好機②
「元信様あああ!」
拮抗すらすることなく無残に殺された元信の配下達は
駆け抜ける直政達をただ茫然と見つめるだけに留まっていた。
「残りは今川義元とその護衛達だけだ
全体では数で劣っているが護衛兵だけなら俺たち300人と数は変わらん!
さっさと討ち取り後方を助けに行くぞ!」
「おお!」
今川家重臣を簡単に討ち取り、これから相手する今川護衛兵たちの数も
こちらと変わらないとみた直政直近の300の兵達の士気は最高潮に達していた。
意気揚々とこちらに向かってくる部隊を見て、
呆れた表情でため息を漏らす義元は静かに立ち上がり
近くにいた兵に愛刀である固有武器義元左文字を持ってこさせた。
「まったく元信め・・・
いや、本名は・・・なんだったけか
同じ転生者だったから優遇してやったが使えん奴だ」
そう、義元も元信も転生者であった。
この時代において現代人は未来が分かる超越者となれる。
また海道一の弓取りとして名を馳せる義元にとって
現段階での直政は格下である。
そして転生者の影響かなにかで史実ではすでに死亡しているはずの名軍師
太源雪斎が未だ存命で義元を支えている。
「ここで井伊直政を迎え撃つ
直に雪斎からも合図があろう」
ここに300対300の井伊直政VS今川義元の構図が出来上がった。
「今川義元!覚悟
アクティブスキル!【伝長船倫光】」
直政の飛ぶ斬撃で護衛兵達が倒れていく
直政を先頭に部隊同士衝突した。
圧倒的個人技で切り進めていく直政とは裏腹に
後続の兵が足止めを喰らっていた。
「ぐっ、こいつら全員強いぞ」
「当たり前だ、義元様のパッシブスキルで義元様直々に指揮を行うことで
我らのATKが上昇されておるのだ
ここにいるお互いの数は同じでも一人一人の質は段違いだ」
義元のパッシブスキル【海道一の弓取り】の効果によって
護衛兵たちのATKが15%上昇していることにより、
井伊軍の兵たちは次々と切り捨てられていった。
「どうにか義元の首さえ取れれば勝機はある」
直政は単騎で護衛兵を抜け、遂に義元の眼前まで馬を進めた。
「義元おおお!俺の勝ちだ!」
馬上で刀を振りかぶる直政を義元は不敵に笑い見上げた。
「わざとここまで来させてやったことにも気づかず
憐れなり、井伊直政
雪斎からも合図が出た 戦は終いだ」
レベル40の直政に対し、義元はレベル55
単純な一対一の勝負においてもこの戦場で義元に勝るものはいなかった。
「アクティブスキル【左文字切り】」
義元のスキルにより一瞬で無数に切り刻まれた直政は
振り上げた刀を降ろすことなく地に伏した。
時は少し戻り
SPの残量を気にしつつアクティブスキル【雲穿つ弓】で左右の敵を倒していたが
一度の使用でSP-12のスキルは3回も使えば残りSPが6になり
スキルが使えなくなった一矢は疲労とともに膝をついた。
左右に囲まれた状態ながら自軍の脆弱な箇所の援護を行っていたことで
なんとか壊走を免れていたものの一矢の援護が無くなってからは
じりじりと今川軍に押され始め、気付いたころには
左右だけではなく前後も今川軍に囲まれていた。
「はぁはぁ・・・ここまでか」
一矢はここからは乱戦になることを想定し
モデルを石川五右衛門に戻し武器を無銘の短刀に持ち替えた。
周りを見ると他の井伊軍兵士も覚悟を決めた顔をしている。
「みんな!直政様が今川義元の討ち取るまでの辛抱だ
お互い背中を預けて持ち堪えよう!」
一矢の檄に周りの兵が呼応した。
「よしっこれならなんとかもう少しは持ちそうだ」
覚悟を決め短刀を強く握りしめたタイミングで
背後から自分の名前を呼ぶ声がした。
「岩森殿、策がある」
「あなたは、たしか・・・」
一矢が振り向くと、そこには
直接話したことはないが、直政の前に初めて光義と赴いたときにいた
幹部の一人がいた。
「井伊直政が家臣
長野 槿露
俺も転生者だ」
「あなたがもう一人の転生者だったんですね」
「ああ、今はとにかく時間がない
皆聞け!
策を説明する」
槿露は正面向かって左側。森の方を指差した。
「四方八方囲まれてはいるが森側にいる敵兵の数が特に多い
恐らく背後の森に逃げられれば追跡が難しくなるからだろう
だから俺のスキルで敵の壁に穴を空ける
そこに一点突破でここの全兵力を当てて森へ入る
そこで一旦体勢を整えよう」
槿露の作戦に一矢と周りにいた兵士は同意し
周辺の味方を呼び寄せた
「よし、準備はできたな」
槿露を先頭に簡易的な三角形の布陣、魚鱗の体制をとった井伊軍は
森側の方へ攻撃を仕掛けた。
■長野 無楽斎 槿露(ながの むらくさい きんろ)
戦国時代から江戸時代前期の剣客。無楽流居合の流祖。




