石になる呪い 後編
奥の部屋に辿り着いた。
台座の上に、球形の装置があった。
表面が滑らかな金属で、うっすらと光っていた。
直径は五十センチほど。表面に細かい模様が走っていた。
「これが神器ですね」とソフィアが言った。
「触れると石になる、というやつ?」
「でも入口の時点で既に石像が作られていましたよね」
「つまり触れなくても発動する」
「センサーの感度が上がっているみたいです、デュフフ。経年劣化か、あるいは意図的に調整されたか」
球形の装置をよく見た。
「ソフィアさん、これの構造、わかりますか」
「少し待ってください」
ソフィアが装置の周囲を観察した。
「表面のセンサーが外見情報を取得して、内部で立体データに変換して、それを素材に出力する構造だと思います」
「つまり彫刻機械ですね」
3Dプリンターのようなものだろうか。
「そうなります、デュフフ。触れた対象を石材に複製する」
「石になる、というのは」
「石の像が作られる、が正確なところですね」
「本人には何も起きない」
「データを取るだけなので」
少し間を置いた。
「データを取るだけ、ということは」
「そのデータが、どこかに送られている可能性もありますね」
「外部に」
「はい」
ソフィアが装置の底部を確認した。
「アクセスログが残っています。最近、外部から起動された形跡がありますよ、デュフフ」
「いつですか」
「三日前です」
「三日前に誰かがこの装置を起動させた。そして今日、僕たちがここに来た」
「依頼書が落ちていた」
「そうです」
全員が少し黙った。
ゼナが「誰かがウチたちをここに呼んだってこと?」と言った。
「可能性はあります」
「なんのために」
「データを取るためか、あるいは」
その時だった。
部屋の角から、光が走った。
見えなかった。
壁の継ぎ目に隠れていた発生源からの光が、死角を突いて飛んできた。
「ソータ!!」
ゼナの声がした。
間に合わない。
光が、僕に直撃した。
しばらく経ったが、何も起きなかった。
石になる、という感覚もなかった。
痛みもない。
「……何ともないですよ?」
静寂が落ちた。
ゼナが僕に駆け寄っていた。
腕をつかんで、顔を確認して、全身を見回していた。
「怪我は」
「ないですよ」
「石になってない?」
「なってないですよ」
「……よかった」
小さな声だった。
いつものゼナの声ではなかった。軽口でも、損得でもなかった。
「ゼナさん」
「なんでもない」
「でも、顔が」
「なんでもないって言ってるじゃん」
ゼナは顔を逸らしながら手を離した。
目元には一筋の光が滲んでいた。
ソフィアが「デュフフ……これは」と言った。
全員がソフィアの方を見た。
「石化光線ではなかったみたいです。ソータさんに当たって、何も起きなかったことで確信しました」
「石化光線じゃなかったなら何ですか」
「データ収集の光線だと思います。外見情報を取得するだけのもの。先ほどのセンサーと同じ機能ですが、こちらは接触しなくても作動する遠距離型で」
「つまり」
「触れても、光線が当たっても、石になることはない。石像が作られるだけです」
「……石になる呪い、というのは」
「石の像が作られる、という意味では正しかったです。ただ本人には何も起きない」
全員がしばらく黙った。
ヴェインが「……拍子抜けだな」と言った。
「そうですね」
「死にやすくなかったね、結果的に」とゼナが言った。
いつもの声に戻っていた。
でも、先ほどの「よかった」という声が、まだ頭の中に残っていた。
かなり心配をかけてしまったようだ。
装置の調整をして、誤作動を止めた。
外部からのアクセスログを記録して、ソフィアが持ち帰ることにした。
「誰が起動させたか、調べます、デュフフ」
「わかりますか」
「時間がかかるかもしれませんが」
「お願いします」
帰り道、依頼人のいない依頼について、また考えた。
誰かが意図的にこの装置を起動させて、僕たちをここに呼んで、データを取った。
なぜ僕たちのデータが必要だったのか。
何のために。
「ソータ」
ゼナが隣に来た。
「なんですか」
「さっき、何でもないって言ったけど」
「はい」
「驚いただけだから。ソータが光線に当たって」
「そうですか」
「驚いただけ」
「はい」
ゼナが少し間を置いた。
「……損得で考えたら、ソータがいなくなると困るじゃん。遺物の謎解きができなくなるから」
「そうですね」
「だから驚いただけ」
「わかりました」
「わかった?」
「損得で考えたら困る、ということですよね」
「そう」
「了解です」
ゼナが「……わかってんのか、わかってないのか」と小声で言った。
「聞こえましたよ」
「独り言」
ソフィアが「デュフフ、ゼナさん顔赤いですよ」と言った。
「日焼けだよ!!」
「遺跡の中にいたのに?」
「松明の熱!!」
ヴェインが前を向いたまま「……松明に近づいていなかったが」と言った。
「ヴェイン!!」
みんなで笑いあって、夕暮れの街道を、四人で歩いて帰った。
その夜、ソフィアが研究室でアクセスログを調べていた。
「どうでしたか」
ソフィアが振り返った。真剣な顔だった。
「発信源がわかりました」
「どこですか」
「王都の中心部です」とソフィアが言った。
「例の召喚装置の時と、同じですか」
一緒に確認をする。
「……同じところですね」
「ほぼ確実だと思います、デュフフ」
「ロゴスという組織が、僕たちの情報を集めようとしている」
「そうなりますね」
「なぜ」
「それはまだわかりません」
二人で少しの間、黙っていた。
「引き続き調べますか」とソフィアが言った。
「調べましょう」と僕は返す。
「ただ」
「ただ?」
「急がなくていいです。なんとかなりますから」
ソフィアが「デュフフ」と笑った。
「ソータさんといると、なんとかなる気がしてきますね」
「大体なんとかなりますから」
「根拠は」
「ここまで、なんとかなってきたので」
「それは根拠になってないですよ」
「データの上では100%ですよ」
ソフィアが「デュフフ」と笑った。
今夜のデュフフは、少し疲れた笑いだったが、不思議と悪くないと思った。
今日もなんとかなったことだし――
明日も、なんとかなるだろう。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。
作者のモチベーションにつながります。
次回も見て頂けると嬉しいです!




