Episode 03
今日は、フィールドへ出る前に一つ試したことがある。
掲示板で人気になっていたアイテムを、そのまま真似してクラフトしてみたのだ。
結果は、惨敗。
完成した武器は、コストの割に出来が良く、クオリアポイントも高めだったが、本家ほどのステータスにはならなかった。
考えてみれば当然だ。
いくら形を似せたところで、それはただの模造品。
発案者に集まった「いいね」が、コピー品を作った俺に集まるわけじゃない。
つまり、クオンタポイントが圧倒的に足りない。
「真似するだけじゃダメってことか。」
どうやら、このゲームでは独創性も重要らしい。
逆に言えば、そのクオンタポイントを中心にステータスを伸ばすプレイスタイルも存在する。
極端なのが、インフルエンサーだ。
例えば、無名のプレイヤーと人気プレイヤーが、まったく同じデザインのアイテムを作ったとする。
性能が同じでも、より注目されるのは当然、人気プレイヤーの方だ。
評価される機会が多ければ、それだけクオンタポイントも集まりやすい。
つまり、ゲーム内で有名になり、ファンを増やすこと自体が強力な攻略手段になるわけだ。
もちろん、プレイヤーの間では賛否があるらしい。
けれど、実際にその方法で攻略しているプレイヤーもいる。
誰にでもできることではないし、それはそれで立派なプレイスタイルとして成立しているようだった。
そんなことを考えながらフィールドを歩いていると、少し先の開けた場所に、二人のプレイヤーがいるのが見えた。
「……ん?」
どうやら揉めているらしい。
このゲームでは、一方的なPKや嫌がらせはあまり起きないと聞いている。
悪名が広まってしまえば、当然、他のプレイヤーからの評価も得にくくなるからだ。
そうなればクオンタポイントの恩恵も受けられない。
ゲームを進めるうえで、それはかなりの痛手だ。
実際、さっき俺を助けてくれたプレイヤーの装備には、感謝を込めて高評価を入れている。
ああいった親切も、そのまま評価、即ちステータス上昇につながるわけだ。
だから基本的には、友好的に遊ぶプレイヤーが多いはずなのだが……。
気になった俺は、木陰に隠れて少しだけ近づいた。
すると、二人の会話が聞こえてきた。
「いや、悪かったって。ちょっと変わったワンポイントだったから、そういうのが好きなのかなって聞いただけだろ?」
「違う!さっき、この盾の柄を『ダサい』って笑ったでしょ!」
「いや、だから。」
「あなた、有名なインフルエンサーの狩野ライムPでしょ!自分のほうがセンスがいいって決めつけるなんて失礼よ!」
「そんなつもりはなかったんだけど……。」
男は少し困ったように頭を掻いた。
「そう思わせてしまったなら謝罪する。本当に申し訳なかった。どうすれば許してもらえるだろう?」
「勝負して!」
「え?」
「どっちの装備が優れているか、勝負よ!」
……すごいな。
話がどんどん大きくなっている。
狩野ライムPと呼ばれた男には、俺も見覚えがあった。
名前まで覚えてはいなかったが、まとめサイトか何かで見たことがある気がする。
対して、彼に食ってかかっているのは……。
「……可愛いな。」
思わず呟いてしまった。
いや、可愛いどころじゃない。
めちゃくちゃ可愛い。
アバターにしても、可愛すぎるだろ。
俺がつい見とれている間にも、話は進んでいたらしい。
「それで君の気が済むならいいけど……本当にそれでいいの?」
「このゲームにはクオリアポイントがあるのよ!」
女の子は胸を張った。
「私の装備への愛で、あなたのクオンタポイントを上回ってみせる!」
……ずいぶん熱い展開だな。
俺は茂みから顔だけを出して、二人の対峙を見守る。
狩野ライムPの装備は、いかにも高レベルプレイヤーといった感じで、見るからに強そうだった。
使っている素材のランクも、初心者の俺とは桁が違うのだろう。
対して、女の子の装備は……。
「……なんだ、あれ。」
なんとも面妖な盾だった。
犬なのか猫なのか、そもそも動物なのかすらよく分からない。
謎のゆるキャラのようなイラストが、盾いっぱいに大きく描かれている。
そして剣には、恐らく同じキャラクターなのだろう。
キーホルダーのようなものが、ジャラジャラとぶら下がっていた。
確かに、思い入れの強さでクオリアポイントは変動する。
女の子が本気であの装備を愛しているのなら、相当な数値になっている可能性もある。
だが……。
インフルエンサーの大衆評価。
高レベル素材。
そして、それを扱う本人の実力。
それらを全部ひっくるめて考えれば、さすがに。
……いや、まさかがあるのか?
勝負は、一瞬だった。




