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豊穣の神器 前編

 それから三ヶ月が経った。


 異世界での生活は、なんとかなっていた。


 この三ヶ月で学んだことは多い。


 禁忌のラインがどこにあるかは、ソフィアに都度確認する。


 外では現代知識を絶対に口にしない。


 奇跡の仕組みを分析するような発言は控える。


 それさえ守れば、大丈夫だった。

 今のところ火あぶりにはなっていない。


 「なっていない」という表現をしなければならないところに、この世界の生きにくさがあった。


 ここ三ヶ月で気づいたことがある。


 遺跡の中では比較的自由に話せる。

 外部の人間がいなければ、ソフィアの判断の下でそれなりに踏み込んだ話ができる。


 チームの依頼は基本的に遺跡調査だった。

 古代の遺跡に残された遺物や遺産の使い方を調べて、依頼人に報告する。


 僕の目には、遺物の多くが古代の機械や装置に見えた。

 でもこの世界では全部「神の遺産」だ。


 三ヶ月間、僕は何度か遺物の正体に気づいた。

 でも毎回、気づいていながら言えなかった。


 言い方が難しいのだ。

 奇跡の仕組みに触れる説明は全部禁忌に引っかかる可能性がある。


 だからソフィアに耳打ちして、ソフィアが判断して、どう説明するかを一緒に考える。


 そういう流れが定着していた。


 ヴェインは相変わらず無口だ。

 ただ一度だけ、何かの拍子に兜が外れかけた時、その下に女の子の顔があることを見てしまった。


 とんでもない美少女だった。


 驚いて「あ」と言ったら、ヴェインが猛スピードで兜を直して「見てない!」と言った。

 おそらく、見ていないではなく「見るな!」と言いたかったのだろう。

 その後しばらく、ヴェインは僕と目を合わせなかった。


 詳しい事情を聞こうとしたが、やめた。

 なんとなく、聞かない方がいい気がしたからだ。



 受付嬢のアリアが依頼書を持ってきた。


「これ、今日の依頼です!よろしくお願いしまーす!」


 と、元気に依頼書を置き、また別の部署へ走っていった。


 今日の依頼は「豊穣の神器の使い方を解明してほしい」だった。


 どうやらその村には、数百年前から伝わる神器があるらしい。

 かつては儀式に使われていたが、いつからか誰も使い方がわからなくなって、今は飾り物になっている。


 最近になって作物の出来が悪くなってきたので、神器を復活させたいとのことだった。


 そういうわけで、いつものメンバーで遺跡に向かうことになった。


 「神器かぁ」とゼナが言った。


 「換金価値がありそうだね。うひひ」


 「依頼品を勝手に換金しないでくださいね?」と僕は釘を差した。


 「冗談だよ。死にやすい遺跡ではないね、今のところ」


 「罠の類や敵の気配は今のところないな」とヴェインが言った。


 「ソフィアさんは」


 「うしろ」


 振り返ると、ソフィアが通路の壁に描かれた模様を見て立ち止まっていた。

 メモを取りながらぶつぶつ言っている。


 「ソフィアさん、置いていきますよ」


 「ちょっと待ってくださいですよ、この模様が気になりすぎてデュフフ」


 「気になるのは後でいいです」


 「後でじゃ忘れちゃいます」


 「メモしてるじゃないですか」


 「メモを後で見ても感動が薄いんですよ。でゅふ!!これは初見の紋様です!興味深い!」


 僕ははぁ、とため息をついた。


 ヴェインが無言でソフィアのローブの襟をつかんで引っ張った。


 「あっ、ちょっと、引っ張らないでくださいですよ」


 「歩け」


 「歩く、歩きますからぁ~」


 ソフィアはずるずると引き摺られていった。


 こんな具合のチームではあるけれど、僕は居心地の良さを感じていた。 


 最奥部に辿り着いた。


 台座の上に、金属製の器が置かれていた。


 複雑な模様が刻まれていて、蓋がついている。

 高さは三十センチほど。

 思ったより小さく、台座だけやたら立派だった。


 僕はそれを見た瞬間、固まった。


 わかった。なんとなくではなく、それが何だか、はっきりとわかってしまった。

 元の世界でよく見かけるものに似ていたからだ。 


 問題はどう言うかだ。


 これが何かを正確に説明しようとすると、仕組みの話になる。


 仕組みの話は禁忌に触れる。

 外部に出張している状況で、うっかり口を滑らせるわけにはいかない。

 誰が聞いているかわからないし。


 ソフィアに耳打ちするタイミングを探しながら、黙って三人の調査を見ていることにした。


 「ふむふむ」


 ソフィアが神器をぐるぐると観察し始めた。


 「この形状からして内部に空間があり、何かを収納する構造デュフフ。蓋の密閉性も高い。内部で何らかの奇跡的反応を起こす器、と見ましたよ」


 的外れではない。でも正解でもない。口が滑りそうになるのを堪える。


 「神聖なる器に奇跡を宿すには、捧げ物が必要ではないか」


 ヴェインが腕を組んで言った。


 「かつての文献には穀物を捧げたという記録もある」


 「穀物、ですか」


 言いかけた。


 「そう、穀物だ。米や麦の類だろう」


 合ってる方向に向かっている。

 でも説明の仕方が問題だ。


 熱と圧力の話になる。


 禁忌に触れる気がする。


 口を閉じた。


 「死にやすくはないみたいね」


 ゼナが神器をぺたぺた触りながら言った。


 「換金するなら蓋の金属部分が価値ありそう」


 「換金する前に――」


 「ソータさん、この底部の刻印、見てくださいですよ! 何かの回路図のようでもあり、儀式の紋様のようでもあり、デュフフ」


 ソフィアが割り込んできた。

 言いかけるたびに話が流れていく。


 多少強引だが、今しかない。


 「ソフィアさん、少し」


 ソフィアを台座の陰に引っ張った。


 「え、なんですかソータさん、大胆ですね。デュフフ」


 そういうことじゃない――と思ったが特に突っ込まない。

 声量を落として、言った。


 「わかりました、これが何か」


 ソフィアの目が丸くなった。


 「本当ですか!? なんなんですか!? これ!」


 「声、声」


 「す、すみません。それで、何なんでしょう、これ」


 ソフィアの耳元で詳しい説明をした。

 この器が何で、どういう仕組みで動くのかを――


ここまでお読み頂きありがとうございます!


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次回も見て頂けると嬉しいです!


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