さよならは言わない(哀感)
性格が曲がってる僕にしてはわりと決着付けれた気がする。
怪演は終わった。カナタの最期は自らが今まで命を奪ってきた人達の誰よりも情けないものだった。
そして遺体は溶けて骨も残らない。ファントムの死体は基本残らない。よくて骨が残る程度だ。
「後始末・・・でしょうか? 」
「ええ、まだ仕事は残ってます」
白いドームは消え去り中から出てきたのはサキとアスカの二人だけ。二人はお互いに背を向けたまま目を合わそうとしない。
マナとカナは何がおきたのか。何故あの男はどこにもいないのか、分からなかった。
サイガは何となくではあるが、あの青年が彼の人生に終止符を打ったのだと理解していた。そして、このファントム達は自分達にも危害を加える気ではないのかと疑い始めた。
仮に戦う状況に発展したとしてカナ達を守りきれるのかと不安になる。
あの青年が、
あの女が、
…………………………………、怖い。
アスカとサキがサイガのいる方向に顔をむける。
(これじゃダメだ。私怖がるな。皆を守るんだ。
来るなら・・・、来い!!!)
サイガは腹をくくり構える。だが、
「あれ!!? すいません!!誰か怪我してるんですか!!?」
「え? あの、所長が・・・、たぶん怪我してるの」
「わかりました。どこにいるのか教えて下さい!!
あとサキさん! 警察と救急車呼んで!! 」
サキが返事もせずスマホを取り出し救急車に連絡し、そのあとに警察に連絡した。
敬語を使いつつも非常に態度が悪い印象だが、容量よく情報を伝え手早く終わらせた。
アスカはマナとカナに連れられ所長の元に向かった。
「おい!! お兄ちゃんこっち!! 急いでってそっち違うって!! こっちだって!!!」
「マジ兄ちゃん鈍臭い!!!」
「ご・・・、ごめんなさい!!!」
「あーー! ちょっと!! 人間の姿に戻ってよ!!あんたのその足の爪で床にめっちゃ傷付けてる!」
「あーー!! ごめんなさい!!! 」
アスカは急いで人間の姿に戻った。
「ちょっと靴脱いでよ!! 靴!! ここ日本だよ!!」
「本当にすいません!!」
さっきと今のアスカのギャップに驚く。と同時にマナとカナの年上に対する容赦ない罵倒の嵐に、サイガはアスカに対して同情の念を感じた。
そうこうしている間に警察と救急車が到着する。
所長は、足の骨折と意識不明の状態だが、命に別状はないそうだ。近場の病院で受け入れて貰えるらしい。
この日Butterflyの職員は台風の日でありながらも冷蔵庫の食料が尽きていたので買い物に行っていた。ちょうど今戻ってきた。非常に動揺していたが、誰も命を奪われなかった事を知り胸を撫で下ろしていた。
だがカナタがこの場所を知るきっかけとなり殺された人物は、一昨日から連絡のつかなかった同僚だったと知ると大粒の涙を流しながら泣き崩れた。
サキとアスカに近寄る警察の中年の男。
「おい、そこの2匹。住所教えろ。捜査資料に必要だからな」
「それはネットカフェでもよろしいのでしょうか?」
「は? なんだよお前、雇われのファントムじゃねぇのかよ?」
「ええ。公務員は私の隣にいらっしゃるアスカさんだけです」
「・・・、おい。ルールは知ってるよな? 2級以上持ってねぇと野良のファントムに協力は要請できねぇってよ?
おいてめぇなんだその面? 文句あるのかよ?
俺が何か間違えてること言ってのかァァ!!? 」
アスカは激怒する警察官の前に無表情で1枚の免許証の様なものを差し出した。そこには1級と書かれている。
「はァァ!!? テメァみたいなクソガキが1級だぁ!!?
ああ・・・、お前あのワニの所の金魚のフンか」
「ミコトくんはメインがタツノオトシゴで、サブがワニです」
「うるせぇなぁ!! 口答えすんなよぉ!!
どっちでもいいんだよぉそんなのぉ!!
