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起動

 

 あれから、三ヶ月が経った。


 その間にいくつかの依頼をこなした。

 ロゴスからの情報提供で、危険度の高い遺跡を優先的に調査するようになっていた。


 アリアが依頼書を持ってくる時、たまに目配せをするようになった。

 その目配せが「これはロゴス案件です」という合図だと、最近わかってきた。


 今日もそういう依頼だった。


 「山岳部の遺跡です」とアリアが言った。


 「内部に大規模な自動防衛システムが起動しているらしくて。近づいた調査隊が全員追い払われたと」


 「怪我人はいますか?」


 「軽傷が数名。ただ、調査隊のリーダーが言うには、内部にかなり大きな何かがいると」


 「大きな何か……」


 「詳細は不明です。逃げるのに必死だったらしくて」


 「わかりました、受けます」


 アリアが少し間を置いた。


 「……気をつけてくださいね、本当に」


 「大丈夫ですよ」


 「その根拠のない自信はどこから来るんですか」


 「三ヶ月、なんとかなってきたので」


 アリアが「もう」と言いながら受付印を押した。


 遺跡への道を歩きながら、ゼナが聞いた。


 「そういえばソータ、例のスーツはどうなの?」


 「なんとか実用まではもっていけたと思います」


 「試したの?」


 「ルカさんの研究所で何度か」


 ヴェインが「……使えるのか」と聞いた。


 「10分間は、たぶん」


 「10分って短くない?」とゼナが言った。


 「短いですね。だから温存しておきたくて、本当にやばい時だけ使おうと思っています」


 「やばいってどのくらい?」


 「三人でも太刀打ちできないくらい、を基準にしようかと」


 ヴェインが少し眉を動かした。

 といっても、兜を被っているので実際はわからない。

 そんな気がしたと言うだけだ。


 兜の中では「それくらい、ということか」という顔をしているのだろう。(多分)


