Episode 17
江田飛平とインヴァリードの戦闘は、思いのほかあっけないものだった。
江田飛平の装備は、元々が初期装備。
『基本性能無効化』というインヴァリードの特殊能力を受けても、失うものはほとんどない。
だが。
どれだけ自己暗示でクオリアポイントを極限まで高めていても、ベースになっているのは『布の服』と『古びた銅の剣』だ。
攻撃を繰り返しても、インヴァリードのHPが思うように減っていかない。
そして、そのまま規定タイムを迎えた。
「……やっぱり、ゲームである以上は、良い素材を集めるっていう基本も大事なんだな。」
俺はモニターを見上げながら呟いた。
「でも、ああいう極端なプレイスタイルを見るのは面白いし、勉強になるわね。」
シーラの言う通りだ。
確かに、プレイスタイルは極端だった。
それでも、予選のインヴァリードカザイは突破しているはずだ。
それが本選では、時間内に削り切れなかった。
「……それだけ、本選のインヴァリードが強いってことか。」
予選のカザイとは、やはり別物らしい。
「さて、次のプレイヤーだ。」
俺は手元の解説スレッドをスクロールする。
「名前は、『狂トレ民』。」
「くるとれみん……。」
シーラが復唱する。
「とにかく限定アイテムやコラボアイテムの収集に命を懸けてるプレイヤーらしい。目当ての品を手に入れるためなら、自分にどんな不利なレートでもトレードしまくるんだと。」
俺はユーザーネームを見た。
「名前からして、もう本気度が伝わってくるな。」
闘技場に狂トレ民が姿を現した。
その直後。
実況スレッドが一気に加速する。
>おい嘘だろ、あのコーデ
>全身限定品じゃねーか!
>レアリティ高すぎて目がおかしくなりそう
「……?」
俺には、派手な服を着ているようにしか見えない。
だが、シーラは違った。
「うそ……。」
モニターに顔を近づける。
「あれは、サービス開始時に先着で配布されたっていう伝説の……!」
「シーラも知ってるのか?」
「知ってるわ!」
シーラが勢いよく振り返った。
「あれを持ってるだけで街中を歩けば、全員が振り返るレベルの超絶レアアイテムなんだから!」
「そんなに?」
「そんなに!」
なるほど。
これは完全に、お披露目狙いのネタ枠プレイヤーなのかもしれない。
戦闘が始まると、俺の予想はあっさり裏切られた。
狂トレ民は、インヴァリードの攻撃をものともせず、着実にダメージを積み重ねていく。
そして……。
〓インヴァリード撃破。クリアタイムを記録しました。〓
規定タイムを十分に残したまま、討伐してしまった。
「……そうか、そういうことか。」
俺は思わず呟いた。
「どういうこと、ミルトン?」
シーラが首を傾げる。
俺は、先ほどから猛烈な勢いで流れ続けている解説スレッドを指差した。
「『クオンタ』の暴力だよ。」
「クオンタ……。」
「ゲーム初期からの超レアアイテムや、注目度の高いコラボアイテム。そういうものを集め続けてきたから、これまでに積み上げたクオンタポイントが、とんでもないことになってるんだ。」
シーラがモニターを見る。
「……つまり、みんなに知られてるアイテムを使ってるから、それだけで強いってこと?」
「そういうこと。」
インヴァリードは、アイテムの基本性能を無効化する。
ならば、基本性能とは別に積み上げられたクオンタポイントで殴ればいい。
「クオリア……自分の肯定感で強くなる奴もいる。」
俺は呟いた。
「でも、クオンタ……他人からの評価や注目で強くなる奴もいる。」
同じゲームなのに、強くなる方法は一つじゃない。
自分の「好き」を極限まで信じる。
他人の「好き」を際限なく集める。
「……本当に、いろんな遊び方があるゲームだな。」
俺は感心しながら、次の選手を待った。
やがて、闘技場がリセットされる。
そして、次の挑戦者の名前が表示された。
〓エドモンド鬱猿〓
「……!」
俺は思わず身を乗り出した。
個人的に、この大会で最も気になっていた選手だ。
あの『雑草』を作り出したプレイヤー。
場合によっては、俺と『対』になる存在だ。
俺の暗示と同様に、ゲーム外から持ち込まれた技術。
ただ一つ違うのは、それが極限まで研ぎ澄まされた『自己暗示』だということ。
その異常なプレイヤーが、インヴァリードを相手にどこまでの力を見せるのか。
俺は固唾を呑み、モニターを見つめた。




