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石になる呪い 前編

 

 依頼書を持ってきたのはヴェインだった。


 珍しいことだった。

 依頼書を持ってくるのはいつもゼナかソフィアだったからだ。


 「依頼かな?」とゼナが言った。


 「ヴェインが持ってくるの珍しいじゃん」


 「事務所の前に落ちていた」


 「落ちていた?」


 「ああ。受付のアリアが置いていったのかもしれない」


 全員で顔を見合わせた。


 「いつもは手渡ししますよね、アリアさん」と僕が言った。


 「そうだな」


 「落ちていた依頼書、ということは」


 「受けなくてもいい、とは思う。しかし」


 ヴェインが依頼書を机に置いた。


 「内容が気になった」


 目を通す。


 村外れの廃遺跡。

 数十年前から誰も近づかなかった「触れると石になる呪いの神器」が、最近になってまた光を発し始めた。

 調査してほしい。報酬は金貨十枚。


 差出人の名前がなかった。


 「匿名の依頼書ですね」とソフィアが言った。


 「デュフフ、珍しいです」


 「この依頼受けよう!金貨十枚だよ!?」


 ゼナの目がドルマークになっていた。


 「落ちていた依頼書を受けるのは普通じゃないですよ」と僕が言った。


 「でもヴェインが持ってきたやつだし」


 「ヴェインさんが拾っただけじゃないですか」


 「内容が気になったって言ったじゃん」


 全員がヴェインを見た。


 「……石になる神器というのが、引っかかった」


 「なぜですか」


 「石になるのに、被害者がいないという記録があった。気になった」


 少し間を置いた。


 「石になるのに被害者がいない」


 「ああ」


 ソフィアが「デュフフ、それは確かに気になりますね」と言った。


 ゼナが「金貨十枚がウチを呼んでいる!」と叫んだ。


 「気のせいです」


 「死ににくい環境を作るんだぁ~!」


 結局、受けることにした。


 遺跡は村の外れにあった。

 石造りの古い建物で、入口が半分崩れていた。

 周囲の木々が遺跡を覆うように育っていて、昼間でも薄暗かった。


 「死にやすそう」とゼナが言った。


 「石になるだけなら死なないかもしれないですが」


 「石になったら死にやすいよ?」


 「まあそうですけど」


 「ヴェインさんは」


 「問題ない」


 「頼もしい」


 ゼナが入口を確認した。


 「罠は今のところないかな。ただ、床に何かが埋まってる気がする。触れないほうがいいかも」


 「センサー系ですか」


 「たぶん。踏むと何かが起動するタイプのヤツ」


 「避けて進みましょう」


 全員が慎重に入口を抜けた。


 最初の部屋に入った瞬間、ゼナが止まった。


 「ちょっと待って」


 「何ですか」


 ゼナが部屋の奥を指さした。


 「あれ、ウチがいる」


 全員が見た。


 部屋の奥に、石像が並んでいた。

 大小様々な石像が、整然と並んでいた。

 十体以上はある。


 その中の一体が、確かにゼナに似ていた。

 小柄で、ショートヘア。

 腰に手を当てた姿勢の石像だった。


 「似てますね」


 「似てるじゃなくて、どう見てもウチじゃん!」


 「でもゼナさんはここにいますよ」


 「そうなんだけど! なんでウチの石像があるの!?」


 全員が石像を見て回った。


 「あれ」


 ソフィアが一体の石像の前で止まった。


 メガネをかけて、白衣を着て、本を抱えた石像だった。


 「ソフィアさんですね」と僕が言った。


 「そうみたいですね、デュフフ」


 「デュフフじゃないですよ」


 「デュフ」


 ヴェインが別の石像の前で止まっていた。完全武装の鎧姿の石像だった。兜をかぶっていた。


 「ヴェインさんの像もありますね」


 「……ああ」


 「あっちにも」


 少し離れた場所に、もう一体あった。


 石像が四体、並んでいた。ゼナ、ソフィア、ヴェイン、そして――


 「僕の像もありますね」


 「ソータのもあるじゃん!」とゼナが言った。


