EP:5☆派遣先はレイヴン公爵家!
☆.*˚
ギルside
─────ロゼッタ侯爵邸
「リリィが消えた……だと?」
改めて婚約の挨拶に訪れていた俺が耳にしたのは、婚約発表の夜にリリィがいなくなったという事だった。
「こちらが……リリィ様の部屋に残されていた手紙です」
後ろで待機していたルリが、涙を堪えながら俺に手紙を差し出してきた。そこに書かれていたのは、リリィらしい謎めいた手紙だった。
【修行してきます。私は元気です。】
「あぁ……うちの娘は少しばかり規格外でね……修行に出ると手紙を書き残しいなくなってしまったよ。
きっと公爵様の花嫁になる為に修行に行ったのだろう……なんて公爵様想いの娘なんだっ!!」
なにかしでかすのではないかと急いで来たのだが、一足遅かったみたいだ。
俺の目の前で感動している両親には悪いが……、これは俺から逃げたのだろう。
本当にあいつは……やってくれたなリリィ。
俺をこうも振り回すとは、やはりとてもおもしろい……くくっ……流石だ。
俺から逃げれるとでも思っているのか?
受けてたとう……、地の果てまで追い掛けてやろうじゃないか。
リリィのその手紙をそっと折り畳むと胸のポケットにしまい、俺はリリィの両親に微笑むと立ち上がった。
そして俺の引き連れてきた騎士たちに指示を出す。
「即座にレイヴン公爵家のすべての力を動かす。我が婚約者を何がなんでも探し出せ!今すぐ全力で捜索を開始しろ!」
そんな俺の指示に目を丸くするロゼッタ侯爵。
「そ、そこまでしなくても娘はそのうち帰ってくると思いますが……」
目の前のリリィの両親は本当にリリィが帰ってくると思っている。
きっと俺が婚約破棄するまでリリィは帰ってくることはないだろう。
ふっ……死んでもしてやるものか。
「私はリリィ以外と婚約するつもりありません。私の愛しの婚約者リリィをすぐにでも連れ戻してみせます。では失礼します」
リリィの両親の言葉を無視してニコリと笑うといつものように俺は綺麗に一礼して、ロゼッタ侯爵邸を後にしたのだった。
☆.*˚
リリィside
私は今、男装執事リオとしての仕事先を探していた。
ちょうど仕事先を紹介してくれるというおじさんが、私に声をかけてくれたところだった。
「お、今1件だけ衣食住付きで給料も他のところより倍の給料で急募があるんだが、どうだい?ここにするかい?」
「本当ですかー?!倍の給料に衣食住付き?!そこにします!!」
私はいい条件に釣られて、当たり前に即答する。
なんてタイミングがいい求人なのっ!きっと私に神様が味方をしているに決まってる!
嬉しさに目を輝かせ、私はすごくすごく浮かれていた。
「その代わり少しばかりここの公爵様は厳しいんだが……、君頼りなさそうな感じだけど本当にがんばれるかい?大丈夫?」
喜んで即答する私に目の前のおじさんは、少しだけ心配そうな目で見てくる。
私は頭を傾げて考える。
私ってそんなに頼りなく見えるのかな?
かなり男の子らしくなったのに、おじさんには分からないのかな?この男らしさがっ!
それに、おじさん甘いわねっ!
私はこう見えて人生経験豊富なんだからっ!
前世はモラハラDV男と過ごしていた過去を持っているんだから余裕よっ!
あの日々に比べたらどんなこともへっちゃらだ。
やる気がますます出てきた私は、元気よくおじさんに返事をする。
「僕はこう見えて気合いは人一倍あるんです!!そこでお願いします!!」
元気よく返事をする私におじさんは、優しく笑うと契約書を差し出してきた。
「おぉ、そうかい。じゃあがんばっておいで。これが契約書だよ、サインをしたらこれで契約成立だ!」
「はぁ〜いっ!」
──そして浮かれていた私は、契約書をよく読まなかった。
裏には、レイヴン公爵家の名前が書いてあることに、まったく気づかずサインをするのだった。
☆.*˚
あの後契約が完了した私は、おじさんに教えてもらった馬車に乗り込んだ。
それから暫く馬車に揺られていると、今日から働くお屋敷に辿り着く。
馬車から降りてびっくりした。
うちの屋敷とは比べ物にならないほどに、高くそびえたつ門が私を出迎える。
奥に見えるお屋敷も、とんでもなくでかくてどこからどう見てもお城だった。
「うわぁ……これが公爵家!さすがだなぁ〜!すっごくでっかい!こんなお屋敷なら少しぐらいサボってもバレないんじゃない?!」
お屋敷を見つめてこれからのことに胸を踊らせていた。
目を輝かせ脳天気なことを考えていると後ろから声がかかる。
目を向けるとそこに立っていたのは、年配の執事さんだった。
「君が、新人執事のリオくんかな?」
「は、はいっ、リオと申します!よろしくおねがいしますっ!」
「ふふっ元気な子だね……。それで悪いんだが、我が主はとても多忙でね……、今日も執務室で篭っているから挨拶に行ってきてくれるかい?」
これだけ大きなお屋敷の公爵様なら忙しくて当たり前ね〜っ!さすが公爵様ねっ!
