EP:32☆大好きな貴方を逃がしません!
アル様に背中を押された私は、ギル様たちのいるお庭の奥へと戻る。
目に飛び込んできたのは、ギル様がクリスタル様をエスコートしながら二人仲良く、美しく咲き誇る花の中をお散歩しているところだった。
元気になったと言っても……誰がどう見てもやっぱりお似合いな二人の姿に、私の胸はズキズキと痛む。
けれど、その痛みを私はしっかりと受け止める。
いいじゃんっ!胸が痛むのは私がそれだけギル様を大好きって証!!
痛ければ痛いほどそれだけ、大好きってことなんだよ!!
私はもう逃げない……逃げ回るのはもうおしまい。
だって、そんなの私らしくないもん。
私はこの世界に来て自分の幸せは自分で掴むって決めたんだからっ!!
自分に正直に自由に生きるんだっ!!
そして、少しずつ前に進んで二人に近づいていく。
声をかけようとしたその時……
二人の会話に、今日一番びっくりした私は歩みを止めた。
緊張と嫌なドキドキが私の胸に広がる。
私に気づいていないクリスタル様は、まっすぐな真剣な瞳でギル様を見つめてこう言った。
「……ギル様。私、貴方のことをとても好いていますの……」
「それは驚きました……。大変光栄なことですが……申し訳ありません。私には婚約者がいますので」
ギル様は、いつもの社交界用の甘いマスクのまま、驚いたと言いながらも動揺した様子もなく慣れた様子で断りを入れる。
さすが……モテる男は違う!!!
ギル様の返事にほっとしてそんな事を呑気に考えていたけれど……、次のクリスタル様の言葉に私は頭が真っ白になった。
「婚約者様がいるというのもわかっていますわ……
だけれど、ギル様の婚約者様は、あなたの元から逃げ出したのですよね……?
それならば、お父様にお願いして婚約を取り消すことだってできますわ
ですから……、私と婚約を結んで貰えないでしょうか?」
え……、何を言っているの?
私はもう婚約者でいれなくなるの……?
それを後ろで聞いていた私は、何かがぷちんっと音を立てて完全にはじけ飛んだ。
いやだ……
国王様だろうが……その娘の王女様だろうが……そんなの関係ない……。
私の心の中にあるのは、ギル様を他の女の人に渡したくない……ただそれだけ
男装して逃げ回って自由で快適な生活をしたいとか……そんなことだってもう全部どうでもいい!!
我慢の限界を迎えた私は、二人に向かって全力で叫ぶ。
「その話……待ってください!!!
ギル様!!!!
私は……ここにいますっ!!!!」
「「……?!?!?!」」
突然の私の叫びに、ギル様とクリスタル様二人が同時に、バッと振り返る。
二人の視線が私に集まる。
……やってやる……!!!!
次の瞬間……、私は自ら自分の頭の上にある茶色のカツラに手をかける。
今まで私を隠して守ってくれたカツラ。
それを思いっきり引き剥がすと芝生の上に投げ捨てた。
今までありがとう……。
でももうこれは今日で卒業する。私はもう逃げない。
侯爵令嬢リリィとして生きていく。
淡くピンクの髪の毛がハラハラと落ちると、ふわっと風と共に広がった。
そして、リリィとしてしっかりと顔を上げるとギル様を見据える。
「婚約破棄なんて……許しませんからっ!!!絶対に……破棄しませんからっ!!!!」
「はっ……?!」
さっきまでクリスタル様に甘いマスクで微笑んでいたギル様の姿は、もうそこにはなくて
綺麗な青い瞳を、驚きで見開いていた。
隣でクリスタル様も上品な顔を驚きに染めて、私の様子に息を飲んでいた。
驚く二人を無視して私は、ただただ大好きなギル様目掛けて一直線に勢いよく走り出す。
そして、勢いを緩めることなく全力のまま思いっきりギル様の胸元へ
どーーーーーーーん!!!!!!!
と力いっぱいに飛び込んだ。
「うっ……!リ、リリィ……っ!」
さすがのギル様もいきなりのことに、私を受け止めつつも体制を崩して、よろめいた。
そして、よろめくギル様の胸ぐらを両手で力任せに掴む。
さらに驚くギル様を無視して
ぐいっと力を込めると、ギル様の綺麗な顔を自分に引き寄せた。
……むにっ
「……?!?!?」
驚きで目を見開くギル様の唇に、私の唇を思いっきり重ねる。
これが私とギル様のはじめてのキス。
驚きで固まるギル様と、あまりの光景に呆然と立ち尽くしているクリスタル様。
唇をそっと離すと、胸ぐらを掴んだまま涙をこらえて本音をぶつける。
「私は……私は……、ギル様が世界で一番大好きなんですっ!!!ギル様の隣が私以外の人だなんて絶対にいやですっ!!
