Episode 19
闘技場へと続くポータルの前。
光の渦を前にして、俺は足を止めた。
「ここまでだな。俺がついていけるのは。」
振り返り、シーラと向き合う。
「相手は本選仕様のインヴァリードだ。予選とは比べものにならないくらい、強力になってる。」
「……うん。」
俺は、シーラの目を見る。
「それでも……今のシーラが勝てないとは、俺はまったく思わない。」
声のトーンを落とし、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「思い出してくれ。これまでの、レオとの冒険を。」
シーラが静かに目を閉じる。
「数々のダンジョン。強力なモンスター。何度も追い詰められ、それでもレオとともに乗り越えてきた危機。」
その一つ一つが、彼女の中で鮮明に蘇っているはずだ。
「どんな困難が相手でも……。」
俺は続ける。
「レオと共に戦うとき、君はいつだって最強だった。」
シーラの呼吸が、ゆっくりと深くなる。
俺はシステムウィンドウを展開した。
「これを見て。」
そこに映し出したのは、実況掲示板だ。
「すごい勢いで、シーラとレオを応援するコメントが流れてる。」
「……え?」
シーラが目を開く。
流れていく大量のコメントに、視線を走らせる。
「……ついに、みんながシーラとレオを認めてくれたんだ。」
次から次へと書き込まれていく。
「みんなが……。」
シーラの瞳が揺れる。
「……レオを。」
彼女がずっと願っていたこと。
自分の好きなものを、誰かに認めてもらうこと。
その願いが、今まさに目の前で形になっている。
ゴウッ……。
シーラの全身から、陽炎のようなオーラが立ち昇った。
周囲の空気までビリビリと震える。
圧倒的なクオリアポイント。
これまで積み重ねてきた、レオへの想いが一気に膨れ上がっていく。
……仕上げだ。
「さあ。これを食べたら、最後の戦いだ。」
俺はインベントリから、いつもの『パン』を取り出した。
「このパンには、これまでいろんな効果があったよな。」
そして、シーラへ手渡す。
「攻撃力を上げたり。防御力を上げたり。これまで、何度も君を支えてきたパンだ。」
シーラが両手でパンを受け取る。
「でも、これは今までの、どのパンよりも美味い。」
俺はシーラの目をまっすぐ見つめる。
「……最高の仕上がりだ。」
そして、ゆっくりと言葉を続けた。
「約束するよ……。今の君なら、このパンの力を100%使いこなすことができる。」
シーラは小さく頷いた。
そして、パンを一口かじる。
ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
その瞬間……。
全身からあふれていたオーラが、スッと彼女の内側へ収束していった。
シーラは、とても落ち着いていた。
表情は驚くほど柔らかい。
だが、その瞳だけは……。
かつてないほど、力強く燃えていた。
……完璧だ。
「さあ。」
俺はポータルを示すように、一歩横へ退いた。
「君の……いや。」
一瞬だけ言葉を区切る。
「俺たちの『レオ』を、世界に見せつけてやろう。」
「ええ……行ってくる!」
迷いのない足取りで、シーラが光のゲートをくぐっていく。
その背中を見送った俺は、小さく息を吐いた。
俺がやれることは、全部やった。
あとは、シーラの仕事だ。
俺の目の前に浮かぶ掲示板は、とんでもない勢いで更新されていた。
シーラを揶揄する書き込みが、まるで滝のように流れていく。
>キターーー!
>待ってたぞ!
>あいかわらず変なイラストwww
>第二部ネタ枠、最後のプレイヤー!
>やれんのか!?
>腹ペコ剣士ーーー!!
その熱狂を横目に、俺は闘技場へ続くポータルを見つめていた。




