EP:33☆さよなら男装執事リオ!
その後、馬車にもどると手を繋ぎ戻ってきた私たちを見たアル様は、ギル様が離れた隙にこっそりと私に近寄ると耳元で囁いた。
「ふふっ、がんばったんだね?おめでとう
……あーぁ、焼けちゃうなぁ」
そう言って優しく笑いながら祝福をしてくれた。
そして、なにやら慌ただしく指示をしていたギル様は私とアル様の方へ戻ってくると
私と行く場所があるということでアル様とは一旦解散した。
そして、私とギル様が向かったのは……
「おぉ……っ!リリィ!!おかえり!
不思議な格好をしているが……やっと戻ってきたんだね?!無事修行は終わったのかい?!元気だったかい?!」
行動の早いギル様が私を連れてきたのは、実家であるロゼッタ侯爵邸だった。
久しぶりの私の姿に大はしゃぎの両親は、すざましい勢いで質問してくると、私が返事をする前に思いっきり抱きついてくる。
この感じ……懐かしい……!!!!
あまりの懐かしさと嬉しさで笑顔で笑うと、私も思いっきり両親と同じように思いっきり抱きつき返す。
「お父様、お母様!!ただいま戻りました!!」
ギル様は私の隣で、その様子を優しく笑って見守っていてくれた。
すると……カチャンッ!!!!
なにかの物音に、視線を向けると……そこにカップを落とし目を見開く、大好きなルリがいた。
「……リリィ様……っ!!!!今までどちらに……?!?!」
私の姿を見た瞬間、ルリの瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
その姿に、私も胸がじわっと締め付けられて、大好きなルリの元へ走ると思いっきり抱きついた。
そんな私をルリは抱きとめてくれる。
「リリィ様……っ!!本当に……本当に……無事で何よりです……っ!!」
「ルリ……っ!心配かけてごめんね?!」
ルリの表情からは、すごく心配してくれていたのが伝わってくる。
優しく笑うと私を温かく抱きしめてくれた。
そして、しばらく久しぶりの再会に二人で幸せを噛み締めて抱き合っていると……
そっと私を離したルリが、私の後ろにいるギル様に視線をうつし眉をひそめる。
「……それにしても、なぜギル様とご一緒に……?リリィ様は、婚約が嫌で逃げたはずですよね……?」
「うっ……!そ、それは……えと、そうだったんだけど……その……」
ルリは、私を小さい頃からお世話していただけあって、気持ちをしっかりとわかっていたみたいで不思議そうに頭を傾げる。
その様子に、えへへと気まずく笑う私。
そして……、私は今日までの怒涛の日々をルリと両親に話した。
婚約が嫌で逃げ出したこと。
男装執事として生きることに決めたけれど、間違えてギル様のお屋敷で雇われてしまったこと。
その中で出会ったレイヴン公爵邸の大好きな仲間たちのこと。
そして……、最後に大好きになったギル様のこと。
「……はぁ……相変わらずおっちょこちょいですね……、ですが……リリィ様が幸せになれたのなら私はとても嬉しいです」
久しぶりにルリの呆れた顔を見つつ、最後は自分の事のように嬉しそうに笑って祝福してくれた。
一方、私と似て脳天気な両親はそこではじめて婚約を嫌がっていたことに気づき、驚きで二人して目を見開いていた。
「す、すまんリリィ……っ!!!お前がそんなに悩んでいたなんて気づかずに、勝手に婚約を決めてしまって……」
「嫌だったなんて……、てっきり……嬉しくて花嫁修行に行ったのかと思っていたわ……ごめんなさいっ」
お父様とお母様は、慌てて私に謝った。
「ふふふっ、今は幸せだから大丈夫だよっ!!お願いだから謝らないでよ……本当に今は幸せなんだから!」
「リリィ……大切な人が見つかってよかったなぁ……幸せになるんだよ……」
「リリィ、本当におめでとう」
申し訳なさそうにしていた両親も、最後は優しく微笑んで私の幸せを祝福してくれた。
すると、今まで静かに見守っていたギル様が口を開く。
「ロゼッタ侯爵、これからのことなのですが……私の屋敷で婚約者としてリリィを改めて迎え入れたいと思っております。
……本日、このまま彼女を連れていきますが……よろしいですか?」
そう……私は今日、ギル様の婚約者として男装執事の姿を捨て、改めてレイヴン公爵邸に行くのだ。
私の両親は嬉しそうに
「あぁ、もちろんだよ!困った子だけれど、リリィをよろしく頼むよ!」
そう言って嬉しそうに両親は笑っていて、話がまとまった。
そして、私はルリに振り返ると手をぎゅっと掴む。
「ねぇルリ!ルリも一緒にギル様のお屋敷についてきてくれるよねっ?!」
「えっ?!私もですか?!」
「当たり前じゃないっ!!ルリがいない生活なんて考えられないもんっ!
