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彼女と彼の攻防戦  作者: 氷月
SIDE:H
16/20

6.ええ、大変美味しゅうございました

 さて、捕まえると決意したのは良いものの。

 実際どういう手段で持って行くか、と考えると、中々彼女は攻略レベルが高かった。


 何しろ、見た目は圏外女子である。おそらくこれ、わざとやってるんじゃないかと思う。あれだけ聡い彼女が、自分の外見にだけ気を使わないって不自然だし。

 とすると、彼女のあの見た目は、言うなれば防護服なのだろう。それを考えれば、迂闊に切り込んでも弾き返されるだけな気がする。


 どうしたもんか。


 中間テストも無事終わり、しばらく経ったその日も、そんなことを考えながら生徒会室でレポートをまとめていた。今日一緒にいるのは、菊川さんと三橋さんという三年女子コンビ。こちらはお菓子を挟んで楽しそうにお茶会の真っ最中である。


 そんな中、ふと菊川さんがおれを手招きしてきた。

「結城くん、一緒にお菓子食べない?」

「喜んでー」


言って、椅子を寄せてみれば、何やら上等なお菓子が並んでいる。あれ、今日はコンビニのスナック菓子じゃないんだ?


「そのフィナンシェ、美味しいよ。三橋のおごりなの」

「そういう食べ応えのある奴は、嬉しいです。いただきます!」

包装紙を剥いて、ぱくり。うん、美味い。思わずうまーとつぶやいたおれを、菊川さんがにっこりと笑って見やる。


 その笑顔を見た瞬間、背筋がすうっと寒くなった。

 あれ、もしかしてこれ、食べたら駄目なやつだったか?!


 「食べたね、結城くん」

「………………食べましたね」

「美味しいでしょ?」

「ええ、大変美味しゅうございました……」


うわあ、嫌な予感しかない前フリ!そう思った次の瞬間、菊川さんは宣言する。


「じゃあ、美味しいお菓子の分、わたしの質問に答えてくれるよね?」

……三橋さんの奢りじゃなかったのか、という突っ込みが、日の目を見ることは、当然なかった。


 「質問て、何ですか?」

とりあえず、紅茶を一口飲んでみる。このままだと、確実に口の中が緊張で干上がると思ったからだが、それが失敗だった。


「中原さんに、いつ告白するの?」


「――っ?!ぐ、が、ごほっ!!」

見事に、紅茶を吹き出した。げほごほと盛大にむせるおれを、しかし先輩方は助けてくれる気はないらしい。


「気づかれてないと思った?」

「結構あからさまだけどねえ、結城くん」

さらに、どん底に突き落とされました……。


 「今、攻め手を考えてる最中です」

もう、こうなったら腹をくくるしかない。どうせ、この人たちが喋らせると決めたら、遅かれ早かれ白状する羽目になるんだから。抵抗などしても無駄なことである。


「攻め手、かあ。確かに中原さんは結構難しそうだよねえ」

「賢いもんね、あの子」

「うっちーが言ってた、あの美少女ってのも、分かんないようにしてるの、わざとだよね?」

「多分ね。よく見たら、確かに美人だもんね」

「でもなんで、あんなに美人なのを隠してるのかねえ?」

「そりゃあ、要らん虫がつかないようにでしょ」

「ああ、なるほど。確かに『今のところ、恋愛沙汰はノーサンキューですっ!』って感じだもんねえ」

「……先輩方、おれをえぐって楽しいですか?」


楽しそうな先輩方の会話に、おれが半眼になったのも仕方がないことだと思う。そんなに嬉しそうに、脈ナシをアピールしなくても、良いじゃないか!


「うん、楽しいよ?」

「女なんて選り取り見取りーって顔してた結城くんが、女の子に振り回されてるなんて面白すぎるでしょ?」

「鬼ですか……」


がっくりうなだれたおれに、二人はきゃらきゃらと笑う。ああ、くそ、何でおれはここにいるんだろう!!