「はい、わかりました!まかせてください」
にっこりと笑う私を、執事さんはお屋敷の中へと案内してくれた。
ものすごく広いお屋敷の中に入ると、階段をのぼり最上階にある部屋の前へ案内される。
そこは他の部屋の扉とまったく雰囲気が違っていて、目の前には豪華な扉があった。
すごいなぁ……うちのお屋敷とは何から何まで違うなぁ……
なんて感心していると、執事さんは私に振り返り少しだけ恐ろしいことを言ってきた。
「この執務室の中に主人がいるが、少し機嫌が悪いから粗相のないように挨拶をしてきなさい。私は仕事があるのでこれで失礼するよ。すまないね」
申し訳なさそうに笑う執事さんは忙しそうにいそいそと去っていった。
一人で挨拶……よしっ!
モラハラ男に比べればこんな事だって全然平気だ。
どんなに怖いおじ様公爵にだって私は負けないんだからっ……!!
この手で衣食住を掴んでみせるっ!!
私は拳を握ると扉を見据えて気合を入れた。
そして、心を落ち着かせるために深呼吸をすると扉をノックする。
────コンコンッ
すると扉の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……あぁ、あのエリアも捜索をしろ。端の端までだ。なんとしてでもリリィを探し出せ」
「………?!」
あれ……まってまってまって……どゆこと?
聞き間違い……?!え?!
ここってもしかして……え……?!
……レイヴン公爵家?!?!?
逃げたつもりが本陣に突撃とか……そんなこと……ありえる!?
やばい!!急いで逃げなきゃっ!!
なにやってんのよ私のばかぁあぁ!!!
逃げようと急いで足を返そうとするけれど、もう遅かった……。
扉の中からは低く恐ろしい声が響いてくる。
「……入れ」
その聞き覚えのある声に、どうか間違えであってくれと願いながら、さっきよりも震える手をどうにかおさえつつ執務室の扉を開く。
するとそこには、大量の書類に目を通すサラサラな黒髪とその髪の毛の隙間から覗く綺麗な青色の瞳……。
この恐ろしいほどに整った顔は……
ギル・レイヴン……!!!!!
バレてしまうんじゃないかと、震え上がる私はできるだけ声を低くして挨拶をする。
「し、新人執事のリオと申します!」
すると下を向いていたギル様が顔をあげると、目を見開き固まった。
え……何その反応……。
……バレてる……?
そ、そんなわけないよね……?
ギル様の反応にヒヤヒヤしたけれど、私は完璧な男姿だということを思い出す。
自信を持って前を見据えればいいんだ!!
謎の自信があふれてきた私は、負けないようにギル様の目を見つめ返すのだった。
☆.*˚
ギルside
手元にある書類から顔をあげると俺は、目の前の光景に驚き目を見開く。
俺の目の前にいるのは茶色のショートカットの髪に、不自然なほどサイズの合わない執事服を着た小柄の少年。
だけれど……驚いたのはそこではない。
少年の瞳は、俺の婚約者と同じ澄んだ空色の瞳だったからだ。
さらに目の前の少年は、愛しいリリィと同じように愛くるしい瞳で俺を見つめる。
その瞳に俺の胸がドキリと音を立てる。
目を逸らせなくなった俺は、いつの間にか吸い込まれるようにその瞳を見つめ続けていた。
それと同時に、この少年に物凄い違和感が沸き起こる。
なんだ……?リリィに似てないか……?
いやいや……待て……
流石にあのお転婆でも、こんな大規模な捜索が始まっているのにわざわざ俺の屋敷に現れるだろうか?
そんな斜め上の発想……ないよな?
気になった俺は席から立ち上がると、その少年に近寄る。
少年の顔を近くで覗き込むとさらに驚く。
見れば見るほどリリィに似ている。
だが……、髪の毛の色がちがう。
俺がじろじろと少年を見つめていると、ビクッと怯える。
その時に、侯爵邸でリリィを抱きとめた時と同じ甘く心地のいい匂いがこの少年からかおる。
この瞳に匂い……は?
ここまでリリィと一致することがあるか?
親戚かなにかか……?
それとも……リリィ……?
いやまて……それはない……。
だけど、もしそうだとしたら、なぜ男装してここにいる……?
意味がわからない……流石にここにいるわけがない、よな?
……なにより髪の色がまったく違う。
まだ確証はないがとてもリリィに似ている不思議な少年が、このタイミングで俺の目の前に現れた。
この少年は、傍に置き調べる価値がある。
ここでリリィの名前を出して、もし何かを知っているのならば逃げる可能性がある。
それならば目の前の少年に問い詰めるのは辞めた方がいい。何よりまだ確証はない。
俺は目の前の少年に声をかける。
「お前、リオと言ったな」
「はい、リオですっ」
リオは可愛いらしい声と小さな体で元気よく返事をする。
「気に入った、今日からお前を俺の専属執事に任命する。俺が屋敷にいない時は自由にすればいい。だが俺に呼ばれたらすぐに来い」
すると、目の前のリオは顔を青くしている。
「えっ……」
その嫌そうな反応が俺の婚約者リリィを思い出させる。
俺はその姿が、おかしくて口角が自然と上がるのを感じながら詰め寄る。
「なんだ嫌か?」
すると目の前のリオは慌てながら
「い、いえっ、そんな事はありません!お任せ下さい!」
引き攣って笑う目の前の少年リオ……くくっ……こいつもまたおもしろい奴だ。
さて、俺のこの違和感がなんなのかゆっくりと暴いていこうじゃないか。