それにね、とても素敵なメイドのミアって子をルリに紹介したいんだっ!!
きっとすぐ馴染めるよ!!」
勢いよくつめよる私に、ルリは目を丸くしていたけれど、すぐに嬉しそうに笑った。
「ふふふっ……とても光栄なことです。どこまでもリリィ様について行きます!」
そして、私はルリの手によって数ヶ月ぶりにロゼッタ侯爵家のリリィとしての姿に戻った。
上質なドレスに身をつつみ、綺麗にお化粧をほどこされ、綺麗に髪の毛を整えられる。
「ふふふっ……やっぱりリリィ様はとても可愛いらしいですね?」
「ありがとう、ルリの腕がいいからだよぉ〜!やっぱりルリは天才ねっ!!」
久しぶりに鏡に映る私は、黙っていればどこからどう見ても、可愛いらしいお人形のような見た目になっていた。
そして身支度を終わらせ両親に別れを告げると、ルリを引き連れてレイヴン公爵邸へと向かった。
☆.*˚
暫くすると、大きなレイヴン公爵邸の門が見えてきた。
怒涛の一日を過ごした私には、なんだか久しぶりに帰ってきた気分だった。
そして、先に馬車から降りたギル様が私に優しく手を差し伸べる。
揺れる黒髪に青い瞳は、キラキラとしていて手を差し伸べるギル様はとてもかっこよくて王子様みたい……。
こんな丁寧な扱いをされていると、女の子に戻ったんだな……としみじみ思う。
エスコートをされ、お姫様になったような気分で、胸がドキドキしながら私は馬車から降りた。
すると……
門の前には見慣れたプラチナブロンドの髪が、キラキラと揺れているのが見える。
「……アル様?」
そこにはお茶会の後、一足先にお屋敷に戻ったアル様が待っていた。
アル様は、馬車から降りてきた私の姿に、瞳を大きく見開いて固まっていた。
……どうしたのかな……?
……そういえば、お嬢様らしい姿なんて見せたことないから……や、やっぱり似合わない?!
似合ってなかったら恥ずかしいっ!と、一人慌てているといつの間にかアル様は優しい笑顔で、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってきた。
「……参ったなぁ……。見違えたよリリィ嬢……。本当に、びっくりするくらい君は可愛いらしいんだね」
「えっ……お、おかしくなかったですか?ありがとうございます!
あの……リリィ嬢なんてやめてくださいっ!リリィでいいですよっ!
アル様と私は、同じ釜の飯をたべた仲良しなんですからっ!」
褒められて安心した私は、とびっきりの笑顔でアル様に微笑むと、一瞬目を見開きくすくすと笑うアル様。
「ふふっ……リリィの笑顔はやっぱり無敵だねぇ……すぐ俺を魅惑するんだから……
やっぱりこうして見ると、ギルにとられたのがすごく悔しいなぁ」
アル様は悪戯っぽく笑う。
そして、ギル様がいるというのに、そんなのは、お構い無しという風に私に近づくと囁いた。
「ねぇ、今からでも遅くないよ。やっぱり俺にしとかない?」
「……えぇ?!?そ、それは……えぇと……」
アル様の言葉に戸惑っていると
突然、私の腰に誰かの手が回ってくる。
そして、アル様から引き剥がすようにぐいっと力を込められ後ろの方へよろめいた。
「……わわっ?!」
よろめくと私の後ろにいたのはギル様で、広い胸の中に抱き止められる。
すると、後ろから私を抱きしめるギル様は、私の頭に顔を乗せてアル様に、ぞっとするようなにっこりと黒くて最高に美しい笑顔を向けた。
「アル……リリィとやけに仲がいいとは思っていたが、いつの間にこんな事になってるんだ?
……これ以上、俺のリリィを口説くというのなら叩き斬るが?」
美しい笑顔で恐ろしいことを言うギル様。
だけれど、アル様も負けじとにっこりと笑う。
「そんなに余裕を無くしていたらリリィに嫌われるよ?いつだって俺が後ろに待機してると思っていてよ、ギル」
「待つだけ無駄だ、誰にも渡すつもりは無いからな。お前のところにリリィが来ることはない」
「へぇ……余裕だねぇ?」
「ふっ……なんとでも言えばいい。リリィの全ては俺のものだから当たり前だろ?」
笑顔で笑う二人の間には、見えない火花が散っていた……。
ちょ!!!何この空気!!!
