EP:7☆生意気なレオ・レイヴン!
ウキウキしながら、アル様の後ろをついて歩いていると……
「──おい、アル。そいつ誰だ?」
前方からまだ少し幼いけど、威圧感のある声が響いてきた。
その声に目を向けると、そこには一人の美しい少年が立っていた。
年齢は十歳くらいかな?
サラサラの黒髪に綺麗に澄んだ青い瞳。
まだ幼さは残るけれど、驚くほどに整ったその顔立ちは
……ギ、ギル様にそっくり……
私が心の中で密かに絶叫していると、アル様は親しげに片手を挙げた。
「おーレオ。いいところにきたね。
この子は今日からこの屋敷で働くことになった、ギルの専属執事のリオだよ」
「……は?兄上の専属執事……?」
レオと呼ばれた少年は、アル様の言葉を聞いた瞬間、あからさまに嫌そうな顔をした。
だけれど、私の胸の中には、ほわほわと温かい気持ちが込み上げていた。
私を上から下まで、ものすごく品定めするような目で見つめてくる。
なんだろう?とりあえず挨拶しなきゃねっ
「初めまして、今日からギル様の専属執事としてお世話になります、リオと申します。レオ様よろしくお願いしますっ!」
頭を下げた私に、レオ様は不機嫌そうに眉をひそめると、腕を組んで悪態をつく。
「は?こいつが?
……お前みたいな女顔でひょろひょろでチビで鈍臭そうなやつが、兄上の専属執事だって?ふざけるなよ」
ものすごい暴言を吐かれているけれど、私の胸は怒りではなく、まったく別の感情が湧き上がっていた。
実は前世の私には、生意気だけど世界一可愛い弟がいた。
だけれど、モラハラ男と付き合ってた私は、束縛されてから大好きな弟に会うことすら許されないまま人生を終えてしまった。
目の前で、生意気そうに怒っているギル様そっくりの少年は、あの頃の私の生意気な愛しい弟と重なった。
何この子っ!すっごく生意気……っ!
だけど、そこがめちゃくちゃ可愛いっ!!
あぁ……もうだめ……。
この世界にきてからというもの、自由に生きすぎた私は、我慢というものを前世に忘れてきたようで
いつの間にか、我慢ができずに可愛いすぎるレオ様に近づいていく。
「なんだよ?」と、目の前で怪訝な顔をするレオ様に、両腕を伸ばす。
そして、理性が崩壊した私は可愛いすぎるレオ様を気がつけば思いっきり
ぎゅうーーーっと抱きしめていた。
「可愛い!可愛い!可愛いすぎますーー!!僕こういう生意気で可愛い弟が欲しかったんですっ!!可愛いいぃぃぃいっ!!」
「なっ……お、え、はっ!?」
興奮する私にはレオ様が、可愛い弟にしか見えなくて更に強く抱きしめる。
「うげっ……な、何するんだお前っ!!離せっ、離せよ!!」
レオ様は信じられないものを見るような目で私を見ると、怒りなのか照れてるのか分からないけど顔を真っ赤にさせていた。
「男のくせに抱きつくな!!気持ち悪いだろっ!!」
「えへへ、だってレオ様が生意気で可愛いすぎるんですよぉ!本当にたまんないっ!可愛いぃぃいっ!」
キラキラと目が輝く私をめちゃくちゃ嫌そうな顔で見るレオ様。
「……は、はぁ?!」
そんな様子を見ていたアル様は、綺麗な瞳を丸くして、男同士で抱きつく目の前の光景に言葉を失っていた。
暫くするとアル様は優しい口調で私をレオ様から引き離した。
「こら、リオ。レオの顔が真っ赤になってるよ。まだ案内が残ってるんだから、離してあげなよ」
レオ様の身体が私から遠ざかっていく。
残念……と心の中で小さくため息をつく。
自由になったレオ様は、相変わらず顔を真っ赤にさせて私を睨みつけていた。
私のことすっごく睨んじゃってかっわいい〜っ!私の弟も抱きつくと照れて怒ってたっけなぁ〜?
私の弟も、元気かなぁ……?
