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8.禁足地(及び悪魔が「宇宙の理」と呼ぶものについて)③

「帰らずの林」の参拝者たち


 現在、禁足地とされる、この御堂がある「帰らずの林」を訪れる、変わり者の人間は三組。仮に参拝者A、参拝者B、参拝者Cとする。

 参拝者A。パチンコと競馬で生計をたてている、三十代男性。勝負の朝に、この御堂を訪れ、手を合わせることをルーティンとしている。お供え物は、パチンコのハンドル固定に使った十円玉。一般客の迷惑にならないよう、一つのパチンコ店で年間百万円以上を稼がないことをモットーに掲げ、確定申告もきちんとする真のプロフェッショナル。

 FXに手を出し、破産して以来、失踪中。

 参拝者B。小学生五人組。放課後、ランドセルを背負ったまま「帰らずの林」に襲来し、傍若無人に暴れる。一人をのけ者にして四人で遊ぶ。御堂の階段に腰掛けて頬杖をつき、笑いながら寄生をあげている同級生を見つめる、のけ者にされた一人の背中を見ている内に、何年も人知れず封印されてきた俺は、同情を覚えた。俺は、いじめっ子四人をどんぐりと小枝の雨で、攻撃してやった。これで、のけ者のやつは、俺を崇める熱心な信者に昇格するに違いないと確信した。

 しかし、のけ者は毅然と立ち上がり、御堂に向かって石を投げ返してきた。残り四人もやつに続いた。その日以来、元のけ者を中心として、五人は結束し、スーパーボールだの、学校で飼育しているうさぎの糞だのを持ち込んでは、俺に向かって投げたり、御堂に彫刻刀でいたずら書きをしたりするようになった。クソが!

 参拝者C。俺の最初の信者である、あいつの孫の孫の孫の……とにかく同じ家の末裔。名は「ヨウコ」。なんで分かったかというと、幼い頃、母親に抱えられてここへ来た時、そう呼ばれていたから。ヨウコが自分で歩けるようになってからも、しばらくは親子で度々ここへ来た。成長するに連れ、ヨウコは一人で来るようになり、進路や、恋の悩みなんかを祈るようになった。これは珍しいことだった。あいつの家の子孫は代々、定期的に俺を参拝しに来たが、だいたいみんな正月だけだった。しかし、ヨウコの母親は、ここを自分たち専用の公園として、娘を遊ばせることを思いついた。その影響でヨウコは成長したあとも、『帰らずの林』に、自分の祖先よりも親しみを持っているのだった。

 やがて結婚し、家庭を持った彼女は、夫や子どもの愚痴をつぶやくようになった。顔つきも、なんだかあいつに似てきた気がする。俺は、あいつの最期を思い出し、怖くなって、ヨウコを無視するようになった。俺の無視に気づかないヨウコは、構わず俺に詣で続けた。そして子どもの成長を報告し、老いの始まった夫の健康を気遣う。やめてくれ、時間の経過を俺に感じさせるんじゃない。俺は、彼女が来るたびに、背を向けて横になり、縮こまって耳を塞いだ。

 やがてヨウコが来なくなって、一ヶ月以上経った。俺は、彼女の死を予感しながらも、必死に考えないようにした。久々の足音。思わず千里眼で外を見ると、ヨウコだった。なんだか顔が白い。彼女の無事を確認して、俺の気が抜けたのも束の間、彼女は御堂の階段に突っ伏して声を上げて泣いた。何時間経っても、一向に泣き止まない。やがて、疲れてその場で眠ってしまった。こんな人気のないところで寝てしまったら、追い剥ぎに合わないとも限らない。俺はしかたなく、ヨウコを一晩見張った。

 後日の彼女の祈りの内容から察すると、夫と子ども二人が不慮の事故で亡くなったのだった。

 ヨウコは再び、一人暮らしになった。今でも彼女は、定期的に俺を参拝している。



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