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切れない鎖

メリークリスマス。





に追いつかなかった。








仕事忙しいよ・・・

 


「………………………………………………不味いな、お前」


 暗い廃墟の中。彼はギアのファントム。その姿は非常に異型だ。上唇から胸まで、横に避けている。

 両腕・・・、と呼べるのかも怪しい、トゲが集まっただけの曲がる物体が肩から伸びており、顔の鼻から上はもはや人間のものでは無い。透明な大量の触手が人の顔の姿を真似ている。禍々しいその造形は、見る物に恐怖と嫌悪感を与える。


 だが今、1番の問題は彼が行っている行為だ。



 彼は1人の、人間の腹を裂き開き……、















 その臓物を食している。









 腸をズルズルと音をたてて……、麺を啜るように食べている。腹の中はみるみる無くなっていく。



 異型過ぎる彼の顔に表情は表れない。これが彼の歪んだ日常だ。













 だがそれを許さない客人が二人。



「あんたがグルメだね」


「誰だ!!? 」


 外壁を突き破り現れた彼と同じく異型の少年と青年。ミコトとアスカだ。内蔵食いの男の場所を突き止めそれを処理しにきた。


 二人が一瞬彼の足元に視線を落とす。腹の中が空っぽのまだ若い男性。助けることが出来なかった。


「ふん……、悪いがお前らの分はないぞ」




「そんなの要りませんよ」

「いるのはテメェの首だけよ。ゼッテェ償わせてやる!! 」



 アスカが一番に飛び込む。素早い。真正面から襲いかかって来たにも関わらず男の反応が遅れた。両手で頭を掴み、痛烈な右の膝蹴りを鼻頭に打ち込む。皮膚の硬いギア同士の衝突は激しい火花が生じる。男の体はよろける。



 だがアスカは手を緩めない。右腕の大振りのフックで男を床に叩き伏せる。


 アスカを飛び越えブレイガンを男の頭目掛けて振り下ろすミコト。内蔵食いの男はギリギリでそれを避けた。男に勝ち目が無いのは目に見えている。男は卑屈な態度でこう言う。



「ちっ、俺じゃ勝てないか」


 そう発した瞬間両腕で床に穴を開けながら二人から逃げようとする。かなり早い。


 標的の予想外の行動に二人は反応が遅れた。



「おい!ざっけんな!逃げんな!」

「待て!!」


 二人が慌てて穴に近づいたがすぐに塞がってしまった。ミコトはスマホを出し外のサキに連絡する。



「おいサキ!! グルメがそっちに逃げた! 何とか仕留めるか足止めしといて 」


「仕留めておきますよ。どれだけ人を殺したのかは知りませんが彼は酷く臭うので場所がよーく分かります」



 サキが向かった先にあの内蔵食いの男。もう1人いるとは思わず男が驚いている。戦う選択は選ばず逃げの一手だ。サキに背を向け逃亡を図る。




「消えて下さいその匂い、吐き気がする。


  ……ゲームクリア 」



 彼女のボウガンから黒い光線。


 だがこれも紙一重で躱す。中々俊敏だ。まさか避けられるとは思わずサキが焦る。急いで男を追いかける。


 だが彼は人間の姿に戻り、バイクでその場を離れた。流石に追いつけない。まんまと逃げられてしまった。


男はミラー越しにサキの顔を見ながらその場を離れた。



「チッ!!」


 サキが悔しそうに床を蹴る。スマホを取り出しミコトに連絡を取る。


「ミコトさん、すいません……逃がしました。グルメはバイクで逃げました、番号は木太町○○ー○○ 」


「マジで!? あの野郎バイク持ってたか。あんまり深追いしないでよ。取り敢えず警察呼んだからコッチに戻って来な」


「えっと、はい」




 ※※※




 警察が到着した。相変わらず現場にファントムがいる事が不満なよう3人を汚いものでも見るかのような視線を送る。



 そんな中サキが1人。今日守る事が出来なかった彼の遺体を見つめている。アスカは横目で彼女を見ていた。背中は悔しさで震えていた。ミコトが不在の時に仕事で同行していた時もそうだった。


 彼女は人の死にいつも何かを感じていた。アスカは確信した。彼女は命の価値観が分かっている。彼女は戦闘狂でありながらもまだ人間性が残っているのだと。



「おいこのバカ!! 何してる!!」




 突如ミコトが大声でサキの右手を掴んだ。手を悔しさで強く握しめていた為、爪で手のひらを傷つけ血まみれになっていた。サキ自身も気がついていなかった。








「なんでだよ、お前」



 最初はいきなり手を掴まれた事に苛立ちムッとした表情のサキだったが、ミコトの顔を見た瞬間、気まずい顔になった。彼は泣きそうになっていた。ミコトは持ち歩いてる鞄から包帯とテープを出し、手当した。


