Episode 05
狩野ライムPを吹き飛ばした女の子が、満足げな足取りで戻ってくる。
「ありがとう。あなたのおかげで、自信がついちゃった。」
晴れやかな笑顔だった。
そんな女の子を見ていると、少し心が痛む。
申し訳ないけど、仕方がない。
「……ひとつ、謝らせてほしい。」
「なに?」
「もう少し、このままでもいいんだけどさ、そろそろ現実に戻らないといけないんだ。」
「ああ、ログアウトするってこと?」
「いや。それもあるんだけどね。」
俺は正直に告げる。
「俺がログアウトするからこそ、君の『認知』も元に戻さないといけないんだ。」
女の子が、不思議そうに小首を傾げた。
「……どういうこと?」
「君の装備がインフルエンサーを上回ったのは、本当にレオへの愛だけだったと思う?」
「それは……。」
女の子は少しだけ苦笑した。
「そう思いたいのは山々だけど……実際は、そうじゃないんでしょ?」
そして、俺を見る。
「あなたのバフのおかげってことよね。私も、それほどうぬぼれてないわ。それが『現実に戻る』ってこと?」
「うん。それが一つ。」
察しが良くて助かる。
だが。
「もう一つあるんだ。」
俺は、女の子が手に持っている容器を指差した。
「君がさっき飲んだポーション。もう一度、よく見てみてくれないか?」
「え?これ?」
女の子が、手元の容器を覗き込む。
そこには、正体不明の澱が沈んでいた。
表面には油膜のようなものがギラギラと浮かんでいる。
よく見ると、小さな虫が必死に這い上がろうとしていた。
ドロリとした、茶色い液体。
まごうことなき、ただの泥水だった。
「君はね。」
俺は努めて淡々と告げる。
「その泥水をポーションだと信じ、自分の自作アイテムを最強だと思い込んだんだ。」
「えっ……?」
女の子の顔が固まる。
「うそ……。」
「いわゆる『催眠術』ってやつだ。」
「…………。」
「しょせんは本人の思い込みだから、別に解除しなくてもいいんだけど……。」
俺は申し訳なさから曖昧に笑った。
「そのまま放置しないのが、俺のポリシーでさ。」
「…………。」
「ゴメンね。」
みるみるうちに、女の子の顔から血の気が引いていく。
青ざめ、目を見開く。
口元が、わなわなと震え始める。
そして……。
まさか、これほど、はっきり効果が出るとはなあ。
そんなわけで、さっきまで盛大にえづいていた美少女が、どういうわけか今度は目をギラつかせながら、俺の袖に縋り付いている。




