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海月  作者: ふるかわゆう


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第五話 夢日記

目を覚ました瞬間、私は自分の胸元を強く握りしめていた。


息が、苦しい。


額には汗が滲み、パジャマの背中までじっとりと濡れている。

まだ、夢の中にいるような気がした。


『たすけて』


先ほどまで聞こえていたあの声が、耳の奥から離れない。


『たすけて』


何度も、何度も――


あのチョウチンアンコウが、女の子の声でそう嘆いていた。

私に縋るように、言葉を繰り返していた。


私はゆっくりと辺りを見渡した。

見慣れた自分の部屋。

窓の外は、まだ薄暗い。


枕元に置いていたスマートフォンを手に取る。

画面をつけると、暗い部屋の中に白い光が浮かんだ。

その眩しさに、私は思わず目を細める。

画面をつけると、現在の時刻が表示されていた。



午前五時四十分。


二〇二五年一月十五日。



いつもより、ずっと早い。

けれど私は、もう一度眠ろうとは思わなかった。


あの少女が、どこにいるのか。

なぜ、私に助けを求めたのか。

それを確かめなければならない。


そう、思った。


これまでにも、何度も同じような夢を見てきた。


薄暗い海の底を、ただ彷徨い続ける夢。

奇妙な夢だとは思っていた。


けれど、夢のことをわざわざ記録しようとは思わなかった。


所詮、夢だ。


わざわざ気にして書き留めるほどのものでもない。

夢は、目が覚めてしまえば消えていくものだと思っていたから。


でも――今日は違った。


初めてあの場所で、私以外の存在を見た。


そして、その存在から声を聞いた。


『たすけて、お姉ちゃん』


私の勘でしかない。

それでもきっと、あの少女だと思う。


あの声を、忘れたくなかった。


少女がどこにいるのか。

なぜ私に助けを求めたのか。

夢の中で何が起きていたのか。


それを確かめるためにも、残しておきたいと思った。


私はベッドから起き上がると、机の前に座った。

引き出しから、一冊の真新しいノートを取り出す。


そして、最初のページを開いた。

まだ何も書かれていない、真っ白なページ。


ペンを握り、美咲はゆっくりと文字を書き始めた。


『夢日記』


その下に、日付を記した。


――二〇二五年一月十五日


今日から、この夢を書き残していこうと思う。



――私は深い海の底にいた。


周りには何もなくて、暗くて、静かだった。


私はクラゲになっていた。


今の時点では、話すことができない。


そして、初めてその夢の中で声が聞こえた。


見た目は違うけれど、チョウチンアンコウみたいな生き物。


『たすけて』


朝助けた女の子の声だったと思う。


『古びた施設』『鍵の掛かった扉』


あの扉の向こうに、あの子がいる気がする。



私は、あの子を助けたい。



日記を書き終えると、私はペンを机の上に置いた。

書いたばかりの文字を、もう一度ゆっくりと見つめる。

こうして文字にしてみると、夢の中で起きたことが少しだけ現実味を帯びてくる気がした。

私はノートを閉じ、そっと引き出しの中へしまった。


これで、忘れない。


そう思いながら、私はもう一度ベッドへ戻った。

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