Episode 04
女の子は盛大に宙を舞い、地面を転がった。
圧倒的だった。
インフルエンサーとして積み上げたクオンタポイント。
高レベル素材による圧倒的な装備性能。
それらの前では、女の子のクオリアは、あまりにも無力だった。
「……あ。えっと、ごめん。まさか、一撃で終わるとは思わなくて……。」
勝った方はといえば、ものすごく申し訳なさそうに頭を掻いている。
「とにかく悪かった。僕はもう行くけど、お詫びにポーションだけ置いていくから。よかったら使ってよ。」
そう言い残すと、彼は足早にその場を去っていった。
……狩野ライムP、いい奴じゃないか。
それに引き換え、残された女の子はというと。
「うぅ……っ。誰が、あんな奴の施しなんて……っ!」
地面にへたり込んだまま、大粒の涙をこぼして悔しがっている。
さすがに、なんだか可哀想になってきた。
俺は茂みから出て行く。
「大丈夫?そこのポーション、使わないの?」
「いや!あんな奴のポーションを使うくらいなら、このまま死に戻る!」
頑固だなぁ。
とはいえ、俺も今日はアイテムを使い切ってしまっている。
手持ちの回復薬はない。
どうしたものか。
そう思いながら、ふと足元に視線を落とす。
……そういえば、試してみたいことがあったんだよな。
「ちょっと待っててね。」
俺はそう声をかけると、女の子に背を向け、しゃがみ込んだ。
地面のくぼみに、濁った水が溜まっている。
俺は手持ちの空の容器を取り出し、そこに泥水をすくった。
……うわ、ただの泥水なのにディテール細かいな。
まあ、VRだし、身体に影響はないだろう。
俺は泥水の入った容器を手に、女の子の方へ向き直る。
そして、それを差し出す。
「じゃあ、俺のポーションなら飲める?」
「……え?」
「ほら、今ならまだリカバリーできる。」
女の子は怪訝そうな顔で、俺の差し出した容器を見つめた。
「これを……もらってもいいの?」
「もちろん。」
「……でも、見ず知らずのプレイヤーなのに、ここまでしてもらうのは、ちょっと……。」
「いいんだ。」
俺は笑った。
「俺は初心者なんだけどさ。自分が作ったアイテムに愛着が湧く気持ち、すごく分かるなって思って。」
そして、大げさな身振りで続ける。
「だから、さっきの戦い。野次馬なりに、君のことを応援しちゃったんだよ。」
女の子の表情から、疑いの色が消える。
「さあ、とても冷えていて、ミネラルもたっぷりだ。これを飲んだら、疲れなんて一瞬で吹っ飛ぶよ。」
女の子は俺の言葉を受け入れるように、小さく頷く。
そして……。
泥水を啜った。
「……凄い!」
女の子が目を見開いた。
「HPが全快しただけじゃない。バフまでかかってる!」
嬉しそうに、何度も自分のステータスを確認している。
「本当にありがとう!」
俺は、女の子に聞こえないように小さく呟いた。
「……これは、もしかしたら。」
「どうしたの?」
「いや……。」
俺はさらに検証を続けることにした。
「さっきの戦いを見る限り、本当に僅差での決着だったと思うんだ。」
「え?」
「せっかくバフもかかったことだし、もう一度挑戦してみない?」
「……ありがとう。」
女の子は少しだけ俯いた。
「でも、悔しいけど……力の差は歴然だったわ。」
そして、自分の装備を見る。
「それに……あなただって、私の装備、ダサいって思うでしょ?」
「まさか。」
俺は即答した。
「こんなに可愛いじゃないか。」
「……!」
「さっきは相手に気後れして、クオリアポイントを乗せきれなかっただけだよ。」
俺は続ける。
「それに、君は本当にそれを『良い』と思ってるんだろ?」
「当たり前よ!」
女の子が顔を上げた。
「私、レオと一緒にこのゲームをクリアするって誓ったんだから!」
……レオ。
そうか。
これ、ライオンだったのか。
「だったら、君がレオを信じないでどうする。」
俺は、散らばった女の子の剣と盾を差し出した。
「ほら。もう一度、手に取って。」
女の子はゆっくりと立ち上がる。
そして、剣と盾を握った。
次の瞬間。
女の子の装備から、尋常ではないオーラが噴き出した。
「……力が……湧いてくる……!」
「さあ。」
俺は笑った。
「リベンジだ。」
女の子が奇声を発しながら、先ほど立ち去ったばかりの男の背中へ猛然と駆け出した。
「えっ!?なにっ!?」
突然の強襲に、狩野ライムPが振り返る。
どうやら、PvPの設定はまだ解除されていなかったらしい。
女の子の剣が、見事に彼の胴体を捉えた。
一閃!
……ドゴォォォォンッ!!
まるでダンプカーにでも跳ね飛ばされたかのように、狩野ライムPの身体が錐揉み回転しながら宙を舞う。
そのまま、フィールドにそびえ立つ巨大な木へ、激突した。
「ははっ。」
俺は思わず笑みをこぼした。
「……彼には申し訳ないけど、効果絶大だな。」




