暗躍者
その後氏康と今後の動きについて作戦をたてた一矢は
一度駿府城へ戻り軍の編成を急いだ。
そんな中一矢の元へ半蔵が姿を現した。
「伊達軍が佐竹領の常陸へ進軍する情報を得ました
直に我が殿も軍を引き連れ駿河へ参る故
岩森殿もすぐに発たれる準備を急ぐよう仰ってました」
「佐竹だと!
伊達は下野国で北条軍と睨み合っているのではないか」
「別動隊です、その数1万
佐竹を滅ぼすのには十分すぎる兵力です
我が殿は命とあらば先行して佐竹軍の援軍に駆け付けられるよう
準備をしています、いかがなさいますか
佐竹が滅ぼされれば多方面から伊達の攻撃を受けることとなり
北条軍は小規模で各方面に当たらなければいけなくなります」
「くそっ、わかった
家康殿に先に行くよう伝えといてくれ
俺達も準備ができ次第常陸へ向かう」
「承知しました」
半蔵は一矢の言葉を聞くと消えるようにその場から立ち去った。
「佐久間殿、滝川殿、前田殿、森殿
出足が肝心だ、少しの遅れで被った被害は最後まで
取り戻すことはできない
2日後にでも出れるように急ぐんだ」
「「はっ」」
そして2日後
兵を集めた一矢は徳川軍5千を除いた計1万2千の軍で
北条領へ進軍した。
「先行した家康殿はどの辺にいる」
一矢の問いに信盛が答える。
「すでに常陸に入られたと連絡がありました
あまりにも早すぎる、まるでこうなることが分かっていて
岩森殿の命がある前から動いていたのやもしれませぬ」
「だとすれば軍律違反
たとえ同盟国だとしても徳川殿には罰を与えねばいけないのでは」
信盛の言葉に一益が反応した。
「いやいや、結果的に佐竹殿の援軍に
間に合うのかもしれないんだ、今回は不問にしよう
それより利三、北条殿の動きはどうだ」
斎藤 利三
一矢が遠江国の国主となった際に召し抱えた家臣。
腕が立ち、教養にも優れている。
右腕的な存在として一矢に仕えていた。
「はっ、北条氏康殿も同様に軍を再編成し、
本隊を下野、別動隊を常陸へ向けています
このままいけば我々が常陸へ入る前に北条軍と接触するでしょう」
「であれば大体5日後か
そして常陸に入り太田城へたどり着くのは更に4日後
家康殿、それまで持ってくれよ」
一矢は家康の無事を祈りながら軍の足を早めた。
そして家康はというと常陸国へ入国後真っ直ぐ
佐竹義重の待つ太田城へ向かっていた。
「半蔵、太田城の状況はどうだ」
「すでに伊達軍の包囲は始まっております
想定通り1万の兵で率いるのは伊達成実
当主政宗の従兄弟にあたり伊達軍のナンバー3といったところです
佐竹殿は家康様のご助言通り籠城を固めております」
「伊達成実か、相手にとって不足はない
ここでナンバー3を討ち取れば後の本戦が幾分楽になるだろう
佐竹はなんとしてでも生かしておかねばな」
「家康様ーーー!」
家康と半蔵の会話中に何者かが割って入ってきた。
「忠次か、どうした」
急いできた様子の忠次は馬に乗っているにもかかわらず
息を切らしていた。
「はあ、はあ・・・
下野の伊達本隊にも動きあり
更に武田信玄と上杉謙信も軍を進めている様です!」
「まさか伊達と武田上杉は裏で通じているのか
それが本当なら非常にまずいことになるぞ」
伊達の動きに連動する武田軍と上杉軍
「我の塊みたいな戦国大名がこんなに協力するはずがない・・・
誰かが裏で糸でも引いているのか?」
「でもこの三人を裏で操れるほどの人物などいますかね」
「それもそうだな、考えた所でわかるはずもない
今は自分たちの役割を果たすしかない」
家康は次々起こる問題に頭を悩ませるほかなかった。
最早史実通りの出来事は起こらず各自が勢力を拡大している。
「家康様・・・提案があります」
ふと半蔵が口を開いた。
「何だ半蔵」
「乗っていただければ家康様の天下です」
転生後、淡々と仕事をこなす半蔵は基本無表情であった。
忍びという職業柄もあるかもしれないが家康は半蔵が笑ったところを
一度たりとも見たことない。
それが今初めて笑った。
ニヤリと口元だけ広角が上がった顔は
不気味で主君である家康ですら冷や汗をかくほどであった。
「何を企んでる・・・半蔵」
「伊達を徳川に従属させ軍をそのまま乗っ取り
返す勢いで北条と岩森殿をも従属させるのです
さすればこの日本で徳川は一躍最大勢力になりますでしょう」
半蔵の提案に家康は固まった。
「まさか、今回の件
裏で糸を引いているのはお前か?」
家康の言葉に半蔵からは返事はなく
ただニヤリと笑うだけだったがそれが答えだった。