ギル様のことも……レイヴン公爵邸のみんなのことも……こんなにも大好きなのは私しかいないですっ!!!」
一気に本音をぶつけた私は、そのままギル様からクリスタル様に視線をうつす。
そして、真っ直ぐに見つめる。
「……クリスタル様にだって……ぜ、絶対に……渡しませんからっ!!!」
私の全力の宣戦布告。
周りはみんな驚きの顔で私を見つめていたけれど、私は自分の気持ちや思いがちゃんと届いたのか不安で、いろんな気持ちがぐちゃぐちゃになって、涙がこぼれる。
そして涙と一緒に気持ちが溢れる。
「うぅっ……ギル様は……っ、ギル様は……!!私だけのものですぅぅううぅ!!!!
うわぁぁぁぁあぁあんっ!!!」
最後は、あまりの必死さにまだまだ伝えたいことがあったけれど、言いたいことがめちゃくちゃになって涙と一緒に溢れて
あんなにも頑張ったのに、わんわんと泣きながらのかっこ悪い告白になってしまった。
はちゃめちゃな告白をした私の隣から、くすくすと可愛いらしい笑い声が聞こえてきた。
ハッとして、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま隣を見ると、クリスタル様が美しい金髪を揺らしながら微笑んでいた。
「うふふっ……ギル様の婚約者様は、こんなにもあなた様のことを思っていて……素直でとっても可愛いらしいお方だったのですね……」
「ふえっ……?!」
その言葉に目を丸くする私に、クリスタル様は切なそうに……、だけど優しい瞳で私を見つめてきた。
「いつも完璧なギル様を一瞬でこんな表情にできるだなんて……ふふっ、私には到底無理ですわ。
……私の負けですわね」
悲しそうなのにどこまでも上品に笑うクリスタル様。
私は、あんなにも失礼なことを言ったはずなのに……心まで綺麗なクリスタル様。
クリスタル様のそんな姿に驚いて涙が引っ込んでしまった。
すると、私のすぐ近くでくすっと、低く聞きなれた笑い声が聞こえてくる。
ギル様は流れるように私の腰に手を回すとぐいっと引き寄せた。
そして、クリスタル様に向かって綺麗に一礼をする。
「……ご覧の通り、嫉妬で暴走してしまう私の婚約者はとても可愛いらしいんです。
婚約破棄をしなかったのは、私が彼女に惚れているからです。
本日は申し訳ございません」
「……なっ……?!」
不意打ちの惚れてる発言に、顔が真っ赤になって慌てる私を、クリスタル様は楽しそうに笑った。
「ふふふっ……本当に可愛いらしい方ですわね。少し羨ましいですわ。
……これ以上お二人のお邪魔してはいけませんね、私はそろそろ失礼しますね。
本日はお越しいただいてありがとうございました」
クリスタル様はそう言うと上品に笑い、大勢の使用人たちを引き連れて、優雅に奥の建物にさがっていった。
そして広い庭園に二人きりになる私たち。
みんなの前での大告白に、少しだけ気恥ずかしく思っていると……
ギル様が私に視線を合わせる。
「くくっ……やってくれたな、リリィ。ほんとお前ってやつは……」
「うぅ……ご、ごめんなさいっ!
だ……だけどっ!!ギル様を他の人に……と、とられたくなくて……」
本音をぽろりと言う私に、一瞬驚いた顔をしたギル様は、すぐにくすくすと楽しそうに嬉しそうに笑った。
そして、私の顎をくっと指先で持ち上げると綺麗な青い瞳が私を見つめる。
「お前がいつ本当のことを言うのかずっと待っていたんだがな」
「……?ど、どういうこと……ですか?」
「ふっ……俺がお前の正体を知らないとでも思っていたのか?」
「……えっ?!?!?!」
それって……え?まってまってまって……ずっとバレてたの?!
えぇ?!?!私の完璧な男装が?!?
バレてないと思ってたとか……恥ずかしすぎない……?!?!?
「な!!な、なんで、黙っていたんですかっ!!は、はずかしすぎますっ!!私あんなにも悩んでたのにっ!!ひ、ひどいっ!!」
「なんとでも言え」
恥ずかしくてジタバタと暴れる私の腰を、意地悪に笑うギル様は、余裕そうに強く引き寄せると私を腕の中に閉じ込めた。
そして、私の耳元で最高に甘くとろけるような声で囁く。
「やっと俺のものになったんだ……これからはもう一切の手加減はしない。
……覚悟しとけ、リリィ」
ぞくっとするほど甘い言葉がふってくる。
そして、綺麗な顔が視界いっぱいに広がると、私の唇に温かくて柔らかいギル様の唇が落ちてきた。
「……んっ……」
私の全てを味わい尽くすような、とても深く長い口づけ。
唇が離れた一瞬の隙に、溢れる私の気持ちを漏らす。
「ギル様……大好きです……っ」
「俺もだ」
幸せそうに笑うギル様から何度も落ちてくるキスは、私からしたキスとは全然違って
とても濃厚で胸がときめく、すごくすごく幸せな、そんな甘いキス。
王宮の庭園は、私たちを祝福するかのように太陽の光が差し込んでいた。
キラキラと輝く光は私たちを照らしていて、神様に祝福されているような気分だった。




