↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/45

決意

 

 事務所に戻ったのは翌日の昼だった。


 ヴェインの傷はソフィアが完全に塞いだ。

 動きに支障はないとのことだった。

 ただ、壊れた鎧は修理が必要だった。


 食堂で四人が揃った。


 アリアが「おかえりなさい! 無事でよかったです!」と言って駆け寄ってきた。

 いつもの元気な声だったが、 目が少し赤かった。


 「心配してくれてたんですね」


 「当たり前じゃないですか! あんな危険な依頼!」


 「すみませんでした」


 「ほんとにもう!」


 アリアが飲み物を持ってきて、また受付に戻っていった。


 落ち着いたところで沈黙が広がった。


 僕は昨日のことを考えていた。


 死ぬかもしれない、と思った。

 本当に思った。


 これまで何度か危ない場面はあったが、昨日は違った。


 逃げ場がなかった。


 手がなかった。


 なんとかなるか、とは言えなかった。


 ――そういう経験が、考えを変えるきっかけになる。


 「みんなに聞きたいことがあります」


 全員がこちらを見た。

 僕から話を切り出すのが、らしくないと感じているようだった。


 「レインさんへの返答を出す前に、みんながどう思っているか聞かせてください」


 少し間があった。


 「ウチから言っていい?」


 ゼナが手を挙げた。


 「どうぞ」


 「給金もらえるなら全然いいよ。てかウチのスキルが必要ってことでしょ、ロゴスにも」


 「そうですね」


 「だったらやるよ。ウチの死にやすいセンサーが役に立つなら」


 ゼナが少し間を置いた。


 「……ソータがまた死にやすくなるの嫌だし」


 ぼそっと小声で付け加えた。

 思いのほか心配してくれているらしい。


 「ソフィアさんは」


 「デュフフ、もちろんやります。研究が進みますし、危険なものを野放しにするのは研究者として許容できません」


 即答だった。


 「それに」


 ソフィアが少し間を置いた。

 オタク喋りが消えていた。


 「ソータさんを保護する責任があります」


 普段は表に出さないが、自分が召喚してしまった責任はずっと感じているようだった。

 実際は間違って召喚したわけではなかったので、もうそこまで責任を感じなくても良いのだけど。


 「ヴェインさんは」


 全員がヴェインを見た。


 ヴェインは黙っていた。


 しばらく、誰も何も言わなかった。


 「……守護と戦闘は私の役目だ」


 ヴェインがゆっくりと言った。


 「それは変わらない」


 「でも」と続けた。


 「教会を信じてきた。ずっと。神の教えに従って生きてきた。それが正しいと思っていた」


 「今は違いますか」


 「……わからない。簡単には割り切れない」


 ヴェインが初めて、そういうことを口にした。


 「割り切れなくていいですよ」と僕が言った。


 「む」


 「割り切れないまま、一緒に考えましょう。答えが出ないまま保留しておいてもいいと思います」


 ヴェインが「……そうか」と言った。


 少し間を置いて、「ならば、行く」と続けた。


 「ソータは?」とゼナが言った。


 全員が僕を見た。


 「みんなを死なせたくないです」


 自然に言葉が出た。


 「そして、みんなのいるこの世界も守りたい。そのために自分の知識が役に立つなら、使うべきだと思っています」


 「なんとかなるか、じゃないんだね」とゼナが言った。


 「なんとかします」


 「できるかな」


 「みんながいるので」


 ゼナが「死にやすいね」と言った。


 「物理的にですか」


 「精神的にもだよ。泣けちゃうね」


 「泣いてるんですか?」


 「泣いてない!!」


 レインとの会合は夕方だった。


 前回と同じ、王都の中心部近くの薬の店だった。


 四人で入ると、レインが待っていた。

 今日も白と金の服を着ていた。

 金髪が室内の光に揺れている。


 「来てくれたんですね」


 「返答を持ってきました」と僕が言った。


 「聞かせてください」


 「その前に、説明していただけますか。ロゴスがこれから何をするつもりなのか、僕たちがどういう立場になるのか、正確に知りたいので」


 レインが少し目を細めた。

 意外そうな顔だった。


 「ソータさん、変わりましたね」


 「死にかけたので」


 「……なるほど」


 レインが向き直った。


 「では正直に話します」



 「ロゴスの理念は、神秘の仕組みを明らかにすることです。そして力ではなく、話し合いで教会の奇跡の独占を崩し、万民に奇蹟の利益をもたらす。それが数百年来の目標です」


 「現状は」


 「教会には三人の大司祭がいます。私は推進派。神秘を徐々に明らかにしていくべきだという立場です。もう一人は中立。そして隠匿派の大司祭がいる」


 「それぞれの勢力があるということですね」


 「現状は隠匿派が優勢です。理由は単純で、教会の既得権益を守ることが多くの聖職者にとって都合がいい。神秘を独占しているから教会は特別な存在でいられる。それを手放したくない人間が多い」