くそ腹立つ!! イライラすんなぁ!!!!」
男は手早くアスカの住所だけ免許から書き写すとソサクサとその場を離れた。
「煽りに来た挙句、自分で勝手に怒り出して勝手に不機嫌になるとは・・・。寄生されたら一瞬でファントムになってしまいそうな方ですね」
「サ〜キさん。あんまり不謹慎な事言わないで下さいね」
「ハイハイ。・・・所でアスカさん」
「なんですか?」
「彼女はどうなるんですか? 見たところなかなか強力なファントムですし、何より派手に暴れすぎてます。ずっとここにいる、と言うのは・・・ 」
サキがその先を言い淀んでいる。下を見て少し、しおらしくなった。アスカは昔の事を思い出していた。何故かあの時の自分とサイガの状況が重なった。
霧島飛鳥。かつて苗字を持っていた頃の自分がそれを奪われ、大切な人の為に自分の帰る場所を手放したあの時の自分。
その時はミコトや彼女が冷たく見えてしまったが、今なら何となく二人の気持ちが分かった。
「都合のいい嘘は彼女の為になりません。全部ありのままを話します」
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「ここにいちゃ・・・、ダメ・・・なの?」
「はい・・・。このままこの場所に留まるのは君と君の友達を危険にさらすと思います。特に君のような新種のテイマーが現れたのは確実に広まっていく情報です。闘争目的・・・、勢力的な問題・・・、テイマーを毛嫌いするファントム・・・、無茶苦茶な理由を付けて色んなやつがやってくると思います」
警察達が去った後、アスカはありのままを全て彼女に話した。一切の嘘、建前なく全てだ。
「申し訳ないですけど今すぐ準備して下さい。この場合は待てません」
「やっぱり・・・ファントムと人間って一緒に暮らせない・・・の?」
「そんな事はないと思います。でも・・・、それをするには責任を取れる年齢と覚悟がいるんです。僕にも、まだその資格がない」
「…………………………………」
サイガはあまり驚きはしなかった。どこか遂にこの時が来てしまった・・・そんな反応をしていた。抵抗も反対の声も上げなかった。
「服とかは今から行く場所にあるそうなので、必要な持ち物と自分が好きな服だけ持参して下さい」
「わかった。でも持って行きたい物なんてないから・・・、今すぐ行ける」
「・・・、何を言ってるんですか?」
「え?」
「サイガさん、まだ友達に言ってないですよね。いつかここに帰ってくるんだからちゃんと挨拶位はしておいてください」
「・・・うん」
サイガは車椅子を走らせ友達の所へ向かった。
「サキさん、ごめんなさい。少し帰るの遅くなりそうです」
「随分と情をかけますね。どうせあなたの時は全く待ってもらえなかったのでしょ?」
「はい! お別れの挨拶も出来ませんでした(笑) まるで犯罪者みたいな扱いですよね!」
「・・・」
「あの人・・・、元気かなぁ」
アスカは夕暮れの空の遠い方を見る。もう会えないあの少しうるさかった彼女は今何をしていのだろうか。そんな寂しさに耽っていた。
サキはスマホにイヤホンを指し、音楽でつまらない世界を切り離す。これが今日の二人の最後の会話だった。
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「今日・・・なの?」
「うん・・・、ごめん」
カナとマナとサイガ、職員達は彼女らを3人だけにした。マナは涙目、カナは俯いて暗い顔、
駄々をこねてサイガを困らせる・・・なんて事はしなかった。彼女達はそこまで幼くない。これはしょうがない事、望んではいないにしろサイガの意思、故に次に出す言葉見つからない。
二人の沈黙が続いた。自分たちの知っている言葉を探した。友達と分かれる時何を言えばいいのだろうか。
違う・・・、そうじゃない。二人の中で答えが見つかった。そして胸の中にある言葉を口にした。
「さよなら・・・とか期待してたなら残念だったな!
私別れの挨拶なんて言わないぞ! 」
「え?」
「だってそうじゃない? サイガ帰ってくるのに!
こんなときに別れの挨拶とかマジ論外(笑) 」
「おいマナ! 私のセリフを取るなよ〜!」
「だってしかたないじゃん? カナの言いたい事と被ったんだもん♪」
「・・・、たく! まあそういう事よ! それにサイガ言ったよね!! 戻って来る!! 必ず!!って。
だから何年でも待ってやるから! 絶対帰って来てよ!! 後、たまに連絡してよね! 」
「・・・うん」
「あと・・・一つだけ」
「何? カナちゃん?」
カナが1度息を吸い込み大きく吐く。
「この先さ、サイガはやっぱりちょっと馬鹿だから・・・」
「私カナちゃんより勉強できるよ!!」
「サイガ、それちょっとベクトルずれてるよ」
「えっ? どういう事?」
「こらァァ! 私の話を聴けぇ!!」
「「はーい」」
もう1度仕切り直し、また深呼吸する。
「フゥーー。よし!
