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灯台のひと夏  作者: 塔上月扉
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6/14

6 虫

 昼食代わりに缶詰の果物を食べていたら、テーブルの上に一ミリぐらいの小さな虫が一匹いた。最初は黒いゴミかと思ったが、ゆっくりと動いていたので虫に間違いないとわかる。

 めずらしい。無人島だからか、灯台ではほとんど虫を見かけない。特に大きな虫は皆無だ。こんな小さな虫が海を渡ってくるのだろうか。それともヨットに乗ってついてきたのだろうか。

 人を噛んだり指したりはしないだろうけれど。

 でも小さな虫でも肌につけば痒くなる。

 だから……。

 ぷちっ。

 何も警戒せずテーブルの上を移動している虫らしき黒い点を、親指で押しつぶした。

 幸いにも指先には感触というほどのものは感じなかった。

 死骸には見えない黒い二ミリぐらいの黒い塊がテーブルの上に残る。押しつぶしたから一回り大きくなったらしい。それでも、つまみあげるには小さすぎる。

 布巾で拭き取って、窓の外で振って下に落とした。

 もう見えなくなる。

 これで虫も土に還るだろう。

 あの虫は何もしていなかった。

 たぶん食べ物の臭いに引かれて近づいてきただけだろう。

 だが人は虫を嫌う。人の血を吸ったり攻撃してくる虫には容赦をしない。

 人には直接攻撃してこなくても、食べ物に近づく虫も、人に病原菌をもたらすと嫌悪されている。人は何も考えずに殺してしまう。


 一瞬で人に殺された虫は哀れだろうか?


 虫は人を見ているのか。

 見えているのか。

 虫の小さな目から見た人は高層ビルどころか山、いや空に広がる雲ほども大きいのではないだろうか?

 一瞬で人の指先に押しつぶされる。虫。

 ただ人が不快という理由で。

 かわいそうと子供は言う。けれどそうだろうか?

 一瞬で死んでしまうのは、幸せではないだろうか。

 ひょとしたら死んだことに、虫自身すら気づいていないかもしれない。

 友に別れは告げられないけれど、病気や長い苦痛の中で死を待つよりは、あっけない死も悪くない気がするのだが。


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