 「レインさんの立場が露見したら」


 「ロゴスごと潰されます」


 静かに言った。


 「だから秘密が増えます。言えないことも増える。それに耐えられますか」


 「耐えます」とソフィアが言った。


「今も十分、言えないことだらけですので」


ゼナが「私もデュフフって笑ってごまかせるようになりたいよ」と言った。


 「練習しますか、デュフフ」


 レインが少し笑った。


 「続けます」


 表情が戻った。


 「これから先、今回のような危険な場面が増えます。古代システムの再起動が進むにつれて、制御を失った装置が各地で動き出す。命がけになる場面が、何度もある」


 全員が黙った。


 「それでも来てくれますか」


 レインが全員を見た。


 「生半可な気持ちの仲間を増やすことは、私の命にもロゴスの存続にも関わります。だから聞かせてください。本当に力を貸してくれますか」


 ゼナが一番に言った。


 「行くよ」


 ソフィアが「デュフフ、もちろんです」と言った。


 ヴェインが少し間を置いた。全員が待った。


 「……私が守る」


 それで十分だった。


 レインが最後に僕を見た。


 「ソータさんは」


 「行きますよ。なんとかします」


 「なんとかなるか、ではなく?」


 「なんとかします、です」


 レインが小さく笑った。

 初めて見る笑い方だった。

 大司祭としての笑いではなく、もっと素に近い笑いだった。


 「頼もしいですね」


 「根拠のない自信ですけど」


 そう。

 根拠なんてない。

 でも、不思議とどうにもならないという感覚はなかった。


 「それと、お伝えしておくべきことがあります」


 会合が終わりかけた頃、レインが言った。


 「先日、あなたたちに危機を知らせたのは――」


 「アリアさんですか」


 僕が先に言った。


 全員が固まった。


 「なぜわかったんですか」とレインが言った。


 「アリアさんが必死に止めようとしていました。普通の心配じゃなかった。あれだけ必死に止めるのは、依頼の危険性を知っていたということでしょう」


 「……そうですね」


 「アリアさんの役割は、ゼナさんとは違いますよね」


 「はい。情報提供ではなく、保護と連絡です。あなたたちが危険な場所に向かった時に知らせる役割を、ずっと担ってもらっていました」


 ゼナが「アリアー!!」と叫んだ。


 薬の店の壁の向こうから、何も聞こえなかった。


 「今ここにはいませんが」とレインが苦笑しながら言った。


 「そっか」


 ゼナがため息をついた。


 ヴェインが「……いつからだ?」と聞いた。


 「最初からです」とレインが答えた。


 「そうか」


 それだけだった。

 ヴェインがどう思っているのかは、表情からはわからなかった。


 事務所に戻ったのは夜だった。


 食堂に全員が集まった。


 アリアが料理を持ってきた。いつも通りの明るい顔だった。


 「お疲れ様でーす! 今日も何かありましたか?」


 全員がアリアを見た。


 アリアが首を傾げた。


 「何ですか? 何かついてますか、顔に」


 「なんでもないですよ」と僕が言った。


 「そうですかー?」


 アリアが戻っていった。


 ゼナが「知らん顔してるよ、アリア」と言った。


 「そういうものですよ」と僕が言った。


 「そうかね」


 「そういうものです」


 ソフィアが「デュフフ、アリアさんも大変ですね」と言った。


 ヴェインが「……ご飯が美味しい」と言った。


 全員で少し笑った。


 食事が続いた。


 いつもと同じ食堂。

 いつもと同じ席。

 いつもと同じ料理。

 でも何かが変わった気がした。


 秘密が増えた。守るものも増えた。なんとかしなければならないことも増えた。


 それでも。


 今日も、なんとかなったことだし――


 明日も、なんとかできるはずだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。

作者のモチベーションにつながります。


次回も見て頂けると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。