九筆目
神筆の核は、一文字家に代々受け継がれてきた霊験あらたかな物でございます。
その昔は、祓い屋を稼業として興した始祖が使用していた箒。その箒の一部を核として今世にまで残して参りました。
核そのものは、北白川のような凡夫がおいそれと目にする訳にもいきません。由緒正しい一文字家の「神筆」を扱う人物が大切に保管して、次の器に移し替えるのでございます。
それが即ち!清らお嬢様なのでございます!!!
「北白川」
一文字のお屋敷に戻った時のことでございます。
自室へ引き上げていくお嬢様に付いて歩いておりますとお嬢様は立ち止まられて、北白川を振り返られました。
……振り向きざまのお嬢様は、なんと麗しく美しいのでございましょうか……!北白川の胸が引き絞れてちぎれそうになってございます!!!
「いかがされましたか」
「コレ持ってて欲しいの」
ポイ!とお嬢様が投げて寄越したのは、割れた竹の破片と、一粒の数珠玉のような水晶でございます。
「こちらは……?」
「神筆の核よ」
「!」
ホギャアアアアアアア!!!?
いけません、北白川としたことが!!!うっかり取り落とすところでございました!!!
「しかし核は、お嬢様が……」
北白川、内心の動揺をお首にも出さないことなど得意分野でございます。
しかしお嬢様は「ふふ」と笑われました。
あ”あ”あ”あ”!心臓に悪い!今、右心房が破裂しかけました!!!お嬢様の供給過多!!!
「北白川の見立てで構わないから、新しい神筆の器に核を入れて置いて欲しいの」
「お嬢様……」
「私は、お父様に祟り神のことを話してくるわ」
お嬢様は疲れたようにそう仰ると、旦那様の私室に向かわれました。
お嬢様が去った廊下で、北白川は手の中の水晶を、まるで世界一脆い硝子細工のように両手で包み込み、そのまま胸へと抱きしめます。
ほのかに、お嬢様が触れられていた聖なる残熱が伝わってくるようでございます。ああ、この水晶になりたい。この水晶になってお嬢様の手のひらで真っ二つに握り潰されたい……!
皆さま方、何を見ているのですか?仕事でございますよ。
北白川、お嬢様に今生で最大の試練と栄誉を賜りました。お嬢様から死を賜る以上の栄誉があるなど思いも致しませんでした。
まさかまさか、一文字家の秘宝とも言える神筆の新調を任せれるとは!!!
気合いを入れるのは今でございます。
値段もつけられない、途方も無い価値のある御神器。
前回の新調は80年ほど前と伺っております。先々代の神筆遣い様が用意されたのは、先程までお嬢様が使われていた筆でございます。世代を超えて受け継がれてきた御神器。──お嬢様に相応しく、次世代に恥ずかしくない物をご用意せねばなりませんっ!
皆さま方、まずは素材探しでございます。
散っ!!!
とは言え、御神器の器などそう簡単に見つかるものではございませんね。
皆さま方は何を探して来られたのでしょうか。少しばかり拝見すると致しましょう………。
まずは名工の手技が光る熊野筆、扇子、懐刀。
趣きのある羽箒、ハタキ、洋服ブラシ、茶筅。
意外性として、ルンバ、猫のぬいぐるみ、呪いの市松人形……。
誰です?呪物を持ち込むなどいい度胸でございますね。北白川、配下の式神といえど容赦は致しませんが、お覚悟はよろしいでしょうか。
自室のテーブルにズラリと並べられた器候補、一部を除いて非常に効果が高そうに見受けられます。
しかし、今後……近い未来に宿敵である祟り神との本戦がありますので、丈夫さと柔軟性は必須でございます。それと優美さも譲れません。お嬢様が手にする物ですので、何時いかなる時も【至上の美】を引き立てる物でなければ……!!
間違っても市松人形では務まりません。先程からガタガタと勝手に揺れておられますが、呪物といえど、北白川は教育的指導に躊躇いなど微塵も感じません。
執事の矜持とも言える白手袋越しに、呪いの市松人形へ往復ビンタをお見舞い致します。ペキンとかパキンとか音がしましたが、北白川が真剣に悩んでいる場でふざける呪物如きに何ができましょうか。
おや、呪物のくせに今度は涙を流し始めましたね。情緒が安定しないあたりは未熟と言わざるを得ません。呪物失格でございます。
シクシクと泣く市松人形の隣で、猫のぬいぐるみが慰めるように体を擦り寄せておりますね。今度はなんでございますか……。本当に誰です?こんなものを持ってきた方は。
皆さま方、挙手し名乗り出てくださいませ。呪物やぬいぐるみと遊んでいる暇はないのでございますよ?
ん?市松人形が何か言っている?
見たところ、ウジウジと泣いているだけで何かを言っているようには見えませんが。ええ、聞こえません。モブ同士なにか通じ合う物があるのでございますね?「ごめんなさい」と謝っている?
殊勝な姿勢は評価に値しますが、好感は持てません。──なぜそんなにショックな表情をなさるのでしょうか。あからさまにガーン!だなんて令和のギャグ漫画ですら見ない表現方法でございます。
はっきり申し上げて市松人形様は古うございます。お嬢様がお持ちになる御神器に相応しくございません。悪しからずご了承くださいませ。
さて、仕切り直しでございますが、御神器については再度一考の必要性を感じる次第でございます。
皆さま方、今度は世界を視野に【お嬢様に相応しい】御神器の器を探してきてくださいませ。
北白川でございますか?北白川はこれからお嬢様のスイーツ作り(完璧な再現スイーツ)と、等身大遼くん推しぬい作家様の洗い出し、作家様との面談(物理)、米国式海兵隊ブートトレーニングとやることが山積みでございますので……。
式神の皆さま方の見識を頼りにする次第でございます。皆さま方の成果は北白川の評価に直結致します故、どうぞお励みくださいませ。
また次章でお会い致しましょう。