「お前さぁ、もうちょっとだけでいいから……自分に愛着持てよ。





 なんで気付かないんだよ。



 すげぇ痛いだろ……これ。






 戦い以外に興味ねえからって自分の事までこんな疎かにしてどうするよ。


 女の子だろ? 傷が残ったらどうするよ」




 ミコトの声がいつもより小さい。顔は暗くただただ悲しさで曇っていた。サキはとても気まずかった。


 謝れるべきなのだろうがあまりミコトとあまり会話しなかったせいか自分からよく話しかけられなかった。自分の非を認めてはいるし、ここまで彼の心を傷つけてしまった事に後悔の念を覚えていた。



 だがそれを上手く言葉に組み立てる事が出来る程彼女は器用では無かった。





 ※※※



 帰り道、まだミコトの機嫌が治らない。彼は真面目故に、引きずるタイプだ。少し……しつこい。



 ミコトが先頭、少し離れてサキとアスカが二人並んで歩いている。



「ミコトくん、人が傷つくと自分はその倍くらい、傷ついちゃうんです。だから・・・、てわけじゃないけどあんな事2度としちゃダメですよ。サキさん僕も手伝いますから一緒に謝りましょうよ・・・」


「……………………………………………」


「サ〜キさん、心配してくれ人を大切にしないと、バチが当たりますよ?」


「何故、私なんかあの家に入れてくたんですか?」


 アスカがサキの頭の天辺をコツンと叩いた。力は一切入れてないので痛くはない。


「コラ!(笑) 自分の事【なんか】って言っちゃ駄目じゃないですか。……まあ多分サキさんって行く宛無いだろうな〜って思って」


「……友達がいなさそうだと?」


「……えっとー、ごめんなさい」


「えぇ。いませんよ」


 少し会話が途切れる。下を向いたサキが言葉を整理してゆっくりと話し出した。



「すいません。少し用事があるのでここで 」


「? 何のようですか?」


「あのその、……女子の」


「あ、はい何となくわかりました! 暗くなる前に帰ってきて下さいね。あと今日はミコトくんが親子丼作ってくれるらしいですよ! 」


「はい。出来るだけ……早く帰宅します。あのアスカさん」


(??)


「ミコトさんに・・・今日の事で謝罪したいので何というか……、謝り方を、教えて下さい」



 数秒の沈黙が流れた。そして、



「……ぷっ!クスクス」


 耐えきれずアスカが吹き出した。


「え? 私何か洒落た事でも言いましたか?」


「ごめんなさい! 今のちょっと面白かったです。手伝いますけど言葉は自分で作って下さいね?


 ミコトくん、根に持つけど謝るときっと許してくれますよ。ちょっとだけ……、本当にちょっとだけ馬鹿だから 」



「は、はぁー…… 」



 サキとはここで分かれた。


 ※※※


 先に帰ったミコトとアスカは久しぶりにやって来たレンと、サキの事について話していた。



「サキさんの苗字は、当道(とうどう)と言います。大手会社のかなりの富豪だったらしいんですけど、兎に角評判が悪くて」


「例えば? 」


「中小企業を片っ端から潰して自分のライバルを蹴落としながら大きくなった会社だったそうです。なのでかなり恨まれていたと、去年程にご両親がファントムに殺されたそうです」


「恨みがあったんだろうね」


「それとサキさんですが、人間だった頃は体が弱くてあまり学校に行けなかったそうです。しかも別荘で何人かの家政婦と暮らしていました。ご両親とは別居状態だったみたいです。ご両親はサキさんの姉の(はな)さんばかり可愛がったと……」



「……は?」




 ほぼ捨てられる形で両親から突き放された。タダでさえ虫の居所が悪かったミコトには頭にしか来ない話だ。


「……レンちゃん続きは?」


「は……、はい」


 周りの空気が凍りついた。レンは手と声を震えさせながら続きを話す。


「約2年前程にサキさんはファントムになっていまにいたってます。ギアに覚醒するのに殺害した相手は強姦魔です。未成年だったのと相手が相手だったので過剰防衛で済んでいます。一応監視下において様子を見るという措置を取られました。でもサキさんのあの好戦的な性格が幸いしてか……」


「ほっぽり出されたんだね?」


「はい」


 アスカが二人にお茶を持ってきた。かなり気まずそうにレンとミコトの横からそっと差し出す。


 この後、ギアになってからのサキは戦いに没頭していた事。決まった住所も持たずにフラフラとしていた事。闘技場の賞金でその日暮らしの質素な生活をしていた事などを聞いた。最後に、


「最近そちらの方にサキさんのご両親を殺害したファントムが入ってきたそうです。少し心配になったのでご報告します。不鮮明ですがファントム態と人間態の姿を移した資料をまとめておいたので目を通して置いてください」



