EP:23☆兄弟喧嘩と胸の痛み!
昨夜は、ギル様と夜遅くまで結局話し込んでしまって気がついたら寝落ちしてたみたい。
まぶしい太陽の光で目が覚めると、体がすっかり軽くなっていた。
ベッドから出ると、久しぶりに執事服を着て寝落ちしてしまって少しボサボサのカツラを綺麗になおして気合を入れる。
「よし……っ!今日からまたギル様の専属執事としてがんばろっと」
部屋にあるギル様の飾ってくれた花を見て少しだけニヤける。
昨日のギル様はなんだかかっこよかったな……月光マジック……?
昨日のことを考えると胸がまた少しだけドキドキとした。
やっぱり、このドキドキはいつもと違う……なんだろ。
なんて思いながら、私は部屋を出た。
廊下を進んで、ギル様の執務室の前に着いた、その時だった。
「───兄上!!!その話、本当に受けるのか?!」
えっと……レオ様?こんな朝からギル様の部屋にいるなんて……めずらしい。
扉をノックしようとしたその時、更に声が続き、お邪魔かな?と思い、部屋の前で少し待つことにした。
「はぁ……仕方がないだろう」
ため息を吐きながら、低く疲れてるようなギル様の声が聞こえてくる。
「仕方がないわけないだろっ!!兄上には……婚約者がいるのに、婚約者のことはどーすんだよっ!!」
えっと……婚約者って……私の事?
急に私の話が出てきて驚きつつ、話が終わるまで部屋の前で待つ。
「どうもしないが?それにお前……俺の婚約者のこと嫌ってたじゃないか……逃げて困らせるようなやつなんていらないって……
急にどうしたんだ?お前らしくない」
「……兄上はあんなにも婚約者のこと必死に探してたのに……っ!!兄上のがらしくないよっ!!」
めずらしい……途切れ途切れに聞こえてくる声は、レオ様がかなり怒っているみたい……兄弟喧嘩???
「ふっ……何を言っている。おかしなことを言っているのはお前の方だろう?
……これでも、色々考えているんだ。子供のお前には、分からないだろうがな」
「……それを受けるっていうのが考えているって事なの?兄上の言ってることなんて俺にはこれっぽっちも分かんないよっ!!!悪かったな!!まだ子供で!!」
すると、ドタバタと走ってくる足音が聞こえてきて、まずいっ!と思った時には遅くて、扉が勢いよく開いてしまった。
すると……開いた扉から出てくる涙目のレオ様と目が合ってしまった。
「レ、レオ様?!」
「……っ!!!」
声をかけると、レオ様は私の顔を見ると目を見開き、すぐに視線をそらす。
そして、ものすごく悲しそうな悔しそうなそんな顔をして廊下の奥へと走り去ってしまった。
「……レオ様……?」
唖然とその後ろ姿を見送りつつ、執務室を覗き込む。
レオ様のことを聞こうと思ったけれど、ギル様も机の上で、頭を抱え何かを悩んでいるようだ。
「……ギ、ギル様?」
控えめに声をかける私にギル様はハッとした顔をして私を見つめる。
「あ……あの……ごめんなさい。なんか喧嘩しているのが聞こえてしまって……。あの……何かあったんですか?」
私の質問に、ギル様は気まずそうな顔をすると私から視線を逸らしてしまった。
えぇ……なになに……なんなの?
「……なんでもない。気にするな」
「……そうですか……?」
なんでもないと言うけれど、どう見てもなんでもない様子じゃなかった。
だって……ギル様は私の方を一切見ないでずっと微妙な顔をしている。
昨日は……あんなに楽しかったのに……それが夢だったかのように……今日のギル様は変だ。
「あの……ギル様……本日のご予定は?」
「あぁ……今日は……少しまた屋敷をあけるからすまない……レオのことを頼む」
なぜだか、歯切れが悪く頑なに視線を合わせないギル様は、いつもより綺麗に着飾っていた。
そして、立ち上がると「いってくる」と一言残して、私のことを見ずに横をサッと通り過ぎて行ってしまった。
え?!なんなのっ!?