 「デュフフ、楽しみですね」とソフィアが言った。


 「使う機会がないほうがいいんですけどね」


 「でも楽しみです」


 なんだか娯楽の対象にされてるようだ。

 ソフィアさんにとっては構造が気になる玩具なのだろう。


 遺跡は山の中腹にあった。


 入口は狭かったが、中に入ると通路が広がっていた。

 壁の石が他の遺跡より厚かった。


 頑丈な作りだった。

 軍事施設、と言われればそう見える。


 「死にやすいセンサーびんびんだね」とゼナが言った。


 「どのくらいですか」


 「7くらい?10段階で」


 「7は高いですね」


 「高いよ。でも即死レベルじゃない。まだいける」


 「その調子でお願いします」


 通路を進んだ。


 最初の部屋に入った瞬間、天井から何かが降ってきた。


 「来た!」


 ゼナが叫んだ。


 全員が散った。


 天井から降りてきたのは、以前の遺跡で見た番人に似た形の機械だった。

 ただしその時の個体より少し大きかった。

 動きも素早い。


 ヴェインが前に出た。


 「数は」


 「四体…いや、五体!後ろにもう一体いる!」


 「わかった」


 ヴェインとゼナが動いた。


 ソフィアが後方から支援の奇跡を使い始める。


 僕は後ろで見ていた。


 「ソータは何してるの」


 戦闘の合間にゼナが言った。


 「観察しています」


 「戦えよ」


 「温存しています」


 「役に立て」


 「10分しかないので」


 「役立たずー!」


 四体と一体、計五体の番人が相手だったが、三人で対処できていた。


 ゼナが動きを読んで回避と攪乱を担当して、ヴェインが正面から当たる。

 ソフィアが弱ったところを奇跡で仕留める。

 僕は観察と応援をする。


 連携が自然になっていた。


 三ヶ月でチームとして成長したところだ。

 五体を処理して、通路の奥に進んだ。


 工場のような部屋があった。


 天井が高かった。

 今までの遺跡とは比べ物にならないくらい広かった。


 壁沿いに大型の装置が並んでいて、中央に台座のようなものがあった。


 そして台座の上に、それがいた。


 全員の動きが止まった。


 高さは、おそらく十五メートルほど。

 全身が重厚な金属に覆われていた。


 関節部分が複数あって、人型ではあるが、人間とは全く違う比率だった。

 腕が太すぎた。

 胸部が分厚すぎた。

 目に当たる部分が、赤くではなく橙色に光っていた。


 番人の上位互換、というより、別の設計思想なのだろう。

 同じ古代文明が作ったものだとはわかるが、用途が違う。

 おそらく、こいつは警戒用ではなく、殲滅用に開発されたものだ


 「……でか」とゼナが言った。


 「でかいですね」


 「死にやすいセンサーが10振り切ってる」


 「10段階ですよね」


 「超えてる」


 それは困った。


 大型機が動いた。

 ゆっくりとした動きだったが、それだけで空気が揺れた。

 足が床を踏むたびに、振動が伝わってくる。


 「来るぞ」とヴェインが言って 剣を構える。


 ヴェインが前に出た。盾を構えて、最初の一撃を受けた。

 盾が軋む音がした。


 ヴェインの足が数センチ、床を削った。


 「……重い」


 ヴェインが普段は言わない台詞だった。


 ゼナが側面から動いた。

 関節部分を狙って、短剣を差し込もうとした。


 大型機が腕を横に振った。

 ゼナが跳んで回避した。


 「死にやすいよ、これは!」


 着地しながら叫んだ。いつもより切迫した声だった。


 ソフィアが後方から奇跡を放った。


 大型機の動きが少し鈍った。

 でも止まらない。


 「デュフフ……これは」


 ソフィアが珍しく言葉に詰まった。


 三人がかりで押されていた。

 止めることはできているが、ダメージを与えられていない。

 このまま続ければ消耗戦になる。


 僕は後ろで見ていた。


 三人の動きを観察していた。


 ヴェインが「……手強い」と言った。


 それを聞いた瞬間、決断した。


 このときのために、準備をしてきた。


 「行きます」


 前に出て、パワードスーツを展開する。


 身体感覚が変わり、金属の鎧を纏う。


 センサーが情報を取得し始める。

 大型機までの距離、動きのパターン、重量の推定値、関節の位置。

 全部が頭の中に入ってきた。


 体が軽い。


 スーツの補助動力のおかげで、身体能力が跳ね上がっている。

 重い鎧をまとっているにも関わらず、常人離れした戦闘能力を実現していた。


 「ソータ?」とゼナが言った。


 「少し下がっていてください」


 三人が後退した。

 僕と大型機が向き合った。


 大型機が腕を振り下ろした。

 番人の体当たりとは比べ物にならない質量だった。


 だが、攻撃を受ける。


 実戦での性能テストを兼ねて、片手で受け止めた。

 衝撃はゼロではなかったが、軽々と受け止めることができた。

 

 無傷で。


 「え」とゼナが驚きの声を上げた。


 大型機が再び腕を動かそうとする。


 が、阻止した。


 大型機の腕を両手で掴んで、ぎゅっと握る。

 金属が軋む音が響いて、関節部分がべこんっと歪んだ。


 腕の動きが止まる。


 そのまま握る力を強くしていくと、そのまま腕部が、破壊された。


 「は?」とゼナがもう一度言った。


 大型機が体ごと向きを変えようとした。


 その動きより先に、跳んだ。


 高く跳んだ。


 天井に近い高さまで上がった。


 その間にセンサーで全体をスキャンした。

 装甲の厚さ、各部位の出力、内部構造の推定。

 弱点がどこかを探した。


 おそらく頭部。

 内部に制御系が集中していた。


 降下しながら、狙いを頭部に定める。

 