「で、何かいい案思いついた?」

「……そこまでえぐっといて、その質問するんですか」

他人の不幸は蜜の味、ってか。攻め手を考えてるってことは、攻めあぐねてるって意味だって分かってるくせに。


 拗ねたような口調になったおれに、二人が魔女のようににたあっと笑う。全く似ていない二人なのに、その笑い方のシンクロっぷりに、顔が引きつる。怖い、怖いって。


「いい案、思いつかないんでしょ?」

「そもそも、結城くん、実は恋愛方面で自分から仕掛けるのは苦手でしょ?」


この、魔女たちめが。当たってるところが、なお一層嫌だ。そうですよ、あんなに男として意識されない相手なんて、全く初めてなんですよ!


「……何が、言いたいんですか?」

結局、おれが言えた台詞なんてそんなものだった。だが、続いた菊川さんの言葉は、全く予想外のもので。


「協力、してあげようか?」

突然出された提案に、おれは一瞬言葉を失う。協力?先輩方が?


「代わりにどんな難題を持ちかけられるんですか?」

そう、思わず訊き返したおれは決して悪くないと思う。だって、魔女との契約には代償が必要だよな?


 だが、二人は気に食わなかったらしい。菊川さんが柳眉を逆立てて言う。

「可愛い後輩君の恋路を応援してあげようって言う、先輩の優しさだと思わないわけ?」

いや、ついさっき、堂々とおれをからかって楽しいって宣言したよな?!


「自分で言ってて空々しくないデスカ」

「うん、若干」

反射的に頷いたような菊川さんに、三橋さんが大げさにため息をつく。

「菊ちゃん、そこで肯定したら意味ないでしょうが」

そのまま、三橋さんは真面目な顔でおれに向き直る。


「でも、結城くんを応援してあげたいなあってのも、本当だよ?それに、何だかんだ言ってお似合いのカップルになりそうだしね」

「そうそう。ちなみにこれ、生徒会メンバーの総意だから」


さらっと告げられた言葉に、おれはまたぴきりと固まった。


「は?総意?……総意って、どういうことですか?!」

「まんまの意味だけど。全員の意見って意味」

最早、これには言葉もない。そうか、メンバー全員に気付かれるくらいに、あからさまだったか。


 思わずがっくりとうなだれたおれを、二人は面白そうに眺めている。そりゃあ、おれだって他人事だったらそんな顔するだろうけど!


「で、中々お似合いの生徒会内のカップルを成立させるために、ちょっとしたアシストくらいはしてあげようかなと思ってるんだけど」

「でもさ、そういう手があるってこと、知らなかったら有効活用できないかもしれないじゃない?それに、もしかして何かいい案が浮かんでて、わたしたちのやることが余計なお世話になる可能性もあるから、結城くんの意向は確かめといた方が良いかなって思って」


 で、どうする?


 あっけらかんと訊いてきた二人に、おれはそのまま、よろしくお願いしますと頭を下げた。


 だって、今のままでは本当にただの先輩後輩でしかなくて。

 せめて一緒に帰るとか、と思ってみても、こちらは自分のやることに追われていつも居残り。彼女は自分のやるべきことを片付けると、爽やかに帰って行ってしまう。かといって、まさか自分がいる時間まで彼女を引き留めるわけにもいかないし。


 そんなおれの不甲斐なさを、先輩たちはきちんとお見通しだったらしい。

「ま、ひとまずは生徒会でのプロジェクトは全部、二人が同じ組になれるようにするから」


にっこり笑って言われ、おれははあ、と頷くしかない。そんなことできるんですか、と言いかけ、すぐにその言葉を引っ込める。うん、できるな。何しろ、生徒会全員がグルだもんな。


 そうして、彼女たちは見事に有言実行して見せた。

 それからメンバー内でペアやグループを作る時のクジは、ことごとくやらせだったのだ。


「結城先輩、何だかご縁がありますよねー」

呑気にそんなことを呟く彼女が、真実を知るのはいつになることやら。

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