平定
一矢達が森の方へ攻撃を仕掛けると
敵も森側の兵数を更に厚くしようと動き出すとともに
左右と背後からも追いかけ他の逃げ場を塞いだ。
「アクティブスキル【夢想流居合】」
槿露は森側の兵に衝突する寸前でアクティブスキルを使用した。
アクティブスキル【夢想流居合】は前方に向かって瞬時に移動し切りつける技。
瞬きしている間に切られた兵は切られたことにも気づかぬまま絶命していった。
槿露はこのスキルによって十数人倒したが
一人敵の中に孤立する形になってしまった。
「この者義元様と同様の技を使う転生者だ!
囲んでやっちまえ!」
周りにいた兵士は一瞬困惑していたが
すぐに我に返り槿露を襲った。
「まずい!今行きます」
先ほどまで槿露のすぐ後ろは走っていた一矢は
孤立した槿露を助けるため速度を上げた。
がすぐにその必要がないことを悟った。
無楽流居合の流祖である長野 無楽斎 槿露はスキルを使わずとも強く
群がった兵を簡単に切り伏せてしまった。
「岩森殿!俺の助けは大丈夫だ
それより井伊軍の指揮を任せる」
「えっ俺が指揮を・・・」
一矢が後ろを振り返ると真っ直ぐな目で自分の事を見つめる兵たちがいた。
「岩森様!先ほどの弓捌き実に見事でした!」
「どうか我々の事を導いてください!」
「それにあなた様は大島様の大和弓を受け継いでおられる
先ほどの戦いはまさに大島様そのものでした
そんなあなたに反発する者などこの場にはいません」
先ほどまでの一矢の戦闘を近くで見ていた井伊軍の兵たちは
いつの間にかこの場でのリーダーを一矢だと定め、認めていた。
そして光義がこれまでどれだけ皆から信頼されてきていたかを実感することになった。
「わかった、やるしかないんだな
光義・・・力を貸してくれ!」
一矢覚悟を決めると深呼吸をしたのち
味方の兵に叫んだ。
「長野殿が空けた穴を突破する!俺に続けえええ!」
「おおおおお!!!」
一矢の檄に後ろの兵が呼応した。
一つにまとまった一矢達は槿露がスキルで空けた穴に向かって
攻撃を仕掛けた。
総兵数では劣っているものの
森側に配備されている今川兵よりは井伊軍の数が多いので
槿露のスキルで混乱を生み、そのすぐ後に訪れる決死の井伊軍の一点突破が
有効に効きみるみるうちに敵の壁を抜けていった。
「もう少し、もう少しだ!」
石川五右衛門のパッシブスキルの効果で身軽に動いている一矢は
次々に兵を切り伏せ、ついに今川軍の包囲を抜け出した。
「はぁはぁ・・・このまま森へ入る!
最後の力を振り絞れ!」
一矢は最後の檄を後方の兵へ向け投げかけ
森の中へ入っていった。
少し進むと先に包囲を抜けていた槿露の後ろ姿が見えた。
「長野殿、無事でしたか」
一矢が話しかけると同時に違和感に気づいた。
「い・・・わもり・・・殿
罠だ・・・引き返・・・すんだ」
既に瀕死の状態の槿露の傍らにもう一人の影が見えた。
そしてすぐにその者が誰だかわかった。
「貴様か、また会ったな」
「太源・・・雪斎・・・」
光義の仇、黒衣の僧
今川軍のナンバー2 太源雪斎
光義が雪斎に殺されてからも更に成長した今ならわかる。
自分と雪斎の間にはすぐには埋められないほど力量の差があることを。
だが一矢は目の前に突如現れた友の仇に頭より先に体が反応した。
「太源雪斎!お前だけは絶対殺す!」
「己の力量も理解せず、猪が如く向かってくるとはまだ子供だな」
そういうと雪斎は後ろを振り返り、右手を挙げた。
「背中を見せるなんて舐めてやがる」
一矢は一直線に雪斎に向かって走った。
その瞬間雪斎の周りから姿を隠していた無数の弓兵が現れた。
「なっ!伏兵だと・・・」
一矢は歩を止め後ろを振り返る。
そこには今川軍の包囲を抜け走って来る井伊軍兵が大勢いた。
その先頭の方は雪斎達伏兵に気づいたものもいるが更に後ろから押し寄せてくる味方に
押し出され止まれず、進まざるを得なかった。
「伏兵だああ!みんな逃げろ!」
敵の包囲を抜け安堵する者、伏兵に気づき困惑する者、絶望し諦める者
一矢の叫びはもはやどの味方にも届かなかった。
「憐れなり、岩森一矢、そして井伊直政
この戦これにて終了だ」
雪斎の合図でおよそ300人もの弓兵が矢を放った。
なすすべなく井伊軍の兵が倒れていく。
そしてすでに余力が残っていなかった一矢も
数本の矢に体を射抜かれ無残にも倒れていった。
井伊直政率いる井伊軍5千VS今川義元率いる1万の戦いは
今川軍による一方的な勝利で幕を閉じた。
主要な人物でいうと
今川軍 岡部元信が井伊直政によって戦死
井伊軍 長野槿露が雪斎によって戦死
井伊直政と岩森一矢は生死不明
この戦いで今川義元は駿河国に次いで遠江国を平定。
更に三河国の支配者 松平家を傘下に加え
日ノ本屈指の大名へと成りあがった。
■駿河国・・・現在の静岡県中部
■三河国・・・現在の愛知県東半部
■松平家・・・三河国の大名、当主松平元康




