↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/45

豊穣の神器 後編

 

 神器の説明は最低限にした。


 ソフィアが理解できる範囲で、禁忌に触れない言い方を探しながら。

 ソフィアは説明を聞きながら、みるみる目を輝かせていった。


 「なるほど、なるほど、デュフフ……それなら底部の刻印も納得できますし、蓋の密閉構造も……」


 「ソフィアさん」


 「はい」


 「禁忌、大丈夫ですか」


 ソフィアが少し考えた。


 表情が真剣になった。

 オタク喋りが消えた。


 「……熱を使うという説明なら問題ないです。神の恵みが熱に変換されるという解釈ができます。ただ電力に相当するものが必要という部分は、奇跡の一種として説明しないといけないですね」


 「雷の奇跡が使えますか」


 「大丈夫です。使えます」


 「それともう一つ」


 台座の奥の壁際を指した。

 ほこりをかぶった箱型の装置が、ほとんど壁と同化していた。


 「あれも関係していると思います。確認させてもらえますか」


 ソフィアが装置を見た。目が輝いた。


 「デュフフ……これは、つまり……」


 「声」


 「す、すみません」


 二人で装置に近づいた。

 しゃがんで、装置をよく見た。


 複数の端子がついていた。

 神器と同じ刻印が一部に施されている。

 端子から細い管のようなものが伸びていた。


 その先が――外れていた。


 神器の底部に繋がるはずの管が、外れていた。


 ソフィアに耳打ちした。


 「これを繋ぎ直して、雷の奇跡で電流を流せば動くと思います」


 「……それだけでですか?」


 「それだけです」


 ソフィアが少し間を置いた。


 「つまり数百年間、繋ぎ直せば動いたのに」


 「誰も気づかなかった、ということになりますね」


 つまり、あれだ。



 「コンセント抜けてませんか?」ってヤツだ。


 機械が動かないときの真相で1、2位を争うヤツ。


 ソフィアがメガネの奥の目を細めた。何かを堪えているような顔だった。


 「デュフフを堪えてます」


 「……頑張ってください」


 しばらくして、後ろから「フォカヌポゥ!」という声が響いたが、僕は聞こえないふりをした。

 結局吹き出してしまったらしい。


 依頼人の村長が青い顔でやってきた。


 「神器の使い方はわかりましたか。今年も儀式ができなければ、村は――」


 「わかりました」


 僕は村長に言った。


 ゼナとヴェインが同時に僕を見た。


 「え、わかったの?」とゼナが言った。


 「なんとなく、最初から」


 「最初から!?」


 「すぐには言えない事情があって。でも全部要件は揃ったので」


 ソフィアが「デュフフ」と笑った。


 「すぐ言えない理由を作ったのはこの世界の文化なんですけど」と小声で言った。


 「それはそう」ゼナが突っ込む。


 ヴェインが兜の奥から「……そうか」と静かに言った。


 村長を少し遠ざけてから、作業を始めた。

 装置と神器を繋ぐ管を接続し直す。


 外れているだけだった。


 本当にそれだけ。


 「準備できました。ソフィアさん」


 「はい」


 ソフィアが村長を振り返った。


 「村長、神器の復活に際して、神聖なる奇跡を行使いたします。少し離れていてください」


 「奇跡を……はい、わかりました」


 村長が数歩下がった。


 ソフィアが装置に向かって手をかざした。

 静かに、しかし確実に、雷の奇跡が装置に流れ込んだ。


 装置が唸りを上げた。

 神器の底部が赤く光り始めた。


 村長が「おお、奇跡だ……」と呟いた。


 神器の蓋を開けた。中に水と米を入れた。蓋を閉め、ボタンを押す。


 しばらく待つと、ピーッという音と共に蓋が開く。


 炊き上がった白米の湯気が、遺跡の中に広がった。


 村長が膝をついた。


 「神の奇跡だ……豊穣の神器が、食物を生み出した……先祖の伝承は、本当だったのか……」


 目に涙が浮かんでいた。


 ゼナが「普通のご飯でしょ?」と言いかけた。


 「それは言わなくていいです」と小声で止めた。


 「なんで」


 「死にやすい気がするので。社会的に」


 ソフィアが袖を引っ張った。


 「ソータさん、後で仕組みを詳しく教えてくださいですよ」


 「わかりました」


 「デュフフ」


 ヴェインが静かに「……ご飯だな」と言った。


 村長はまだ膝をついて拝んでいる。


 炊き上がった米を一口食べた。


 「……うまい」



 帰り道、村長から礼として受け取った米袋を担ぎながら、四人で村を出た。


 夕暮れの街道だった。


 「ところで」とゼナが言った。


 「接続が外れていただけってどういうこと?あの神器、ずっと動いてなかったんだよね?」


 ソフィアを見た。


 「村の外なので大丈夫ですよ」と小声で言った。


 「……そうです。接続が外れていただけでした」


 「過去に誰かが外したってこと?」


 「たぶん自然に外れたんだと思います。長い年月で」


 「それに誰も気づかなかった」


 「繋がっているはずの装置があることを、誰も知らなかったんだと思います。ほこりをかぶって壁と同化してたので」


 ゼナが少し間を置いた。


 「つまり」


 「つまり」


 「長い間、ちょっと確認すれば動かせたのに、誰も確認しなかった」


 「そういうことになりますね」


 ゼナが「死にやすいね」と言った。


 「物理的には死なないですけど」


 「精神的に死ぬね」


 ソフィアが「でも伝承は正しかったわけですよ! 穀物と水を捧げると食物になる、これは事実だった! 数百年間信じ続けた村人の勝利ですよデュフフ!」と力説していた。


 「外で言えない話が多いね、うちのチーム」とゼナが言った。


 「そういう仕事ですから」と僕が言った。


 ヴェインが前を歩きながら「……ご飯は美味しかった」と言った。


 全員が少し笑った。

 夕暮れの街道を、四人で歩いた。


 米袋を担ぎ直す。


 異世界に来て三ヶ月。


 帰る方法は、まだわからない。


 言いたいことをすぐに言えない世界で、言い方を探しながら生きている。

 それは少し面倒くさいけれど。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかなるだろう。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。

作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。