 「なんで全員分あるの!?」


 「それが謎ですね」


 「全員石になったってこと?」


 「全員ぴんぴんしていますけど」


 四人で自分の石像を見比べた。


 精巧だった。

 細部まで再現されていた。

 ソフィアの石像はメガネの形まで正確だった。

 ゼナの石像は表情まで似ていた。


 「いつ作られたんだろう、これ」とゼナが言った。


 「それも謎です」


 「ウチら、来たことないよね、ここに」


 「今日が初めてですね」


 「なのになんでウチたちの像が……?」


 少し考えた。

 ソフィアに耳打ちした。


 「触れていなくても発動する可能性はありますか」


 「ありますね、デュフフ。この前の投影装置みたいに、センサーの感度が上がっていれば」


 「つまり、遺跡に入った瞬間に情報を取得されていた可能性がある」


 「そうなりますね」


 「なぜ今のメンバーの像が最初の部屋にあるかも、それで説明できます」


 「最近また起動した、という依頼の内容と一致しますね、デュフフ」


 「そうです。誰かが意図的に起動させたとしたら」


 「この遺跡に誰かが来ることを、知っていたとしたら」


 二人で顔を見合わせた。


 「後で話しましょう」


 「はい」


 ゼナが「また内緒話してる」と言った。


 「仕事の話です」


 「毎回そう言うよね」


 「火あぶりは嫌なので」


 奥の部屋に向かった。

 通路を進む途中で、ゼナが足を止めた。


 「ちょっと待って」


 声が低かった。いつものゼナの声と少し違った。


 「どうしましたか」


 「前方に何かある。光の反射が変だよ」


 全員が止まった。


 「どのくらい危ないですか」


 「わからない。でも死にやすい、かも」


 「石化するとか?」


 「もしかしたら」


 ヴェインが前に出た。


 「私が確認する」


 「気をつけてください」


 ヴェインがゆっくりと前進した。


 次の瞬間、通路の壁から光が走った。


 「来る!」


 ゼナの声と同時に、全員が動いた。


 ヴェインが盾を構えた。

 光が盾に当たった。

 盾が石化しかけた、ように見えた。


 しかし、ヴェインが盾を押し返した。


 「ソフィアさん!」


 「わかってます!」


 ソフィアが壁に向かって奇跡を放った。


 光の発生源を探して、制御を止める。

 通路の壁の一部が焦げて、光が弱まった。


 「発生源はあの壁の中ですね」と僕が言った。


 「ソフィアさん、もう少し右の部分を」


 「これですか」


 「そこです」


 光が止まった。


 全員が息をついた。


 「死にやすかったよ!!」とゼナが言った。


 「怪我はないですか」


 「ないけど!」


 「ヴェインさんは」


 「問題ない」


 「盾は?」


 「使える」


 ヴェインの盾に特に変化はなかった。

 石になったように見えたのは石化するという先入観のせいだったか。


 「乗り切りましたね」と僕が言った。


 「乗り切ったね」とゼナが言った。


 「先に進めますか」


 「進めると思うよ。ただ」


 ゼナが通路を見回した。


 「他にも仕掛けがあるかもしれない。ウチが先に行く」


 「ゼナさんが先頭ですか」


 「罠の探知はウチの仕事だよ。ちゃんと後ろにいてよ、ソータ」


 「わかりました」


 「後ろにいてよ」


 「わかってますから」


 「念押し」


 何か引っかかる。


 ゼナがいつもより、僕を後ろに置こうとしていた。

 損得で動く人間が、わざわざ危険な先頭に立とうとしていた。


 なにか理由でもあるのかと聞こうとしたが――


 「死にやすくないか確認してから来てよ」


 と言い、ゼナは一人で先に進んでしまった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!


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次回も見て頂けると嬉しいです!


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