サイガはさぁ、馬鹿みたいに優しいから、また誰かの為に戦おうとすると思うんだ。何となくだけど分かる。それは止めない。サイガは強いから負けないと思うしね。
でもこれだけは約束して・・・。」
ここでカナは少し間を置いた。そして・・・
「闘ってる奴がどんなにずるくて卑怯な悪い奴でも、そいつの命は取らないで 」
「・・・絶対に殺さない様に戦う・・・、か。
ははは、難しいなぁ」
「そんなの知らないよ! 」
「えぇ〜・・・」
「やるよね! 出来るね!」
「・・・うん。約束する」
「よし!」
「じゃあカナちゃん!私からも」
「え? 何サイガ」
「ちゃんと勉強してね!」
マナは思わず吹き出した。そしてサイガの予想外の発言に、カナの顔は少しやつれた。
「ちょっと・・・今ここで言う?」
「待なよカナ。最後まで聞かなきゃダメっしょ」
「え? 」
「へへ(笑) 私マナちゃんから聞いたんだ。
カナちゃん将来の夢は先生なんだよね」
「おいマナ!」
「ごっめぇ〜ん。 私チョー口軽からさ 」
マナが舌を横に出してイタズラっぽく笑った。
「・・・無理だって。私めっちゃ頭悪いし。
サイガみたいに強くないし。先生って、頭良くてメンタル強いじゃん? そら憧れはするけどさ」
「違うよカナちゃん。カナちゃんは弱いんじゃない。弱さを知ってるだけ。だからきっともっと強くなれるよ。それに優しくなれる。だって今のままでも、
すっっっごい優しいんだもん!! 」
「なんだよ・・・それ」
カナは照れくさそうに笑う。
「だからカナちゃんはなりたいもの本気で目指して!! 私は二人の約束を絶対に守る 」
「めんどくさいなぁー。
いいよ。サイガに乗せられてやる! 」
「うん!」
「あーサイガ。因みに帰って来なかったらマジ絶交だからね?」
「えぇぇ!! マナちゃん酷い!!」
「当たり前だろ!」
3人の笑い声がButterflyに響く。そして一時期だけのお別れ。 さよならは言わない。
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夕陽が沈みかけるバス停の前。サキとアスカとサイガの3人は街中方面のバスを待っている。
「あ、サイガさんこれ」
「え?」
アスカがサイガに手渡した。一昔前の黒いガラケー。彼女から貰ったままずっと手放せずにいた。
「これ・・・何?」
「ケータイ電話ですよ」
「えー!? これが? ホームボタンは? 液晶は?」
「これをこうして、開いて・・・」
「うわ開いた!! なにこれ!!? ボタンがいっぱいついてる!!」
サイガの生まれた頃にはもうスマートフォンやiPhoneが復旧しきっていた。彼女がこの手の携帯を見るのは生まれて初めてだ。
「ここをこうして・・・、充電はここ。 マナーはこのボタンです 」
「うん!覚えた!! ねぇ〜本当にこれくれるの?
あなたの大切なものじゃないの?」
「いつかは手放さなきゃなぁーって思ってました。
でもせっかくなんでサイガさんが使ってください。 無契約携帯なんでゲームとかは出来ないけど、電話ならできます。たまにあの人達に電話して上げてください」
「本当に・・・いいの? 私が貰っちゃっても?」
「はい! つかってくれて大丈夫です」
「ありがとう!! 」
サイガは初めての携帯に胸を踊らせながら握りしめる。それを見ると、アスカの心の中の未練が消え去った。
サキが少し口を開き、サイガに話しかけた。
「・・・サイガさん」
(うわ、怖い女の人)
「は・・・はい」
露骨にトーンを落とした返事をしたサイガ。だが・・・、
この次の言葉はアスカにとってもサイガにとっても意外だった。
「約束・・・ちゃんと守って上げてください。
私のようになってはいけませんよ 」
余りに予想出来なかったそのセリフにサイガは返事すら出来なかった。アスカは今まで見てきた彼女からは予想する事が出来なかった言葉に驚いた。
人外として殺戮を好む彼女から出た言葉としては余りにも人間臭い・・・。
バスの窓に肩をかけ、スマホを覗くサキの背中は・・・何故か寂しげ。
次回の話がマジで・・・いや止めとく。