 あまり情報が入ってないのか2枚の顔写真付きの資料だけを渡された。






 その顔には二人とも見覚えがあった少しだが話した事もあり、戦った事もある。




「おいおいマジかよ、アスカちゅん仕度して!サキが危ない!!」


「はい!! あのレンさん! すいません急用が出来たので家を出ます! カギだけ閉めといてください!! 」


「えっ!? えっちょっと!? 待ってまだ話が終わって、








 行っちゃったよ〜、どうしよう。もっと大事な話があったのに 」


 レンがもう1枚の顔写真付きの資料を見ながら深くため息をつく。



 ※※※




 少し遅くなってしまった。そうおもいながらミコトへの謝罪の言葉を未だにまとめられないサキ。


 夕暮れの明かりの中に夜の色と、小さな星々が混ざり始めてきた。家路を急ぐ彼女はふと自分を付ける気配に気づいた。


  いや……、この場合気配とは呼ばない。人間ばかり殺してきたファントム。彼らからは目に染みるほどの悪臭が漂う。この匂いは同類のファントムを殺すことによって中和される。人も殺すキラーホエールから悪臭がしないのはこの為だ。


 

 サキは回り道をし、人気の無い所で戦える場所に誘いこんだ。狭い裏道。身動きの取りにくいこの場所なら攻撃を躱されにくい。


 サキは立ち止まりファントム態に変わる。彼女を追っていた男も戦う姿に変化する。


「何時間ぶりでしょうか? まさか直接お会いになって頂けるとは思いませんでしたよ。



 折角の勝負ですが……予定があるので手早く終わらせますね」



 今日取り逃した相手だ。


男は息が荒かった。サキにはそれがただ気持ち悪く感じた。


 鎌をボウガンモードに折りたたみサイトの中に標的の頭を入れる。引き金に指を置いた瞬間、













 サイト越しの標的が涙を流しているのを見た。




「え?」



 サキは何がどうなっているのか分からずその場で停止した。




 涙を流す人外が口を開く。


正道鎖切(トウドウサキ) だな?



 やっとだ。今日殺した奴で社員はすべて殺した。お前を殺せば正道家あと一人だ」



 彼は自分が捨てた苗字を知っている。サキにはそれだけで彼の目的がなんとなくだが分かった。









 復讐だ。




「お前は奴らから捨てられたらしいな? 知らないだろうから教えてやるよ。当道の夫婦は本当に人間のクズだったよ。殺してやって清々した。








 全部お前らのせいだァ!! お前の父親と母親が俺に殺されたのは自業自得だ!!




 お前ら当道家の悪行のせいで俺の会社が潰れた!







 そこからは本当に地獄だったよ。 息子は病気に、妻は治療費のために保険金目的に自殺したよ。






 しかも闇市に体のほとんどの内蔵を売り渡してな。




 でも神様ってのは本当にクズ野郎でな、そこまでしてくれた妻の想いを踏みにじって!



 息子を……、俺の息子もあの世に連れていきやがったんだァァァァ!!!






 おい、






 なんでお前のうのうと生きているんだ? 」





 男がサキにゆっくりと駆け寄る。物凄い圧力を感じる。サキはその男の狂気に思わず後ずさりする。




「あいつはあんなに優しかったんだ。なのにあんな最期あんまりだ。




  なのになんでお前は好きな事して、隣の寄り添ってくれる人がいるんだ? 俺は1人きりだ。息子も妻も連れてかれた。









 許さない……。






 あいつが受けた苦しみの倍を味わって死ね。





 お前が生きている罪を理解して死ね。





 罪の無い息子を奪った償いに死ね。






 お前に少しでも良心が残っているならここで自分の腹を裂いてみろ。 妻の苦しみが少しは分かるさ 」






 人間であるが故に、




 大切な人がいたが故に、




 愛していたが故に、






 彼は姿も心も、怪物に成り果てた。





 彼のその正体を知った瞬間、サキはこの男の命を自分なんかが奪ってもいいのだろうかと悩む。





 引けない引き金、震える右手、思い出す、自分を生んだ母親たちの醜悪さ、もうサキには目前の人物が殺すべき標的には見えなかった。







「あーそうかよ。 所詮あいつらの娘だな。




 いいさ……お前は俺が殺してやる。生きたままその腹の中むさぼり食ってやるよ!!」





 男がサキに襲いかかる。



やはりサキの話は長くなりそうです。




サキの弱さにショックを覚えた人がいるかもしれませんが、サキはこの通り怪物になりきれない人間です。



ある意味ぶれまくっている彼女は人間らしく僕は結構好きなキャラではあります。







サキを好きになって貰えるように頑張ります

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