6 虫
昼食代わりに缶詰の果物を食べていたら、テーブルの上に一ミリぐらいの小さな虫が一匹いた。最初は黒いゴミかと思ったが、ゆっくりと動いていたので虫に間違いないとわかる。
めずらしい。無人島だからか、灯台ではほとんど虫を見かけない。特に大きな虫は皆無だ。こんな小さな虫が海を渡ってくるのだろうか。それともヨットに乗ってついてきたのだろうか。
人を噛んだり指したりはしないだろうけれど。
でも小さな虫でも肌につけば痒くなる。
だから……。
ぷちっ。
何も警戒せずテーブルの上を移動している虫らしき黒い点を、親指で押しつぶした。
幸いにも指先には感触というほどのものは感じなかった。
死骸には見えない黒い二ミリぐらいの黒い塊がテーブルの上に残る。押しつぶしたから一回り大きくなったらしい。それでも、つまみあげるには小さすぎる。
布巾で拭き取って、窓の外で振って下に落とした。
もう見えなくなる。
これで虫も土に還るだろう。
あの虫は何もしていなかった。
たぶん食べ物の臭いに引かれて近づいてきただけだろう。
だが人は虫を嫌う。人の血を吸ったり攻撃してくる虫には容赦をしない。
人には直接攻撃してこなくても、食べ物に近づく虫も、人に病原菌をもたらすと嫌悪されている。人は何も考えずに殺してしまう。
一瞬で人に殺された虫は哀れだろうか?
虫は人を見ているのか。
見えているのか。
虫の小さな目から見た人は高層ビルどころか山、いや空に広がる雲ほども大きいのではないだろうか?
一瞬で人の指先に押しつぶされる。虫。
ただ人が不快という理由で。
かわいそうと子供は言う。けれどそうだろうか?
一瞬で死んでしまうのは、幸せではないだろうか。
ひょとしたら死んだことに、虫自身すら気づいていないかもしれない。
友に別れは告げられないけれど、病気や長い苦痛の中で死を待つよりは、あっけない死も悪くない気がするのだが。




