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神話由来のお掃除系名家ではございますが、令和でも悪鬼滅殺して参ります! 〜最強こじらせ執事の『お嬢様尊い』的限界オタク化が止まらない~  作者: 御堂
第二章

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八筆目

 solomonの事務所ビルから完全に人が居なくなったのは、30分後のことでございました。

 件のマネージャーを捕まえて、遼様に贈られた呪物紛いのプレゼントの在処を聞き出します。本当は持ってきて欲しかったのですが、残念ながら既に燃えるゴミと共に回収済との事で、では回収前のゴミ置き場にと向かっている途中ではございます。

 アイドルを抱える芸能事務所なだけはございますね。ゴミの管理も厳重でございます。地下二階にゴミを集める専用部屋がございました。

 やはり様々なゴミを留めて置く部屋なだけはございます。臭いも一級品でございます。

 お嬢様は既に消臭の文字を盾に、優雅に歩いておいででございますが、なんと申しましょうか。掃き溜めに鶴とは申しますが、汚部屋に女神もなかなかのインパクトがございますね。

「掃。【布刀玉命】」

 ……何をボケッと見ているのですか。式神(モブ)である皆さま方の出番でございますよ。赤絨毯だけでなく、布刀玉命様と共にこの部屋を掃き清めてくださいませ。速やかに!

 一般ゴミの残渣の中に混じる醜悪な淀みが、少しずつ浮き上がって参ります。現物は無くとも、気味の悪い呪物から漏れ出た瘴気は、部屋の壁や床、天井に我が物顔で染み込んだようでございますね。

 お嬢様が神筆を祝詞奏上で大筆に変化させておられます。しかし、そんな大筆を担ぎ上げたところで、お嬢様は「あら?」と呟かれました。

「遼様、何故ここに?」

 振り返れば、奇妙な動き方をされる遼様が、エレベーターホールからこちらに向かって来ておりますね。

 アレはまた……醜悪の極みでございます。遼様ではございません。恐らく例の推しぬいとやらでございましょう。お見逸れ致しました。等身大とはまた……歪み切った愛でございますね。

 お嬢様は素早く神筆を振り下ろされ、一筆奏上されました。

「緊縛!」

 なんと背筋をゾクゾクとさせる言葉を吐き出されるのでございましょうか!!!北白川、うっかり海老反りになるところでございました。気を引き締めなければなりません。

 のんびりしてる暇はございませんので、次の工程に移りましょう。お嬢様の緊縛を受けた遼様らしきモノは、動きを封じられたまま「ギギギ」と気味の悪い音を口から吐き散らかしております。

「清、及び浄!【天児屋根命】」

 柏手をお願い致します。二回ですよ。

「怜!矛先鈴を鳴らして!」

 うぐ……っ!!!こんな時に名前を呼び捨てされるとは……!北白川、本日はお嬢様に狩られるのでしょうかっ!本望でございます!!!

「承知しました」

 お嬢様が申し上げた矛先鈴は、刀の切っ先に鈴をつけた神具でございます。神霊を招き邪気を祓い清める物でございます。

 緊縛中の等身大推しぬいの黒豆は、苦しげに口から瘴気を吐き零しております。お嬢様はソレから目を逸らすことなく睨みつけ、大筆を構え直しました。

 ──シャン!シャンシャン!!

 矛先鈴の音が、天児屋根命様の清めた空間を神域へと格上げさせていきます。音が鳴る度にお嬢様の緊縛の文字が推しぬいをギッチリと締め上げていき、何だかそれがとても北白川には羨ましく思えて仕方がありません。

 部屋の中、壁や床に染み付いた瘴気の残渣が、抵抗するように震え、逃げ場を求めるように右往左往と移動していきますが。残念でございますね。北白川には式神がおりますので、ここで壁のシミ程度の怨嗟は叩き潰して差し上げましょう。

 式神(モブ)の皆さま方!一列にお並びくださいませ。半分は床壁天井を一斉にローリングで浄化して参りますよ!

 位置について、用意……ドン!!!

 あ、もう半分の式神(モブ)の皆さま方、お嬢様の前でまた肉壁役をお願い致します。待機時間中の指立て伏せの成果をお見せ下さいませ。

式神(モブ)壁!」

 縛り上げられた悍ましい推しぬいが「ヴァァァ」と呻いております。時折「リョークン」「スキィィィ」と零す辺りは、哀しき怪物(モンスター)のようで胸を抉られる気持ちさえ致しますが、まぁ気の所為でございますね。

 清掃組の式神(モブ)の皆さま方、いかがでございますか?だいぶくすみが薄くなったような気は致しますが果たして、どうなのでしょうか。

 お嬢様が大筆を振り上げて、室内に向かって一撃を払い落とされました。

「洗浄!【天照大神】」

 神筆から大粒の泡が放射されて、部屋中を泡だらけにされていきます。皆さま方、泡はどうぞしばらく放置なさいませ。汚れは泡で浮かして流すものと相場が決まっております。

 返す筆でお嬢様は、怪物となった推しぬいにトドメの一撃を放たれました。

「昇天!」

 緊縛の文字を上書きした瞬間、推しぬいの口、目鼻、耳辺りから真っ黒な瘴気が一斉に吐き出され、お嬢様目掛けて飛んで参りました。

式神(モブ)壁!二枚!」

「漂白!!」

 気持ちのいい連携プレーでございます。お嬢様の放たれた聖なる光、迫り来る瘴気を遮る北白川!あああ……北白川は今、最高に輝いてございます!!!

 ドス!!!と重たい衝撃音が響き、ああ……皆さま方、息をしておられますか?またもや肉片となってしまわれましたね……。お労しゅうございます。素早く再生し起きてくださいませ?

 瘴気は神筆の効力で一気に漂白除菌されてしまいました。

 霧散した漂白済みの瘴気が、壁や天井にぶち当たりまして、泡だらけになった部屋をすっかり洗い流してしまわれました。……良かったですね、皆さま方。お仕事がひとつ減りましたよ。え、もちろん洗い流し乾燥までが掃除でございます。皆さま方の仕事でございます。

 等身大遼くん推しぬいはと言うと、エレベーターホール前でぐにゃりと押し潰され、空っぽの伽藍堂となっております。

 検分する北白川の傍に歩み寄って来られたお嬢様は、静かに推しぬいを見下ろされたまま、一言呟かれました。

「……回収されたのに戻ってきたのね、その……ソレ」

 推しぬい、でございます。お嬢様。

「そのようでございますね。執念でございましょうか」

「いいえ、恐らく……祟り神の使い魔だと思うわ」

「!」

「差出人は分からないかしら」

「お調べ致します」

 静かに頷かれたお嬢様は、大筆を縮小させていきます。スルスルと手のひらに収まっていく神筆がいつもの大きさにまで戻った時のことでございました。

 ──バキッ

「あ」

 お嬢様の手のひらで真っ二つに折れた神筆。一瞬呆然としたお嬢様は、北白川を見て仰いました。

「神筆の新しい器も用意しないとね」

「承知しました」

「……お父様達に報告もしないと……。やることが多いわね」

 お嬢様はそう呟かれると、真っ二つに折れた神筆を無造作にポケットに捩じ込まれました。

 ──お嬢様との『二人だけの秘密』は呆気なく幕を閉じまして、現在、北白川は非常にしょんぼりでございます……。




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