↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/45

キメラと騎士団長

 

 レインのもとへ向かったのは、翌朝のことだった。

 先日の出来事を報告するためだ。


 「騎士団が動き始めたこと、遺跡に入れなかったことをご報告します」


 「想定より早いですね」とレインがつぶやくように言った。


 「ソル大司祭が本格的に動き始めたということでしょうね」


 「遺跡の制御装置はどうなりますか。放置すれば誤作動が続きますが」


 「騎士団が止められればいいですが……」


 「止められなかったら」


 「被害が出ます」


 少し沈黙があった。


 その時、レインのもとに使いが来た。

 小さく折り畳まれた紙を受け取って、レインが目を通すと、表情が少し変わった。


 「どうしましたか」


 「教会への緊急連絡が入りました。昨日の遺跡から、テンプル騎士団の救援要請が来ているとのことです」


 「救援要請」


 「遺跡の中に、想定外の生物がいたようです。複数の騎士が負傷、撤退を余儀なくされていると」


 「生物、ですか。遺跡の中に?」


 レインが「古代の遺跡の中に、実験的に作られた生物がいるという記録があります」と言った。


 「それらを総じてキメラという呼び方をしています」


 「キメラ」


 「複数の生物を掛け合わせて作られた古代の産物です。通常の生物と違い、かなり凶暴で、制御が難しい。この遺跡に存在するとは把握していなかったようですが」


 「教会はそれを知っていて遺跡に入ったんですか」


 「記録としては存在を知っていても、場所までは把握しきれていないことが多いんです」


 全員を見た。


 「救助に行きましょう」


 ゼナが「え、死にやすいじゃん」と言った。


 「騎士団の人が今まさに死にやすいんですよ」


 「そうだけど…」


 ゼナは気が進まなそうだったが、ヴェインは「……行く」と言った。


 全員が頷く。


 遺跡に向かったのは昼前だった。


 「完全に不法侵入だよ~」とゼナが恐る恐る侵入しながら言った。


 「緊急事態ですから」


 「死にやすいよ社会的に」


 「物理的に死にやすい人を助けるのが先です」


 「……だよね~」


 入口には昨日の騎士団の装備が一部散乱していた。

 戦闘があった跡だった。

 奥から微かに音がする。


 中に入ると、壁が焦げていた。


 「火を使った…?」


 考えているとヴェインが口を開いた


 「おそらくフレイアが戦った跡だ。あいつは炎の奇跡を使う」


 なるほど。

 奇跡が使える騎士か。

 ヴェインは奇跡が使えないタイプの騎士だから、騎士は奇跡を使わないものだと思っていたが、そういうわけではないらしい。


 通路を進んだ。


 ゼナが「やばいやばい。死にやすいセンサー、8超えてる」と言った。


 「8ですか」


 「この前より上」


 「気をつけましょう」


 奥から声が聞こえた。


 フレイヤが一体のキメラを相手に戦っていた。


 キメラは大型だった。


 熊のような体格に、爬虫類のような外皮を持ち、腕が四本あった。


 どこかの生物を複数掛け合わせて作ったものだと想像はつくが、それ以上の説明が難しい外見だった。


 フレイヤが炎の奇跡で応戦していた。


 フレイヤの炎は本物だった。実力は確かだ。


 ただ、キメラが炎にある程度の耐性を持っているようで、形勢は不利だった。


 周囲に騎士が数名いたが、戦闘不能になっていた。


 「来ないでくださいまし! わたくしが」


 フレイヤが言いかけた瞬間に、ヴェインが前に出た。


 キメラとヴェインが向き合った。


 「……久しぶりに本気で戦う」


 ヴェインが剣を構えた。


 フレイヤが驚いた顔で「ヴェイン!?」と言った。


 ヴェインが動く。


 キメラの攻撃を盾で受けながら、剣で側面を突く。

 フレイヤの炎がヴェインの動きに合わせて飛んでくる。

 意識して合わせているわけではないのに、二人の動きが噛み合っていた。


 「……よく動く」


 「当然ですわ」


 「一緒に戦うのは、久しぶりだ」


 フレイヤが少し間を置いた。


 「……そうですわね」


 ヴェインが踏み込んだ。

 剣がキメラの外皮の継ぎ目に入った。

 フレイヤの炎が同じ場所に集中した。


 キメラが倒れ、静寂に包まれた。


 フレイヤが「……なぜ来たんですの」と呻くように言った。


 「通りかかった」


 「嘘をおっしゃい」


 「本当だ」


 フレイヤが「……相変わらずですわね」と言った。今度は棘がなかった。


 「あなたは」


 「ああ」


 「助かりましたわ」


 「礼はいい」


 その時、奥の通路から音がした。


 一体ではなかった。


 通路の奥から、複数のキメラが来た。


 その数十二体。


 「死にやすいよ!!気をつけて!」とゼナが叫んだ。


 フレイヤが「これは……厳しいですわね」と漏らした。

 珍しく声に動揺があった。


 いつもの余裕がなかった。


 当たり前だ。

 一体でも二人がかりだったのに十二体いるのだから。


 騎士団の生き残りが「撤退を、騎士団長!」と叫んだ。


 フレイヤが「しかし」と言いかけた。


 「全員下がってください」


 僕は皆にそう伝え、前に出た。


 「あなたは、レリックの」


 「後ろにいてください」


 スーツを展開した。

 身体が鎧をまとっていき、起動の光が灯った。


 フレイヤと、騎士団員が固まった。


 ヴェインが「……下がれ」と全員に言った。


 センサーが情報を取得。

 キメラの数、位置、動きのパターン。