少しだけむっとする気持ちと、昨日と今日のギル様の違いに胸が少しだけチクッと痛んだ。
後ろで扉が閉まると静かになった部屋に私の独り言だけが響いた。
「……なんだろ……昨日より少しだけ胸が痛い……」
むっとする気持ちと胸の痛みで、意味がわからなくてギル様の部屋から動けなかった。
しばらくの間動けなかったけれど、私はハッと思い出す。
「……っ!!落ち込んでいる場合じゃないっ!!」
私の脳裏に浮かんだのは、悲しそうに涙をこらえて走り去ったレオ様の姿だった。
いつも強気なレオ様が……あんな顔……探さなきゃっ!!!
自分に喝を入れて奮い立たたせると、私は執務室を飛び出した。
レオ様の部屋や、食堂、アル様やロキさんに声をかけるけれど……どこにもいない。
全然見つからなくて、どうしようと思っていると、レオ様と過ごした花畑をふと思い出す。
私は屋敷を飛び出すと、花畑に向かった。
花畑につくと……前に一緒に寝転がった芝生の上で、膝を抱えて三角座りをするレオ様を見つけた。
「ハァハァ……いた……よかった……」
やっと見つけて安堵した私は、息を整えるとレオ様の隣までそっと近づいた。
そして、何も言わずに静かに腰を下ろした。
「……っ!!」
隣に腰を下ろした私に一瞬びっくりした顔をしたレオ様は、視線をそらすと膝に顔を埋めてしまった。
そんな私たちの間には、さらさらと花の匂いを乗せた風が吹いて、二人だけの静かな時間が流れていった。
どれくらいの時間が経っただろうか……ずっと膝に顔を埋めていたレオ様が、ぽつりと小さな声で喋りだした。
「……お前……さっきの兄上との話……聞いてたんだろ?
……何も聞かないのか?」
「んー……そうですねぇ。私の話が出てきたのはわかりましたけど、なんの話だったのかはよくわかんなかったです」
婚約者って言葉は聞こえたけど……揉めた理由はわからない。
レオ様は私の返事を聞くと「そっか……」と小さな声で呟いた。
「私はそんな事より、あんなに悲しそうな顔をして部屋を飛び出したレオ様の方が、とても心配ですよ。何かありましたか?」
私はレオ様の顔を覗き込むと、ニコッと笑いかける。
レオ様はかなり泣いたのか腫らした目で私をじっと見つめ返してきた。
「……兄上がさ……お茶会に行ったんだ」
「……だからいつもより着飾ってたんですね……」
ぽつりぽつりと呟くレオ様は悲しそうに寂しそうに話をする。
「……兄上はお前と婚約してからは全部断ってたんだぞ……、お前は、嫌じゃないのか?」
「……えぇと……」
レオ様に言われてみてよく考えてみる。
他の女性と楽しくお茶をしているギル様……
……チクッ……。
……私は嫌だと思っている……?!
だけどだけどっ!!この世界の理不尽さもよく知っているから……仕方のないこと……だよっ
この世界での社交……
それこそ私が唯一抗えなかったものだ。
嫌だと気づいてしまったその気持ちを隠すようにレオ様にゆっくりと伝える。
「私は……この世界では社交からだけは、絶対に逃げられないってこと身をもってちゃんと知っています……。だから、仕方の無いことだってきっとあります……」
すると……
「……相手は、国王陛下の娘……クリスタル様だ……」
「……そ、そうなんですね……」
相手が想像以上すぎて苦笑いがこぼれた。
「尚更……逃げられないですね」
クリスタル様……サラサラと綺麗な金髪を靡かせる、とても美しいこの国の王女様だ……。
想像するとギル様とすごくお似合いだと思った。私の胸はさっきよりも確実にチクチクと痛み出す。
すごく嫌だ……と、気づいてしまった。
なんでこんなに嫌なんだろう……昨日から本当に私はいろいろとおかしくなってしまったみたい……。
そんな私を見たレオ様は目を見開くと、なぜか慌てたようにしている。
「な……なんて顔してんだよ……」
「へっ……そんな変な顔ですか……?えへへっ」
なんだか泣きそうになった私は、心配させたくなくてへらっと笑うと、レオ様は複雑な顔をして呟いた。
「……最初は婚約破棄したお前のことなんて嫌いだったのに……」
「すっごい悪口言うじゃないですか、ふふふっ」
「だけど俺……今は違うよ……、兄上の婚約者はお前がいい」
「へっ……?」
私を不安そうに見つめるレオ様に、びっくりして目を見開いた。
レオ様はさらに言葉を続けた。
「俺っ、リオとずっと一緒にいたい!家族になるならリオがいい!!
