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人を模した君へ 〜未登録の十七歳〜  作者: ユノ・サカリス


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第5話《人か物か》

「それより、今どうなってんの? 情報!」


美悠が再びテレビを点け、蓮はスマホをスクロールする。


【続報】

『通称BCHと呼ばれる個体が、飲食店にて子どもの食事を奪い、そのまま逃走したとみられています』


美悠の背筋が冷える。


『目撃者によると、外見は十代後半の少女。現在も行方をくらませています』


映像が流れ、ぼかしの入ったスマホ画像の中で、怒鳴る母親の背後を少女が人波を縫うように走り去る。


『当該個体は人に酷似しており、外見からの判別は極めて困難です』


蓮がゆっくり顔を上げる。

優希はテレビを見つめたまま、瞬きもしない。


『人に危害を加える可能性があるため、付近の住民の皆様は十分ご注意ください。また目撃情報を――』


美悠が振り返る。


「あんた……食いもん盗ったの?」


優希は頷く。


「ハンバーガー取得」


「言い方!」


「空腹。エネルギー摂取必要。拘束リスク上昇。回避行動。八十六メートル逃走後、美悠と衝突」


「わかった、わかった! もういい!」


説明の正確さが逆に怖く、蓮の喉が小さく動いた。


「……これ、ガチで全国ニュースだぞ」


スマホを見せる。

コメント欄はすでに炎上している。

蓮の顔色が変わる。


「美悠、これ匿ってるのバレたらオマエも終わるぞ。ニュース見ただろ。“人に危害を加える可能性”って言ってた。……警察に言った方がいいんじゃ」


「ダメ」


即答だった。

美悠の声が強くなる。


「戻したら何されるか分からない。人権ないって言ってたんだよ? 物扱いなんだよ?」


蓮は黙り、優希を見る。

その顔は完全に人間だ。

息をして、瞬きをして、そして卵焼きを食べた。


美悠は一歩前に出て、優希の前に立った。


「私は優希を守る。それ以上言うなら……蓮。あんたと別れる」


蓮の眉が歪む。


「は?」


「本気だよ」


数秒ののち、蓮が荒く息を吐く。


「……なんなんだよ、お前ら」


頭をかきむしる。


「九年前もそうだった。俺、いつも置いてけぼりだ。でもさ……俺、優希が“人にしか見えない”って思った時点で、もう逃げられねえよ。どうするか考えるのは三人だろ」


静かに、美悠を見る。


サイレンの音が一瞬近づいてまた遠ざかり、三人は同時にドアを見た。

優希の瞳孔がわずかに開く。


「捜索半径、拡大予測。拘束確率――」


「うるさい。数値、いらない」


美悠が小さく止める。

蓮が低く言う。


「まず状況整理だ。篠宮は拘束。研究所は押収。BCHは未登録個体。つまり――優希は、国から“物”扱いされてる」


優希は胸に触れる。


「物。……私は?」


その問いは、ニュースより重かった。


「……オレ、正直まだ整理できてない。でも……目の前にいる優希が“物”って言われても、納得はできねえ」


美悠の肩がわずかに落ちた。


「じゃあ、どうするの」


「どうするって……」


蓮は天井を仰ぎ、それから二人を見る。


「今日のところは帰る」


「は?」


美悠は一瞬だけ不安な顔をするが、すぐに飲み込む。


「……明日、来る?」


蓮は視線を逸らしたまま答える。


「来るよ。朝、何か買ってくればいいんだろ」


美悠はわずかに眉を上げる。


「え?」


「食うもん。どうせ冷蔵庫ほぼ空なんだろ」


図星で、美悠は視線を逸らす。


「……パンでいい。甘いのと、あと普通の」


優希が小さく反応する。


「甘いの、好き」


蓮は思わず吹き出しかけて、すぐに顔を戻す。


「菓子パンな。分かったよ」


蓮はドアノブに手をかけながら振り返り、優希を見る。


「明日もそこにいるなら、話はする」


優希は数秒見つめ返し、ゆっくり頷いた。


「了解」


「だからその口調やめろって」


蓮が苦笑し、扉を開ける。


廊下の足音が遠ざかると、美悠はその場に立ったまま息を吐いた。

強がっていた分、力が抜ける。


優希が近づく。


「蓮くん、明日来る?」


「……来るよ。たぶん」


「たぶん?」


「人間は、確定前に“たぶん”を使うの」


優希はその言葉を繰り返すように小さく呟く。


「たぶん」


美悠は優希の肩を軽く叩いた。


「ちょっと休憩。頭が疲れた……。どうせ外出られないし。明日のことは、明日考える」


優希は数秒考える。


「未来、未確定」


「そう。未確定」


部屋の空気はまだ重い。

それでも、完全な孤立ではなくなっていた。

 

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