EP:22☆メイドのミアとギル様のお土産!
あの穏やかなご飯時間から数日が経った。
ロキさんはあの日から、毎日食べやすくて美味しいスープやお粥を作っては部屋に運んでくれた。
今日も部屋に入ってくると、淡いアメジストの髪の毛を揺らしながら私のベッドの脇に座る。
「すっかり体調はよさそうだね?今日は野菜たっぷりのスープだよ」
「ふふっ今日もありがとうございます!毎日どれも美味しくてすっかり元気になりましたよ」
「それならよかった。君の美味しそうに食べる顔をずっと見ていたいからねぇ」
相変わらず色気たっぷりに笑うロキさんと楽しくお話をしながらご飯を食べる。
こんなにロキさんとたくさん話をすることはなかったけれど、こうやって毎日約束を守ってご飯を運んでくれてとてもいい人だっ!
ご飯を食べ終わってからもしばらく話し込んでいると、扉を開けたミアが入ってきた。
「はぁ……ロキ様、リオ様の食事が終わったのなら早くお戻りください。厨房が手が回らなくて料理人たちが嘆いておられますよ……」
「はいはい……仕方ないなぁ。じゃあねリオくん」
ロキさんは色気たっぷりに笑うと、食べ終わった食器を持ち颯爽と部屋を去っていった。
入れ替わるように、ミアが私のそばに座る。
「あの人は、リオ様に気安くしすぎですっ」
「ミアったら本当に真面目よね?私の知っている人にとっても似てるんだよね〜、本当厳しいんだからぁ〜」
ミアには、毎日お世話をしてもらって友達のように仲良くなった。
ミアを見ているとルリを思い出す……会いたいなぁ……。
そんな風に思っていると、突然おかしなことを言い出す。
「リオ様……いつかロキ様に襲われてしまいますよ?あの人はリオ様を変な目で見てますっ!!」
「えぇ?!そんなことある?ふふふっ、ミアの考えすぎだよ〜っ!!」
私が満面の笑みで言うと、ミアは「本当脳天気なんですから」と呆れていた。
☆.*˚
───その日の夜。
体調がすっかり良くなった私は、ここ数日寝すぎたせいで眠れずにいた。
ふと、ここの屋敷に来てからの事を思い出す。
外の世界はこんなにも毎日が新鮮。
たくさんの人と出会えたこの公爵邸の生活は、毎日が楽しい。
今の私の毎日はキラキラとしていて、ロゼッタ公爵邸に引きこもってた時の幸せや楽しさとは比べられないぐらいだ。
それともこの公爵邸のみんながこんなにも温かいからかな?
ずっとみんなと楽しく過ごしたいなぁ……
そんなことを考えていると
────コンコン
静かな部屋に扉をノックする音が響いた。
「えっ……こんな時間に誰だろう……?」
慌ててベッドから飛び起きると、ベッド横に置いてたカツラを手に取り頭にはめた。
「ど、どうぞっ」
開いた扉からは、大量の荷物を持ったギル様が部屋に入ってきた。
「まだ起きていたのか?」
「ギ、ギル様もこんな夜中に……どうしたんですか?」
「昼に行ってもメイドに追い返されるだろう?夜にこっそり来たかったのだが、ここ最近は寝込んでた分の公務で忙しくてな……」
あぶないあぶない……夜中にきてたらカツラ被ってないし大変なことになるとこだった……
ギル様はゆっくりと部屋に入ってくると抱えてた荷物を机の上に置いた。
何を持ってるんだろう……?
ギル様は机の上に、荷物を一つずつ手に取ると予想外なことを言い出した。
「公務の合間に、このお守りは病人にいいと聞いてな……買ってきた。お前にやる」
「……へっ?」
「あとこれは、お前のことだ、部屋にいても暇だろうと思ってな
花があれば元気になるだろう。庭師にどれがいいか聞いて選んでもらった」
そう言って部屋の花瓶に色とりどりの花を飾ってくれた。
「あと、これはサシェだ。体調悪いと悪夢を見るといけないからな、これを枕元に置いて寝ると安眠できるらしいぞ」
「えっ……あ、ありがとうございます……」
手渡されたお土産の数々に、私は思わず目を丸くした。
忙しい公務の合間に……私のためにいろいろ考えてくれていたの……かな?