 一撃目。装甲に亀裂が入った。


 二撃目。亀裂が広がった。


 三撃目。内部の制御装置が見えた。


 そこにつながってるコードを全部引きちぎると、 大型機は停止した。

 橙色に光っていた目が、消えた。


 静寂が落ちる。


  「……」


 全員が黙っていた。


 「止めました」と言った。


 「うん」とゼナが言った。


 「なんかあれ、死にやすいセンサーが反応しなかったんだけど」


 「スーツで受け止めたので」


 「受け止めたの?」


 「受け止めました」


 「無傷で?」


 「無傷です」


 ゼナが「……ヤバすぎ」と言った。


 ヴェインが静かに言った。


 「……これなら戦えるな」


 今まで見たことのない目で、こちらを見ていた。


 ソフィアが「すごい……」と呟いていた。

 もっとテンション高くデュフデュフ言ってくるかと思ったが、それ以上にインパクトがあったらしい。


 「ルカさんのおかげです」


 「でも発案はソータさんですよ」


 「それはそうですが」


 その時、通路の奥から音がした。


 さっきの五体とは別の番人が、三体、出てきた。

 残党のようだ。


 「あと何分ですか」


 スーツ内部のカウンターを確認した。


 残り、一分を切っていた。


 「……もう少しです」


 三体の排除にに向かおうとした。


 が、その瞬間、スーツの反応が変わった。


 重くなった。


 急に、体に全部の重さが戻ってきた。


 「あ、活動限界です」


 「今!?」とゼナが叫んだ。


 「今」


 番人の一体が近づいてきた。


 足が重く上手く動けない。

 スーツの重量がが全部生身の身体にかかっていた。


 「動けないですこれ」


 「動けないって」


 「中の人の運動能力が低いので」


 「ガリ勉野郎だった…」


 「ガリ勉野郎です」


 ヴェインが無言で前に出た。

 三体の番人に向かった。


 ゼナが「私も行く」と言って動いた。


 ソフィアが支援の奇跡を使い始めた。


 僕は装甲の中で待っていた。


 「すみません、あとはよろしくお願いします」


 ヴェインが「……任せろ」と言った。


 三体が相手でも、三人なら十分だった。

 大型機に比べれば、普通の番人はなんの問題もなく対処できる。


 しばらくして、全ての番人の排除が終わった。


 ゼナが戻ってきた。


 「ソータ、出られる?」


 「出られます。ただ移動が」


 「担ぐ?」


 「できれば」


 「ヴェイン!」


 ヴェインが戻ってきた。


 無言でスーツごと担いだ。


 「……重いな」


 「すみません」


 「謝らなくていい」


 「じゃあ謝りません」


 「よろしい」


 遺跡の外に出た。


 ヴェインが地面にそっとスーツを置いた。


 スーツを外すと、外の空気が入ってきた。


 全員で地面に座った。


 「10分、思ったより短かいですね」


 「でも強かったよ!」とゼナが言った。


 「大型機だけです。あの後の雑魚に手こずりました」


 「あの弱体化はひどいね」


 「改良が必要ですね」


 「どのくらいで改良できるの」


 「ルカさん次第ですね。相談してみます」


 ゼナが「でも、ほんとに強くなったよ。ウチのこと守れるくらいに」と目を伏せながら言った。


 「10分だけですけどね」


 「十分だよ」


 ヴェインが「……強かった」と言った。


 少し間を置いた。


 「お前のことを、ずっと守らないといけないと思っていた。でも今日は」


 そこで止まった。


 「今日は?」


 「……お前も、一緒に戦えると思った」


 「ありがとうございます」


 ソフィアが「デュフフ、次は時間を延ばせるといいですね」と言った。


 「ルカさんに相談します」


 「また研究所に行くんですね」


 「顔パスなので」


 「あの子との仲良しっぷりがちょっと羨ましいんだけど」とゼナがぼそっと呟いた。


 「研究仲間です」


 「ふーん」


 ゼナが前を向いた。


 「まあ、いいや」


 言葉とは裏腹によくない時の顔をした。


 山の夕暮れが、遺跡の上に広がっていた。

 日が暮れる前に帰路につく。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


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