だからさっ!……はやく諦めてよ。
逃げるなんてやめて婚約者としてこの屋敷に来いよっ!!」
「……レオ様……っ」
なんだかよく分からないけど……
胸がぎゅっとして……温かくて……
気がつくと視界が滲んで、私の目からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれていく。
レオ様……私なんかになんでそんな嬉しいこと言ってくれるの……?
前世のモラハラ男から、都合よく扱われてきた私を心から必要だと言ってくれる人がいる。
私のことを必死に考えて涙を流して怒ってくれる人がいる。
それがすごく嬉しくて幸せで、胸が温かくて涙が止まらなかった。
「……ちょ!!な、何泣いてんだよ?!」
急に泣いてしまった私に、レオ様は驚いてオロオロとしている。
「す、すみません……っ。わ、わかんないですけど……う、うれしくて……っ、ひっく……うっ……っ」
「お、おい……な、泣くなよっ!!俺がいじめてるみたいだろ……っ!!」
オロオロとするレオ様はポケットからハンカチを取り出すと、私の目をゴシゴシと拭ってくれた。
だけども……完全に涙腺が崩壊してしまった私の涙は止まらなくて、さらに焦るレオ様は
「あーっ!もう!!わかったから……泣き止んでよ!!」
そう言って、たどたどしく控えめなレオ様が私を小さな腕でぎゅっと抱きしめてくれた。
すごく不器用だけど一生懸命で可愛いそんなハグだった。
「も、もう泣くなよっ!!」
顔をあげると一生懸命に私を慰めようとしているレオ様がいて、顔がすごく赤くなっていた。
幸せな気持ちと一緒に涙が引っ込んで、あまりにも愛らしい姿に思わず笑ってしまった。
「……ふふっ……っ」
「な、何笑ってんだよ!!」
「い、いえっ……嬉しくて……ふふっ
でも、レオ様……」
笑う私に少しいじけたような顔をするレオ様の顔を、くすっと笑いながら赤い顔を覗き込む。
「な、なんだよ……」
「お顔が、とっても真っ赤ですよ?」
「う、うるさいっ!!!慰めてやったのに!!!勝手に泣いとけっ!!」
慌てて私から離れたレオ様が面白くて私は声を出し笑った。
「レオ様!ごめんなさい待ってくださいっ!これは私からのお返しですっ!!」
顔を真っ赤にして逃げようとしたレオ様の手を捕まえると、思いっきり引っ張る。
そして、バランスを崩して私の胸の中にダイブしてきたレオ様を思いっきりぎゅうっと抱き締め返したのだった。
「ふ、ふざけんな!!!!離せよっ!!」
「絶対離さないし逃がしませーんっ!!!レオ様!!私も大好きですよっ!!」
ギャーギャーと騒ぐレオ様が可愛いくて、元気にさせようとしてくれた気持ちがとても嬉しくて、モヤモヤしてた気持ちも吹き飛んだ。
そして……思ってしまった……
婚約者に戻ることで、こんなにも大好きな公爵邸のみんなと一生過ごせるならそんな人生も最高なんじゃないかってね。




