Episode 16
いよいよ、『衆目と偏愛の展覧祭』第二部の本選が始まった。
シーラの出番が来るまで、俺たちは他のプレイヤーたちの戦闘を観戦することにした。
ゲーム内のコミュニティでは、有志による実況や解説スレッドも立ち上がっているらしい。
次々と情報が更新され、モニターの端を大量のテキストが流れていく。
「お、解説スレッドに新しい情報がまとめられたぞ。」
俺が画面を指差すと、シーラが身を乗り出した。
「どれどれ?」
「対戦するボスモンスターが発表されたな。名前は、『インヴァリード』だってさ。」
モニターに、ボスモンスター『インヴァリード』の姿が映し出される。
予選で戦ったインヴァリードカザイより一回り大きい。
全身を覆う装甲のような外殻。
見るからに禍々しい巨体からは、予選の敵とは比べものにならない威圧感が漂っている。
「ステータスは、インヴァリードカザイの完全上位互換か……。」
俺は解説スレッドを読み進める。
「しかも特殊能力は……『アイテムの基本性能無効化』。」
「特殊能力も上位互換ね。」
シーラが腕を組む。
「半減から無効って、上位っていうより完全に別物レベルじゃない?」
「だな。」
俺も頷いた。
「完全にクオリアポイントとクオンタポイントだけで戦うことになるわけだから、かなり厳しい戦いになりそうだ。」
さらに読み進める。
「第二部はタイムアタック形式みたいだ。規定タイムを超えたら強制終了。入賞もなし。」
「ふーん……。」
シーラはモニターの向こうにいる巨大なボスを見つめた。
「私はレオを信じて戦うだけよ。」
そう言うと、こちらを振り返り、屈託なく笑う。
「まあ……そうなるか。」
俺もシーラに微笑み返す。
「お、そろそろ最初の選手の戦闘が始まるみたいだぞ。」
俺たちは再びモニターへ視線を戻した。
実況スレッドの更新と連動するように、闘技場の中央へ一人のプレイヤーが歩み出てくる。
「解説によれば……最初のプレイヤーは『江田飛平』。付喪神って二つ名で呼ばれてるらしい。」
「えだとびたいら……つくもがみ?」
シーラが首を傾げる。
「初期装備をずっと使い続けてるからだそうだ。」
俺は解説を読み上げる。
「初期装備のまま、クリティカルや回避が発生するたびに、『やっぱりこの装備が自分にとって最高だ』って思い込むことで、クオリアを高め続けているらしい。」
「初期装備で……?」
シーラが目を丸くする。
画面に映し出された男は、確かにチュートリアルで配布される『布の服』を身に着けていた。
手にしている武器も、『古びた銅の剣』。
「うん、確かに初期装備だな……。」
俺は思わず呟いた。
「何その縛りプレイ。」
見た目だけなら、ただの初心者だ。
しかし……。
男が歩を進めるたび、その手に握られた古びた銅の剣から、陽炎のような光が立ち昇っている。
何かの追加効果によるエフェクトなのだろうが、それがかえって初期装備の異常性を際立たせていた。
「……なるほど。」
俺は思わず感心してしまった。
「なによ、ミルトン?」
「心理学でいう『確証バイアス』に近いのかな。」
俺は画面を見ながら説明する。
「たまたまクリティカルが出た。たまたま攻撃を回避できた。でも本人は、それを『この装備だからこそ起きた』って解釈する。」
「それで?」
「次もクリティカルが出れば、やっぱりそうだと思う。回避できれば、やっぱりこの装備は最高だと思う。」
俺は古びた銅の剣を見つめた。
「そうやって偶然を都合よく解釈して、装備への確信を強め続ける。そこから生まれた強烈な主観を、システムが拾って、クオリアポイントにしてるんだろうな。」
「つまり……。」
シーラが呟く。
「思い込みで自分を強くしてる?」
「たぶんな。」
一度強くなれば、今度は本当にクリティカルや回避が増える。
それがまた本人の確信を強める。
そして、さらにクオリアが上がる。
自己暗示が、ゲームシステムによって現実の強化として返ってくる。
「まさか、ゲームの乱数を利用して『究極の自己暗示』をキメてる奴が存在するとはな……。」
俺は呆れ半分、感心半分で呟いた。
そんな異様な空気を纏ったまま、江田飛平がゆっくりと戦闘位置につく。
そのタイミングで、大会運営による本選開始のアナウンスが流れた。
〓それでは、第二部本選を開始します!〓
派手な演出とともに、闘技場の中央へ巨大な影が出現する。
インヴァリード。
予選で戦ったインヴァリードカザイとは、明らかに格が違う。
巨体がゆっくりと立ち上がる。
観客席から、どよめきが広がった。
俺は画面を食い入るように見つめた。
「さあ、どう戦う。江田飛平。」




