どうする元康
時は少し遡る
この地下牢で一年、遠江国を守るために起こった戦
俺は井伊直政として軍を率いていた。
結果は惨敗
今川義元に敗れ、家臣達は戦場で散っていった者もいれば
捕らえられたのち処刑された者もいる。
俺は生きていてもいいのだろうか。
そんなことを考えながらいるとある日突然今川義元の嫡男である
今川氏真が直政の元を訪れた。
「やぁ井伊直政殿
僕は今川氏真、今川家の当主だよ」
爽やかな顔で現れた氏真に対して直政は不信感を抱いた。
「今川の当主様が直々にこんな薄汚い地下牢に何の用だ」
「君に興味があるんだよ
負けるとわかっているのに戦を仕掛けるなんて
とんだ大バカ者なのかそれとも何か特別なものを持っているのか」
そういう氏真は先ほどの爽やかな顔から何か企んでいるような
薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ふん、俺は貴様なぞ興味がないが」
「君も転生者なんだろ
先日父上から転生者とやらの話を聞いた
なんと父上や雪斎、それにかわいがっていた元康までもが転生者だと言ってた」
転生者という言葉に直政は驚いた。
敵である今川の人間には自分が転生者だということは言ってなかったはず
そんなことを思っていると氏真が続けて話した。
「何で知っているのかと驚いているね
実は君の仲間から聞いたんだ
名は確か 岩森一矢といったかな
別の牢で捕らえているんだ」
岩森一矢、石川五右衛門をモデルとし、他の転生者の能力を奪うことができるスキルを持つ。
元々井伊軍の幹部であった大島光義が雪斎に暗殺された際、近くにおり
能力を受け継いだ後井伊軍の一員として戦に参加していた。
「まぁこの際君が転生者であろうがなかろうがどちらでもよい
それよりも父である今川義元が転生者なのが許せん
この高貴な今川家の血脈を汚す輩は排除すべきだ
君もそう思わないかな!!」
だんだんとヒートアップしていく氏真を直政は鼻で笑った。
「今川家の事情なぞ、俺には関係ないこと
殺すならばさっさと殺せ」
「殺さないよ、君にも僕に協力してもらいたいんだ」
「なんだと」
予想外の言葉に直政は一時驚いた。
「実は次の織田軍との戦で父は元康の暗殺も目論んでいる
織田と一緒に松平も葬ることで尾張、三河を直接支配するつもりだ
だから元康にこの計画を話しこちら側に引き込むそして!
汚れた今川義元を排除し、僕が今川家の真の当主になるんだ」
実の息子である氏真の裏切り、史実ではなかったことだ
これをチャンスだと感じた直政はある提案をした。
「では事前に松平元康に会わせてほしい
協力するのはそれからだ」
「いいだろう、では機会を作ってまた来ることにするよ」
そういうと氏真は地下牢を去った。
そして時は5月5日に戻る
地下牢へ入った元康は氏真に連れられ直政の元へ訪れた。
「やぁ直政殿。約束通り連れてきたよ」
酷くやせこけ戦前に顔を合わせたときに見た精悍な顔つきでは
なくなっていた直政の顔を見て元康は膝をつき、謝罪をした。
「申し訳ない!直政殿
裏切るような形になってしまって」
頭を下げる元康に直政は静かな声で語り掛けた。
「松平の当主が簡単に頭を下げるものじゃありません
別に裏切られたものと思っていませんから」
「ありがとう、直政殿」
「和解した事で今回の計画を僕から説明するよ」
氏真は前回直政に話した内容に加えて、具体的な作戦を話し始めた。
「今回桶狭間で織田軍を迎え撃つ形をとる義元軍だがそれに呼応する
織田軍の本陣奇襲に合わせて大高城より元康の軍と駿河を守備をする予定の兵
およそ3千で義元軍を背後から挟撃する作戦だ
最初は父 義元の援軍に見せかけ接近する必要がある
そして僕たちか織田が義元の首を獲ったのち、残りの今川の残兵をその場でまとめ
織田も一緒に葬るのだ」
この場で初めて聞く氏真の企みに元康は動転するしかなかった。
こんなこと史実ではなかったはずだからだ。
「う、氏真様、お待ちください
織田を迎え撃つ形を取っている今川軍に隙はありません
正面切って戦う場合織田の奇襲は通用しません
それに義元様をここで裏切る利が私にはありません」
「元康、この戦に勝てば三河国の統治は君に一任するし
僕は君を義元のようには扱わない
更に君はこの戦で父に暗殺されるよ
それでも裏切る必要はないかな?」
義元の計画、氏真の計画どちらに乗るべきか元康は迷った。
義元側に付き無事戦に勝っても暗殺されるリスクがあり
氏真側についても史実には全くない動きに対して不安要素が多すぎる。
迷う元康を横目に直政は言った。
「何を迷う必要がある元康殿
いずれにしても今川義元という敵に対して単独撃破は難しい
今この瞬間、それぞれの思いはあろうが今川義元という共通の敵に対して
協力するべきだ」
「あっそうそう
岩森一矢も僕の提案に乗ってくれてね、機を見て牢を脱出して協力してくれるって
雪斎に相当の恨みを持っているみたいだったな」
「太源雪斎は幹部だった光義の仇だからな」
元康は迷っていた。
すでに駿河、遠江、三河を支配し強大な力を持つ義元か
織田の奇襲に便乗し背後からの襲撃、
そっくりそのまま全てを手に入れようとしている氏真か
この場で元康の答えは出ることはなかった。




