EP:30☆美しきクリスタル様!
馬車が止まって窓から外を見ると、目の前に広がるのは、この国で一番大きな立派な建物……王宮。
本当に来てしまった……。
目の前の建物を見て、とうとうこの日が来たと実感した瞬間、あんなにも気合いの入っていた私の指先は緊張で小さく震え出す。
小さく震えながら、アル様に声をかけられるまで馬車の中で待っていた。
すると、カチャリと馬車の扉が開くと、アル様が現れた。
「ごめん、待たせたね。周りの警備も一段落したんだけど……って大丈夫かい?」
「だ、大丈夫ですよっ!」
私の様子を見て一瞬目を見開くと、アル様は眉を下げて優しく微笑む。
そして、私の手元に視線を落とした。
「手がすごく震えてる」
「え、えと……これは、その……」
強がっていたけれど、震えが止まらなくて気まずくなる私。
すると、アル様が私の震える手を、大きくて温かい手のひらでそっと優しく握ってくれた。
不思議とその温かさに、緊張がすぅーっと、とけていくような気がした。
それと同時に、だんだんと手の震えがとまっていった。
「アル様……ありがとうございます……。もう大丈夫みたいです。震え止まりました」
顔を上げてアル様を見つめると、少しだけ照れくさくてへらっと笑う私に、アル様もくすくすと笑った。
「くすっ……リオでも緊張することがあるんだね?じゃあ、そろそろギルのところに行こうか」
「えへへっ……本当ですよね……じゃあ、いきましょうかっ!」
二人で馬車からおりると、アル様が私の顔をいたずらっぽく覗き込む。
「いーい?ギルに見つからないように、ちゃんと俺の後ろに隠れてるんだよ?」
「はいっ!わかりましたっ!」
アル様の頼もしくて大きな背中を見つめながら、置いていかれないように後ろにぴったりと隠れて、大きくて広い庭園を一歩ずつ奥に進んで行った。
庭園の奥に進むと、色とりどりの花に囲まれたお茶会の会場にたどり着いた。
すると、ちょうど奥の建物からクリスタル様がゆっくりと出てくる所だった。
すごく綺麗な人だった。
クリスタル様の美しい顔と艶やかな金髪の髪の毛が、歩く度にサラサラと揺れて、その姿は息を飲むほど美しい。
初めて近くで見たけれど、こんなにも綺麗な人だったんだ……。
本当に言葉に表せないほど美しい……。
一つ一つの所作が、どこまでも優雅で気品あふれていて……、私なんかと大違いだった。
どんなに頑張っても、あんな風には私にはなれないし絶対真似出来ない……。
あまりの違いを自覚させられると、とてもだけど敵わなくて……、悔しくて、悲しくて……私はアル様の後ろで、静かに俯いて落ち込んだ。
やがて、ギル様の前まで近づいたクリスタル様の声が聞こえてきた。
「今日もお忙しい中、起こしくださってありがとうございます。とても嬉しいですわ、ギル様」
「こちらこそお招きいただき大変光栄です。今日も心より楽しみにしておりました」
ギル様は、社交の時に見せる甘く美しい微笑みを向けていた。
流れるように優雅にクリスタル様の手を取ると、その手の甲へそっと唇を落とした。
ただの挨拶だって知っているし……ギル様のあの顔は社交の顔だってのもわかっているのに……
私の胸はズキズキと痛み出す。
なによあれ……、私には意地悪なくせに……あんなに優しくしちゃってさ……
本当かっこよくて王子様みたいで悔しい……。
そして、手の甲にキスをされたクリスタル様は、頬を可愛いらしく染めて、とても嬉しそうに笑っていた。
その姿にハッとする。
クリスタル様は、私と一緒でギル様に恋をしているんだ……と。
その後、二人はとても楽しそうに朗らかに会話を進めていた。
どこまでも気品あふれて美しい二人のその姿は、すごくキラキラとしていて誰がどう見ても美男美女で、映画のワンシーンを見ているみたいだった。
アル様の背中に隠れている私は、胸が押しつぶされそうなほど切なくて痛かった。
そして、一旦話の区切りがついたのか、ギル様がテーブルへクリスタル様をエスコートしようとしたその時だった……
ドレスの裾を踏んでしまったクリスタル様がバランスを崩してよろめいてしまう。
それをすかさず抱きとめて、優しく助けるギル様。
わざとじゃないってのは分かっているけれど、モヤモヤがとまらない。
二人の近い距離と顔を赤くして微笑むクリスタル様。
楽しげに見つめ合う二人。
見れば見るほどお似合いな二人。
胸がズキズキとして、ずっと我慢していた嫉妬に苦しみに悲しみ。
それ以外にも例えられないような、いろんな感情がぐるぐるとする胸の中が痛くて堪らなくて限界を突破した。
もう……無理……、これ以上見たくない。
そんな情けない気持ちとともに、私の視界がだんだんと歪む。
私の頬を、ツーっと何かが伝っていく。
あまりの苦しさに、無意識に服の上から胸元をぎゅっと握りしめる。
アル様が私に振り返ると、目を見開き心配そうに小さな声で声をかけてきた。
「……リオ、大丈夫?」
「……えっ?」
「涙……出てるよ?」
アル様のその言葉に、私はハッとして自分の頬を撫でる。すると、頬が濡れていてはじめて自分が泣いていることに気がついた。
「あ……あれっ……?な、なんでだろう……こんなはずじゃ……。
す、すみませんアル様、ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきますっ……!」
私は涙を拭うと、心配させたくなくて無理矢理へにゃりと笑顔を見せた。
心配させたくないし、これ以上目の前の光景だって見ていたくない。
私は、その場から逃げるように全力で走って離れた。
「リオ……っ!!待って!!」
後ろからアル様の声が聞こえたけれど、走り出した瞬間堪えてた涙が次から次へと溢れる。
流れる涙に情けなくて、振り返ることも立ち止まることも出来なかった。
意地でも、この目で確かめようと思っていたのに……っ!!
だけれど、いざ二人を目の前にすると、いろんな気持ちが溢れて涙が止まらない。
他の女の人と楽しく話すギル様。
私以外に優しく触れるギル様。
全部全部、見てられなかった。
私は思ったよりも嫉妬深くて厄介な女だったみたい。こんなこと、気づきたくなんてなかったよ……。
ギル様のバカ。




