Episode 02
昨日は、ついゲームに夢中になってしまった。
同じ素材で作った装備でも、大きさや角度など、ちょっとしたパラメータを変えるだけで、完成時のステータスが変わってくる。
しかも、「おっ、これイイじゃん!」と、自分好みに仕上がったものほど高性能になる。
そりゃあ、作るのも装備するのも楽しくなる。
現実に戻ってからも俺は、掲示板やまとめサイトを覗いていた。
そこで、いくつか攻略のコツも分かった。
まず、クラフトしたアイテムは、積極的にゲーム内のコミュニティで発表したほうがいいらしい。
自分の満足を優先して作ったアイテムでも、他のプレイヤーから共感を得られれば評価が上がる。
さらに、素材の入手難度に対して性能が高かったりすれば、「コスパの良い装備」として注目されることもある。
そうなれば、クオンタポイントも上がっていく。
つまり、クオリアを追求して作ったものを、クオンタでさらに強化できるわけだ。
なるほど。
そして、もう一つ。
コミュニティでは、自分と趣味の合うプレイヤーを見つけることも重要らしい。
考えてみれば当然だ。
「カッコいい」が好きな人間が、「かわいい」を追求しているプレイヤーのレシピを参考にしても、そこから得られるクオリアは大きくない。
どれだけ他人から評価されている装備でも、自分が気に入らなければ強くならないのだ。
「……なかなか奥深いな。」
そんなことを考えているうちに、時計を見る。
「さて……明日も仕事だけど、ちょっとだけログインするか。」
誘惑に勝てず、俺は今日もVRヘッドギアを被った。
そして現在。
「……ちょっとのつもりが、完全に調子に乗ったな。」
俺は、薄暗い森の奥でへたり込んでいた。
視界の端で点滅しているHPゲージは、残りわずか。
いわゆる、ミリ残しというやつだ。
誰も見つけていないレアアイテムがあるんじゃないか。
隠しスキルが眠っているんじゃないか。
初心者の俺が、偶然それを見つけちゃう、なんて展開があるんじゃないか。
……まあ、そんな都合のいい話があるわけもなく。
分かっていたのだが、つい奥へ、奥へと進んでしまった。
結局、手に入ったのは特に珍しくもない低ランクの採集素材ばかりだった。
「……これは死に戻りかなぁ。」
ダメ元で、強行突破を覚悟する。
そのときだった。
「見たところ、初心者?」
不意に声をかけられた。
「え?」
いつの間に近づいたのか、すぐ後ろに、いかにも高レベルらしい装備を身につけたプレイヤーが立っていた。
「あ……そうなんです。無計画に奥まで来ちゃいまして。」
「これを使うといいよ。」
彼はポン、と液体の入った小瓶を差し出してきた。
アイテム名は『ポーション』。
多くのゲームで定番の、もっともポピュラーな回復アイテムだ。
「いいんですか?助かります!」
「気にしないで。大したアイテムじゃないから。」
「ありがとうございます!」
ありがたく受け取り、俺はすぐにポーションを使用した。
「……えっ?」
思わず声が漏れた。
HPゲージが跳ね上がったのだ。
さっきまでミリ残しだったのが、大幅に回復している。
「これ……結構、貴重なポーションだったんじゃ……。」
「そんなことないよ。一番安い普通のポーションさ。」
「え?」
俺が首を傾げると、彼は少し笑った。
「たぶん、君がそのポーションを『とても良い物だ』って感じたからだと思う。」
「……俺が?」
「うん。クオリアポイントが加算されたんじゃないかな。」
彼は何でもないことのように言う。
「喜んでもらえたみたいで良かったよ。」
俺は、一気に安全圏まで回復したHPゲージを見つめた。
そうか。
クオリアポイントは、クラフトするときだけじゃない。
アイテムを使うときにも加算されるのか。
自分が「これは良い物だ」と感じれば、それだけで性能が上がる。
俺は、この世界のルールを少しだけ深く理解した気がした。




