあります。情報は揃っています。次の戦闘で、分断します」


 「分断?」


 「あの鎧の人間と、仲間を引き離す。それだけで十分です」


 バルトスが「できるのか」と言った。


 「それだけの手札は十分にあります」とナヴィが言った。


 

 **************************************


 ――ノルドラント陣営後方 救護室


 ロザリーが負傷した兵士の傷を癒していた。

 

 「なぜ神秘が通じなかったんだ」と兵士が呻いた。


 ロザリーには伝わっていた。

 「共鳴のロザリー」の共感能力だった。


 この兵士は「神秘が通じない者がいる」という事実に、信仰的な恐怖を感じていた。


 「神の力が否定された」という感覚。


 「神秘が通じなかったのではないかもしれません」とロザリーが言った。


 「どういうことですか」


 「あの鎧は、奇蹟ではない別の何かです。奇蹟が負けたのではなく、別の力があっただけです」


 兵士が「……そうなのか」と言った。

 

 兵士が少し楽になった顔をした。


 ロザリーは内心で考えていた。

 別の力。神秘ではない何か。


 そしてもう一つ、気になることがあった。


 あの力を持つ者は、戦場で誰も殺さなかった。


 動けなくする。

 意識を失わせる。

 無力化。

 一人も殺していなかった。


 「……会ってみたい」


 ロザリーが小さく言った。


 教会のつながりで、アストリア側と接触できるかもしれない。

 でも今は、まだ方法がなかった。


 *********************************************


 ――アストリア王国陣営


 僕は戦場から戻った夜、一人で考えていた。


 今日は勝てた。

 でも一回勝っただけだ。


 ゼナから「見られている感覚」がまだ続いていると聞いた。


 相手はこちらのことを知っている。

 どこまで知っているかはわからない。


 なんとも言えない不安感が襲ってきていた。


 でも。


 「なんとかします」


 小さく言った。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


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作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


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