EP:8☆ギル様の苦悩っ!
☆.*˚
───翌朝
私は再びカツラの中にピンクの髪をぎゅうぎゅうに押し込み、執事服に身を包んで今日も男装執事リオになる。
鏡を見てうん、今日もばっちり!なんて思いながら、るんるんでギル様の執務室へと向かった。
扉をノックして中に入ると、今日も朝から綺麗な顔のギル様がいる。
部屋に入ってきた私を綺麗な青い瞳で、私をまっすぐに捉える。
本当黙ってればびっくりするほど美形なんだよなぁ……。
そんなことを考えながら、挨拶をする。
「ギル様、おはようございます」
「あぁ、おはようリオ。……昨日さっそくレオと会ったらしいな?」
ギル様はふっと今日も美しく笑う。
「はい、そうなんですよ!アル様に屋敷を案内していただいている時にレオ様にお会いしましたよ〜っ!レオ様って可愛いですよねぇ〜っ!」
ギル様の問いかけに、私は昨日出会った可愛いく生意気なレオ様の姿を思い出し、キラキラと顔を輝かせる。
そして、一度思い出すと火がついた私はついつい可愛いさを熱弁してしまった。
「レオ様、最初は僕のことをひょろひょろチビって怒って悪態をついておられたんですけど、怒ってる姿がすっごく生意気で、もう本当に可愛らしくて……っ!僕、あんな可愛い弟がずっと欲しかったんです!」
レオ様を思い出し、くすくすと笑みがこぼれる。
前世で奪われた弟との時間を、レオ様が埋めてくれたような気がして、昨日の可愛い姿を思い出すと嬉しくてたまらない。
満面の笑みのままギル様に視線をうつすと、ギル様が少しだけ青い瞳を見開いて固まっていた。
「…………っ!」
「どうしましたか?」
不思議に思ってギル様の顔を覗き込むと、すぐにいつもの綺麗な笑みに戻った。
そして、椅子の背もたれに深く身体を預けると、私をじっと見つめてきた。
「……男のくせに笑った顔が随分と女のように可愛いらしいな?リオ」
「えっ……?!」
レ、レオ様のことを思い出して、てっきり気を抜いちゃった…っ!
だってだって……レオ様が可愛いすぎるんだもんっ!!!
バ、バレてないよね?!
びくびくとする私に、ギル様は口を緩ませ意地悪な顔をする。
「お前の顔は、俺を誘惑でもしているかのように見えるんだが」
「なっ……!そ、そんなわけ……!」
ドキリと心臓が嫌な音を立てる。
私のこの完璧な男装……もしかして、見抜かれてる!?
どうしたらいいものかと慌てていると、ギル様はゆっくりと机に肘をつき、綺麗な顔でこちらを見上げる。
サラサラの黒髪の隙間から覗く青い瞳が、意地悪く私の顔を見つめる。
「……本当に不思議なほどよく似ているな」
「え……?」
私の顔をまじまじと見るギル様に私はビクッと肩がはねる。
「俺の知っている、とある女にな。
……夜会で俺を池に落とし、下着姿で泥まみれになりながら、お前と同じように無邪気な顔で笑っていた女だ」
な!!!これは?!どっち?!
バレてるの?バレてないの?!ひぃ?!
そして、私を追い詰めるようにギル様は立ち上がると、一歩また一歩と距離を詰めてくる。
お、終わった……そんな気がする……。
すらりとした高い身長のギル様が私の目の前まで近づいてくる。
久しぶりに嗅ぐギル様のいい匂いが私の鼻をくすぐる。
む、むりっ……こ、これ以上は近寄ってこないでぇええぇえ!!
そんな私の願いは虚しく、ギル様は私のすぐ目の前で立ち止まる。
そして、綺麗な指先が私の顎をくいっと持ち上げた。
ドキドキ……ドキ……
上を向かされた視線の先で、ギル様とぱちっと目が合う。
とても美しくて意地悪な笑み。
「あいつは今、家を飛び出してどこかで修行をしているらしい。
……なぁリオ。お前は何か知らないか?」
耳元で囁かれるのは、低く色気のある声。
意地悪く私の反応を楽しんでいるその姿に、私の心臓はバクバクと激しく音を立てる。
もう、私の心臓は目の前のかっこよすぎるギル様に音をならしているのか……バレそうで恐ろしくて音をならしているのか、どっちか分からない。
だけれど、そんな私に前世の私が警笛を鳴らす。
この男は危険よ!モラハラ臭がするわ!!と
私は顔を真っ赤にさせたまま、ギル様を見つめて声を絞り出した。
「な、何言ってるんですかっ!
僕は……お、男ですっ!!そのような方も……ま、全く、知りませんっ!!」
すると、予想外に効果てきめん……??
ギル様はほんの一瞬切なそうな顔をした気がしたけれど
ふっと笑うと顎にあった指が、私の顎を最後に優しくツゥーとなぞると手が離れていった。
「ほぉ…、そうか」
そう言って、私から離れるギル様はまた椅子に戻ると背もたれに深く座る。
た、助かったぁ……ギル様って本当心臓に悪すぎっ!!距離近すぎっ!!
心の中で文句を言っていると、綺麗な指先で自身の額を押さえて、何かを悩んでいる様子のギル様。
少し胸が落ち着いてくると、そんなギル様が気になった。
ん……?なにか悩んでる……?
ギル様は小さくため息を吐くと、私には聞こえないほどの小さな声でぼそりと呟いた。
「まだリリィは見つかってない……早く目の前のこいつの違和感を突き止めねば……どうもこいつはリリィに似すぎて狂わされる……」
あまりにも小さな声で、何を言っているのかさっぱり聞き取れなかった。
「……ギル様?どうかされましたか…?」
私が首を傾げギル様の顔を覗き込む。
すると、ギル様はなぜだか私から視線を逸らした。
えぇ……!?私何かした?
どうしたんだろう……なんだかいつものギル様らしくないような……
すると、椅子から立ち上がったギル様は、上着を羽織り、どこかに行く準備をする。
いつも通りの美しく圧倒的なオーラを纏ったギル様は
「……あぁ、なんでもない。俺は今から公務で屋敷を空ける。後のことは任せる、分からないことはアルに聞け。
……行ってくる」
なぁーんだ、気のせいか。
「はい!かしこまりました!公務、頑張ってくださいねっ!いってらっしゃいませ、ギル様、お気をつけて〜っ!」
私はギル様が部屋を出ていく姿に、大きく手を振るとニコニコと元気いっぱいにお見送りをした。
ギル様の後ろ姿を見送りながら、心の中で小さくガッツポーズを決める。
よしっ!今日はギル様がいないっ!
うふふっ、久々ののんびり自由時間を満喫よ〜!