 十二体、全部把握した。


 機械と違って、生物は制御装置がない。

 止める場所はない。でも生物だからこそ、動きにパターンがある。

 次の動きが読める。


 見極める。


 最初の三体に向かった。

 センサーが弱点を示していた。


 外皮の継ぎ目、関節部分、頭部。


 高速で動きながら、一体ずつ確実に制圧した。

 倒すのではなく、動けなくする。


 関節を押さえて、動きを封じる。


 頭部に衝撃を加えて意識を失わせる。


 次の三体。


 また次の三体。


 残り三体。


 十二体を制圧した。


 時間にして、四分。


 フレイヤが呆然と見ていた。


 「……何ですの、あれは」


 「ウチらのソータだよ」とゼナが自慢げに言った。


 「ウチら、の?」


 「そう、ウチらの」


 スーツのエネルギーが切れた。


 「あ、活動限界です」


 急に身体が重くなる。


 ヴェインが無言で支えてくれた。


 「……重いな」


 「すみません」


 「謝るな」


 「では、ありがとうございます」


 「よろしい」


 フレイヤが近づいてきた。

 スーツを外したソータを見た。


 「あなた、今のは何ですの」


 少し考えた。


 古代の遺跡の技術を応用したものです、と正直に言ったら火あぶりの可能性がある。

 さすがにそれはマズい。


 「鎧です」


 「それは見ればわかりますわ」


 「丈夫な鎧を着ていたので」


 「でもあの速度と力は――」


 「体術です」


 フレイヤが「体術だけであれほどの動きを!?」と驚いた。


 うん。

 驚くよね。


 なんだか騙しているみたいで申し訳なくなってきたが、火あぶり回避のためだ。


 「ソータ、スゴインデスヨ~~」


 ゼナが言った。


 棒読みだった。


 「体術の達人なんですよ。デュフフ」とソフィアがフォローを入れた。


 普通に嘘である。


 笑い方がぎこちなかった。


 ヴェインが「……鍛錬の成果だ」と言った。


 三人の中で一番堂々としていた。


 全部嘘なんだけど。


 フレイヤが三人を見た。


 それからソータを見た。


 「…………そう、ですの」


 明らかに納得していない顔だった。


 でも、すぐに「まあいいですわ」と切り替えた。


 「とにかく、助けていただいたのは事実ですわ」


 フレイヤがソータを真っ直ぐに見た。


 「ありがとうございます、ソータ様」


 「山田颯太です。ソータと呼んでいただければ」


 「ソータ」


 フレイヤがその名前を繰り返した。


 少し間があった。


 かなり長い間があった。


 「素敵なお名前です。あなたにはまたお会いしたいですわ」


 「そうですか」


 「お会いできますかしら。お礼もしたいですし」


 「レリックに来ていただければ」


 「ではそうしますわ」


 「は?」とゼナが小声で言った。


 同じく「は?」とソフィアが言った。

 珍しくデュフフではなかった。


 ソフィアを動揺させるとはフレイア騎士団長、なかなかの人だ。

 


 みんなの反応は複雑だった。


 ヴェインだけは一人黙っていたが、眉が動いた気がした。

 兜を被ってるから見えないけど、そんな気がした。


 フレイヤが騎士団の生き残りを連れて去っていく前に、ソフィアが騎士団員の怪我を応急処置した。


 「お借りしますわ、その奇跡使いを」とフレイヤが言った。


 「借せません」とゼナが即答した。


 「ゼナさん」


 「借せないよ!」


 「今日のことは、教会への報告で正確にお伝えしますわ。レリックの皆様が救助に来てくださったことも含めて」


 「それは助かります」


 フレイヤが踵を返した。


 去り際に、ヴェインを一瞬だけ見て、一言言った


 「何も変わってないなんて、とんだ嘘っぱちでしたわね」


 フレイヤは納得した顔をして帰っていった。 


 遺跡の外に出た。


 全員で少し休憩する。

 さすがにみんな疲れていた。


 「一目惚れじゃん、あれ」とゼナが言った。


 「そうなんですか?」

 

 一目惚れなんてされたことがないからよくわからない。

 そもそも、あんなお嬢様のような人に近づいてしまったらそれこそ社会的に死にやすくなってしまう。

 それは避けたい。


 「どう見てもそうじゃん」


 理解できない、という顔でゼナがこちらを見る。


 「ソータはどう思ったの?」


 「綺麗な方でしたね」


 「それだけ?」


 「それだけです」


 ゼナが「死にやすいね~」と言った。


 「どのあたりが」


 「ウチの精神がだよ!!」


 ヴェインが「……問題ない」と言った。


 ソフィアが「デュフフ、ヴェインさん大丈夫ですか」と聞いた。


 「問題ない」


 「本当に?」


 「問題ない」


 「そうですか、デュフフ」


 今回のデュフフは、どこか複雑な音がした。


 ゼナが「なんか釈然としないんだけど」と言った。


 「何がですか」


 「いや、別に」


 「そうですか」


 「そうだよ! もう!」


 何が「もう」なのかよくわからなかった。


 ソフィアが「デュフフ……ヴェインさんが助けたのにね」と小声で言った。


 「なんか言いましたか」


 「なんでもないですよ」


 帰り道を、四人で歩いた。


 みんなの空気が、少し騒がしくて、帰り道の空気を楽しんでいる気がした。


 ――うん。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。

作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。