織田北条同盟
家康が佐竹義重の元へ赴いていることを全く知らない一矢は
信盛と共に小田原城へやってきていた。
「北条は織田が武田上杉と争う事を知っておる
その為伊達より奪われた領地の分を織田からかすめ取ろうと画策をしておる
まともに手を組む気なぞ奴らにはないのだ」
北条氏康との面会直前信盛から現状を聞いていた一矢は
どうすれば北条をうまく取り込めるか考えていた。
そうこうしていると氏康が姿を現した。
「お初にお目にかかります
織田家家臣岩森一矢と申します、以後お見知りおきを」
「北条氏康である」
日に焼けた肌には幾筋もの細かな皺が刻まれているが、不思議と老いを感じさせない。
瞳の奥には幾多の戦をくぐり抜けた武人だけが持つ鋭い光が宿っていた。
高く通った鼻梁と引き締まった顎は威厳を漂わせ、
口元には整えられた短い髭が渋みを出している。
黒髪にはところどころ白いものが混じり始めていたが、それがかえって風格を際立たせていた。
この男には小手先の技は通用しない。
そう感じた一矢は単刀直入に要求を伝えた。
「北条殿、伊達との戦に我ら織田も参戦させていただきたい
もちろんあなた方のお味方である」
一矢の言葉に氏康は間髪入れずに返事をした。
「おう、いいぞ」
「えっ?」
予想外の言葉に一矢も信盛を言葉を失った。
「ほ、北条殿、ありがたい言葉であるが
某が頼んだ時はなぜ断ったのですか」
信盛が先行して交渉していた時はかたくなに拒んでいた氏康であったが
なぜ一矢が来た途端簡単に了承したのか信盛は理解できなかった。
「そんなの簡単だ
俺直々に頼み事したいのなら下っ端じゃなくて頭が来い
んで今回織田信長ではないが対伊達軍の総大将としてお前が来たんだろ
岩森一矢」
「そ、そんな・・・」
信盛は予想もしていなかった理由に唖然として
それ以降口を開くことはなかった。
「まあそんなとこだ、実際北条だけで伊達を追い返すのは厳しい
手貸してくれるっつーならありがたく協力してもらおうかな」
「承知しました
では早速我らの軍を北条領に入れ・・・」
「だがよお!」
一矢の言葉を遮るように氏康の声が響いた。
「あの信長の事だ、伊達の後は北条も潰せと命令されてるんだろ
あの餓鬼が何の利もなく手を出すはずがねえ
俺達とやりあう覚悟までできてんのか?」
先ほどまでの陽気なおじさんみたいな雰囲気とは打って変わって
年相応の覇気と迫力に圧倒された。
そしてそれまで大人しく控えていた家臣達からも
殺気を感じ取り一矢の額から一筋の汗が流れた。
ここで引いてはだめだ。
一矢はプレッシャーに押しつぶされそう気持ちを抑え
真っ向から言い返した。
「信長様からの命こうです
【伊達の侵攻で弱体化した北条家を従属させて共に伊達を討て】
伊達は滅ぼすが北条を滅ぼせとは言われていない
それに我々自身も伊達に攻められ弱体化した北条軍に
攻撃を仕掛ける予定でした
しかしあまりにも伊達の動きが速い
ならば早々に北条家とは手を組んだ方がいいと判断しました
それに信長様も北条殿の強さをよく知っております
なので尚更共生を求められてるはず
あなた方に天下統一の欲がないのであれば
伊達を滅ぼした後正式に我々の傘下に加わっていただきたい」
「北条が織田の傘下にだと?
対伊達軍とは俺たちは最前線で戦う事になる
そのうえお前たちの傘下になど何の利もないわ!」
氏康が喋るたびに家臣達が今か今かとすぐにでも
無礼な発言をする一矢に切りかかろうとしているのが分かる。
「いいや、北条殿は利で動くお方ではない
顔を合わせて気づきました
だがただ傘下になるなど誰が聞いても断るのも当然
伊達を滅ぼした後、私の権限で今の所領に加え陸奥一国を差し上げます」
一矢の提案に殺気を放っていた家臣たちが揺らいだのが見えた。
だが氏康は未だ態度を変えていない。
「陸奥一国、石高でいえば100万石以上ある大国だ
お前が認めても信長が認めんだろう」
「確かに主君である信長様が認めなければこの提案は叶いません
しかし伊達との戦のあとに北条殿と戦いたくないのも事実
本当に傘下になるのであれば陸奥を差し上げるよう信長様を説得します
ただその代わり北条殿には人質を差し出していただきたい」
「はっはっは!気に入った
一矢!お前の提案に乗ってやる!」
「ふぅ、決まりですね
今後ともよろしくお願いいたします」
一矢は差し出された氏康の手をがっちりと掴みここに
織田と北条の対伊達軍の同盟が締結された。