なんだか、ギル様が体調を崩したあの日から思ってた人とは全然違いすぎて、笑いがこぼれてしまった。
それと同時に胸の中が温かく満たされていく感覚がした。
「ふふふっ」
「何を笑っている?」
綺麗な青色の瞳で、笑う私を見つめるギル様。
「なんだか……ギル様は思ってた人と違うなって思ったら…おかしくて…ふふっ」
「お前なぁ……」
呆れたため息を吐いたあとベッド脇の椅子に座ると、青く綺麗な瞳で私の目を見つめる。
「俺の事、どんな風に思っていたんだ?……聞かせてみろ」
「えー……そうですね……怒らないですか?」
私がくすくす笑いながらギル様の顔を覗き見ると、綺麗な顔でふっと笑う。
「俺がお前に怒ったことがあるか?」
「……そう言えば……、ないですね……?」
思い返してみれば、ギル様は意地悪だけど……、こんなに毎日自由にしてて怒られたことなんて……ない。
きっとギル様には私の事、報告がいっているはずなのに……いつも私は自由で楽しくさせてもらっている。
「では、遠慮なく言わせてもらいますね?
僕はギル様は二重人格で、いつか僕のことを部屋に閉じ込めてボロクソにいじめ倒しては精神的に追い込んで楽しむ人かと思ってました……ふふふっ」
前世のモラハラ男は、私を部屋の中に閉じ込めて、体調を崩していたって「俺は仕事が忙しいんだ」その一言で、こんな風に心配なんてしてくれなかった。
ましてや、仕事の合間に私のことを考えてくれるなんて、ありえなかったな。
「ふっ……そういうことか……」
目の前で何か腑に落ちたような顔をするギル様は優しく笑っていた。
「お前の魅力は、規格外で自由なところだ……そんなお前を閉じ込めておくわけがないだろう?自由にしてればいい、ずっとな
俺はお前の楽しそうに笑っている姿が好きだからな」
そう言って真っ直ぐに私を見つめてふっと優しく笑うギル様はとても綺麗だった。
私はその言葉が嬉しいはずなのに……少しだけ複雑になった、……なにこれ……。
その言葉はリオに言っているの?
リリィに言っているの?
まぁ……、リオに決まってるよね……。
だって私は今リオなのだから……、少しだけ胸がチクッとした気がした。
この向けられた優しさは、私だけど私じゃない……リオに向けられた優しさだ。
自分で選んだ道なのに、こんな風に言ってもらえる自分がズルい……と思ってしまった……。
胸が少し痛みながら、ギル様を見上げる。
「ギル様は……こ、婚約者様のことを……ど、どう思っているのですか?」
「ふっ……気になるか?」
意地悪そうに笑うギル様を、いつもならうわっ!て思うのに、かっこいいと思ってしまっている私はおかしい……。
それと同時に、こんな事聞かなきゃ良かったとも思った。
だって……、嫌なことを言われたら……何となくだけどショックを受ける気がしたから。
「やっぱり……な、なんでもないです……」
すると、下を向いてしまった私に、ぐっと綺麗な顔が近づいてきて私の耳元に唇を寄せると綺麗な声で囁いた。
「……とても、愛している」
「……っ!!!」
その言葉を聞いて私は顔が赤くなるのを感じた……。そして、私の胸はドキドキと音を立てる。
そのドキドキは今までと全然違うドキドキだった。そして、なぜかすごく嬉しいと思ってしまっている。
「なんでお前が顔を赤くしている?俺は俺の愛する婚約者に言ったつもりなんだが?くくっ」
「……な、なんでもないですっ!」
ギル様はくすくすと意地悪そうに笑っていて、さっきまでのモヤモヤは一瞬で消え去り、いつもと違うドキドキが止まらなかった。
ギル様は、全然思ってたような人じゃない、むしろとても素敵な人だ。
口が悪いし意地悪だけど……それは私を苦しめるようなものでもないし……、なによりこうやってただの執事の私なんかのことを考えてくれる優しい人だ。
「あの……今までいろいろ勘違いしててごめんなさい」
「気にするな、勘違いがとけたならよかった。すっかり体調もよさそうで安心した」
ギル様は、こんな私に美しく笑うと私を愛おしそうに見つめてる気がした。
私は今リオだからそんなわけないのにね?
静かな夜の部屋で二人きり……、月の光でキラキラといつもより輝いて見えるギル様は、すごくかっこよくておとぎ話の王子様のように見えた。
彼が社交界で人気なのがやっと分かる気がした。だって……かっこいいもん。
そして、いつもよりもギル様を纏う雰囲気が優しくて温かくて、私の胸はその日いつまでもドキドキと音を立て続けていた……。
なんだろう……いつものドキドキと本当に全然違う……
違う種類の……ドキドキがする……。
これは……なに?