少しだけ寂しい気持ちになっていると、アル様が「ほら、そろそろ行くよ」と声をかけてきて、はっとする。
歩き出してしまったアル様を見ながら慌ててレオ様に声をかけた。
「レオ様、今度僕と一緒にお茶しませんか?お菓子は何が好きですか?遊びは何が好きですか?今度一緒に遊びましょう!」
「はぁ?!」
「約束ですよ?絶対ですからねぇ!じゃあ僕は行きますねっ!また会いましょう!」
「なっ……だ、誰がお前なんかとっ…!」
言い返すレオ様に元気に手を振って満面の笑みを浮かべると、私はアル様に急かされてその場を後にした。
背後では、レオ様がまだ怒っているのか
「おいっ!待てっ!俺はまだ許してないからなっ!!」
と可愛い声が聞こえてきたけれど、アル様は急いでいるのか足を止めてはくれない。
私はレオ様に、返事の代わりに笑顔で振り返ると手を大きく振った。
☆.*˚
その後、お城のように広いお屋敷のいろんな部屋や場所を案内された。
最後に「ここが君の部屋だよ」と案内されたのは、使用人用の小さいけれど、とても綺麗な部屋だった。
さすが、レイヴン公爵家。うちの屋敷の使用人室よりとても綺麗。
そして……やっと、やっと
衣食住が全部揃った!やったぁぁ!!!
モラハラ婚約ルートは完全回避!ふふふっ!
やっとここまで来た!とあまりの感激に一人で微笑みやっと一息つけると、胸を撫で下ろした……その時だった。
───カチャリ……
と背後で部屋の鍵が閉められる音が響いた。
「え……?」
驚いて振り返ると、扉の前に立ったアル様はさっきまでの優しい笑みを消し去り、冷たくて鋭い視線を私に向けて立っていた。
え……な、なにごと?!
さっきまでの雰囲気とは全然違うアル様は、騎士らしく威圧感のある雰囲気を纏っている。
「さて……リオ。ここからは仕事の説明と注意喚起をしとこうか」
口調は優しいままなのに、瞳の奥は全然笑っていない。
いきなり急変したアル様に、この人も二重人格?!と私は内心パニックになる。
や、やっぱりずっと感じてた鋭い視線は……勘違いじゃなかった!!
焦る私に淡々と説明をするアル様。
「ギルは公務で忙しいから、屋敷にいないことも多い。あいつがいない間は、基本的に君は自由に過ごしていいよ。
……まぁ、自由にしていいとは言っても、おかしな行動ばかりされては困るけどね?」
そして、私に冷たい笑顔を向け近づいてくるアル様が一気にまくし立てる。
「あの警戒心の強いギルに気に入られて専属になるなんて、君は一体何者なのかな?
普通じゃありえないことなんだよね……
それに使用人にしては、手、綺麗すぎだと思わないかい?
まさかとは思うけど……どこかの回し者じゃないだろうね?」
顔は笑っているのに目の奥が全然笑っていなくてゾクッとした。
女バレじゃなくて……そっち?!?!
……すっごい不審者扱いされてるんだけどっ
私がレイヴン公爵家をどうにかできるなら、婚約された時点で爆破させてるってばっ!!
私そんなに変な行動してないよねっ?!本当、勘弁してよぉ〜っ!!!
「ち、違います……!ぼ、僕だって、好きで専属になったわけじゃないですっ……!」
私が必死に慌てて否定すると、アル様は再びふっと普段の優しい笑顔に戻る。
だけど、瞳の奥は全然笑ってないのよっ!!
「冗談だよ、そんなに怯えないで」
そう言って私のカツラの髪をサラリと撫でてきた。
私にはこの人の情緒が全然わかんないんですけど……
そして、部屋を去る間際に向けられた視線は、冷ややかで私のすべてを疑っているみたいだった。
彼が部屋を出ていくと、私は一気に身体の力が抜けた。
「はぁ……あの人の情緒も意味わかんないけど……なにより、完全に不審者だと思われてる。どうしよう……っ」
だけれど、考えても答えは見つからない。
「まぁ…でも、女ってバレるよりはマシな気がしてきたぁ〜…ふわぁぁ……疲れた」
疲れた私は茶色のショートカットのカツラを外すと、ピンクの髪がふわりと広がる。
そして、堅苦しい執事服を脱ぎ捨てると、この世界での下着姿、シュミーズ姿になる。
やっぱ部屋ではこのスタイルだよねーっ
やっとゆっくりできるような気がした。
私はシュミーズ姿のままで、フカフカのベッドにダイブするとごろごろと転がりながら考える。
「アル様って、優しそうなのに目が全然笑ってなかったなぁ……
あーゆーのが情緒不安定って言うのかな
すっごい疑われてたけど……まぁ、いっか!
私、本当にただの執事だし、悪いことなんて企んでないしね〜」
いくら考えても答えが出ない私は、疲れてたこともあってそのまま呑気に深い眠りへと落ちていった。
そして、ぐっすりと眠ると翌朝を迎えるのだった。