そんな二人の様子に慌てていると、ギル様の腕の力はさらに強くなり、私をアル様から隠すように抱き込む。
そして、耳元で甘く囁く。
「お前はいつの間にアルを、たらしこんだんだ?」
「……ひえっ!!」
そんなことを言われても、なんのことか分からないけれど……ギル様が、かっこよすぎて胸がときめいて顔が赤くなる。
「顔を真っ赤にさせちゃって……見せつけてくれるねぇ?ほら、むかつくから早くみんなのところに行くよ?」
アル様は呆れ気味に笑うと、先に歩き出した。
その後ろを、ギル様に優しく手を引かれてお屋敷へと向かう。
ルリはそんな私たちの様子を、くすくすと笑って見守っていてくれた。
そして、屋敷まで後少しの所で大きな扉が勢いよく開くと、レオ様が飛び出してきた。
「アル!兄上!おかえりっ!それよりさ!大変なんだよっ!
リオがどこ探してもいないんだけど知らな…………はっ?!」
息を切らせて慌ててたレオ様は、私の姿に気づくなり、ぴたっと固まった。
レオ様……私のことをそんなに心配してくれてたの……?!?!
可愛い……!!可愛いすぎるっ!!!
私はレオ様が心配して探し回っていたことに猛烈に感動していた。
そう思った瞬間……
「レーオーさーまぁーーーーっ!!!」
「う、うわぁっ!?!?!」
やっぱり令嬢らしくなんて全然できなくて、あまりの嬉しさと可愛いさに、我慢できなかった私はだっしゅで走ると思いっきりレオ様に抱きついた。
「ぐへっ……な、なんだよその格好!!だ、抱きつくなっ!!!」
今日も照れちゃって可愛いんだからぁ〜!!!と、思いながらさらにぎゅっと抱きしめた。
これからはこんなにも可愛いレオ様と、ずっと一緒にいれるんだ……幸せぇ!!
「ふふふっ……ねぇレオ様、前に言ってくれたこと覚えてますか?」
「……なんだよ?」
「実は私……、婚約者としてこの屋敷に戻ってきましたっ!!!」
「……は?!……本当か……?!」
「はいっ!本当ですっ!これからはずぅぅううぅっと一緒にいれますね?
レオ様は……うふふ……もう私の義弟ですねっ!!だからもう遠慮なく抱きつき放題ですっ!!!」
「はぁ?!そ、そういう事じゃないだろっ!!わぁぁー!!離せっ!!」
大騒ぎして叫ぶレオ様。
あまりの騒がしさに、お屋敷の中からは、さらに二人の人物が出てきた。
「……へっ……リオ様……?!」
ぽかんと口を開けて驚いているのは、メイドのミア。
そして、その隣から淡いアメジスト色の髪の毛を揺らして出てきたのはロキさんだった。
……大好きなみんなが勢揃いだっ!!!
「……これは、かなり驚いたね……」
そんなロキさんの呟きにレオ様からパッと手を離すと、二人の元へと笑顔で駆け寄る。
二人は女であることには気づいてたけれど、私の正体を知らない。
こんな怪しい私のことを事情も聞かずに、黙っててくれたいい人たちなのっ!!
私は今日初めて正体を明かす。
二人の前でにっこりと笑い、改めて自己紹介をする。
「えへへっ……今まで黙っててごめんなさいっ!私、ロゼッタ侯爵家のリリィ・ロゼッタです!ギル様の……婚約者ですっ!」
少しだけ婚約者って言うのが照れくさくて、えへへと笑う私を見たミアは、私の両手をぎゅっと握ると大喜びした。
「リオ様が……婚約者のリリィ様だったのですねっ!!ってことは……やっと想いが届いたのですね?!?本当に良かったです!!おめでとうございますっ!!」
「……ミア……ありがとうっ!!ミアが背中を押してくれたおかげだよっ!!」
ミアが私のためにこんなにも、大喜びしてくれてとても感動した。
そして、今度は隣にいたロキさんがくすくすと色っぽく笑う。
「驚いたなぁ……あんなにも毎日元気に走り回ってた君が、こんなにも美しい侯爵令嬢だったなんてね
リオくんのときも可愛いらしかったけれど……君の今の姿は……あまりにも魅力的だねぇ……俺の事本気で誘ってる?」
ロキさんはそう言って、相変わらず色っぽく笑うと私の髪の毛を指でさらっとすくい上げる。
も〜……相変わらずロキさんは、そうやって人で遊ぶんだからぁ
なんて思っていると、それを見ていたミアがロキさんの脇腹をつまんだ。
「何どさくさに紛れてリリィ様を口説いているんですか?!?!この女たらしっ!!!」
「おっと……ミアは怖いなぁ」
そんな二人のやり取りに、ロキさんが女性にこんな扱いを受けているのがなんだか意外でおかしくて笑っていると……
ぐいっ
「わわっ?!」
突然、背後から強い力で引っ張られると、本日何度目かわからないギル様の胸の中に引き戻された。
驚いていると、ギル様は私の顎を綺麗な指先でくいっと持ち上げる。
そして、びっくりしている間に、とても綺麗なギル様の顔が近づいてくる。
その瞬間……
私の唇に、容赦のない口づけが落ちてくる。
「……んふ?!?!」
みんなの前だと言うのに、とても深い濃厚なキスに、私は慌てて離れようとするがどんどん深くなるキス。
抵抗している間にも、段々とくらくらとして頭が真っ白になっていく。
いつの間にか周りに人がいることも忘れて、ギル様しか見えなくなるほど深いキスだった。
甘いリップ音が響くと、やっと唇が離される。
放心状態の私は、ギル様にぎゅっと腕の中に閉じ込められた。
気がつくとみんなからの突き刺さる視線を感じて、今の状況を理解した私はあまりの恥ずかしさに顔をが熱くなる。
そして、ギル様はみんなに向けて美しく黒い笑顔を見せる。
「お前ら、なにか勘違いをしてないか?リリィは俺の婚約者で、俺のものだ。
これ以上口説いてみろ……容赦はしない、わかったな?」
「「「……」」」
私たちのキスにみんなが驚いていることなんてお構い無しのギル様は、私の腰に手を回す。
「ほら、屋敷に戻るぞ。お前はどれだけ屋敷の者たちを、たらしこんだんだ?無自覚にもほどがあるぞ……」
た、たらし……?
私はロキさんみたいなことをした覚えは無いんだけど……それとも違う意味?
よく分からない言葉を考えていると、ギル様は私の腰を優しく引き寄せると、屋敷の中へとエスコートしてくれた。
そして屋敷に足を踏み入れると、さっきの騒ぎを玄関近くで様子を見ていたレイヴン侯爵家の使用人やメイドたちが勢揃いしていた。
「……さっきの話本当……?!」
「あれがリオ様……?!」
「ギル様の婚約者だったの……?!」
あちらこちらから、驚きと戸惑いの声が聞こえてくる。
だけれど、それは一瞬のことでミアが手をパンパンっと叩き騒ぐ使用人やメイドたちの前に立つ。
「これからはレイヴン公爵家の婚約者様として、リリィ様に私たちが全力でお仕えいたしますっ!!」
みんなをまとめるように、にっこりと優しく笑うと、他のみんなも温かな声をかけてくれた。
「リオ様……いえ、リリィ様!!お帰りなさいませっ!!」
「ギル様とのご婚約、おめでとうございますっ!!」
みんなが私を婚約者として迎え入れてくれて、優しくあたたかな祝福の言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「みんな……うぅ……ありがとうございますっ!!……こんな風に温かく迎えてもらえて……本当に本当に私は幸せものですっ!!
みんな……ただいまぁっ!!!」
目を涙で潤ませながら、心からの感謝を込めて今日一番の最高の笑顔をみんなに送った。
そんな姿に、後ろから着いてきていたアル様やレオ様、そしてロキさんまでもが固まっていた。
挨拶……おかしかったかな?なんて思いながら首を傾げていると
私の隣にいたギル様が、はぁ……と深いため息を吐いた。
「まったくお前ってやつは……。これ以上みんなを魅了してどうする?
これからは、屋敷の警備も増やさなければならないな……」
「へ……?魅了って……何のことですか?」
きょとんとする私に、ギル様は呆れたようにそして、とても愛おしそうに私を見つめる。
「お前が可愛いすぎるってことだ。……自分の魅力を少しは自覚してくれないと俺が困るんだが?」
「な、な、何を言っているんですか……っ!!」
ギル様は私を見つめると、そっと両手を伸ばし優しく私の頬を包み込む。
とても優しい瞳で私をまっすぐに見つめると
「この俺を一瞬で落とした女だから仕方がないか……
お前はお前らしくこの屋敷でこれからも自由に楽しく過ごせばいい
お前がどんなことをしようが、俺がいくらでも受け止めてやろう」
婚約したら男に自由を奪われ、閉じ込められる……そんな風に思っていたけれど
ギル様は、そのままの自分勝手で自由な私を愛してくれるらしい。
この人の婚約者になれて……
本当に本当によかった……!!!
「うふふっ……ギル様、言いましたね?覚悟しててくださいねっ?」
私のどんなことも受け止めてくれると言う、とても愛しいギル様にとびきりの笑顔をおくると思いっきり胸に飛び込んだ。
───男装執事としての日々は、終わったけれど、これから私はこのレイヴン公爵家で、大好きな人の婚約者として大好きなみんなといつまでも楽しく過ごしていくよ。
神様……
こんなに最高で幸せな人生を
ありがとうっ!!!!!




