EP:21☆リオの体調不良とお世話!
ミアside
「──ちょっとミア!大変よっ!ロキ様が……っ!!」
顔を真っ赤にして走ってきた同僚のメイドが、なにやら嬉しそうにキャーキャーと騒いでいる。
興奮する彼女に詳しく聞いてみると、ロキ様がリオ様の部屋に私を呼んでいるらしい。
……はぁ……なにか面倒事かしら?
「わかったわ、すぐに行くからここを任せてもいいかしら?」
うちのメイドたちは揃いも揃って面食いだ。
この公爵邸にはイケメンな殿方が多いせいで、目の色を変えてはキャーキャーと騒ぎ立てている。
だからこそ、ロキ様は何かあると私に頼み事をしてくる。
この子達が浮つく気持ちも分からなくは無いけれど……、レイヴン公爵家の使用人としてもう少し公私の区別をつけてほしいわね……。
そんなことを考えながら、リオ様の部屋に着くと中に入る。
その瞬間……、私は自分の目を疑った。
「ロキ様、お呼びでしょうか?……って、あれ?……ここはリオ様の部屋じゃ……
か、彼女はどなたでしょうか……?」
そこには、相変わらず今日も美しい顔をして色気たっぷりのロキ様と、ベッドの上で淡いピンクの髪をしているとても可憐な美少女が苦しそうに眠っていた。
驚いている私に、ロキ様は他のメイドたちなら鼻血を出してしまいそうな笑顔で、人差し指を唇に当てる。
「ミア……静かに……。これはリオくんの本当の姿だよ。他のみんなには絶対に言ってはいけないよ?ね?」
この可憐な美少女が……リオ様?!
いつも元気いっぱいで走り回るリオ様は、ミーハーなメイドたちの間では「リオくん可愛い!」と、とても人気がある。
とりあえず顔が良ければうちのメイドたちの面食いセンサーに引っかかるのだ。
そして、私が呼ばれた意味を理解する。
なるほど……他のメイドにはとてもだけれど、こんな事言えないわね……。
私の察する顔を見たロキ様は、満足そうに笑うとベッド脇から立ち上がった。
「彼女のお世話を頼めるかな?俺は公爵様に今から彼女の体調のことを伝えて、なにか食べられそうなものでも作ってくるよ」
「かしこまりました。お任せ下さい」
私が一礼すると、部屋を出ようとしていたロキ様が、何かを思い出したように振り返る。
「あぁ……そうそう。わかっているとは思うけど、この部屋には誰も通しては行けないよ?
俺は最初からリオくんが女の子だと気づいていたけど、他は何も知らないだろうからね。じゃ、頼むね?」
「……えっ……」
ロキ様はそれだけ言うと、とんでもなく面倒な仕事を私に押し付け、ニッコリと笑うと部屋を出ていってしまった。
「はぁ……本当にいつもいつも、人使いが荒いんだから」
文句はあるけれど、目の前で苦しそうにしている彼女のことを放っとけない。
なんとかしなくちゃいけない。
着替えをさせようと服を脱がせると、苦しそうにしている原因は、彼女のつけるサラシだった。
「失礼します」
と、小さく声をかけるとサラシをはずし、ゆったりとした服に着替えを済ませた。
そして、真っ赤な顔に冷たいタオルを乗せると、気持ちよさそうにした可愛いらしい彼女は、さっきよりは楽になったのか少しだけ呼吸が落ち着いた。
「一通りはできたわね」
ふぅ……と一息を着いた、その時だった。
何やら廊下の方から騒がしい足音が響いてきたかと思うと、扉の前で止まる。
そして、
──コンコンコンッ!!
強く扉をノックする音が聞こえてくる。
……まさか、もう誰か来たのかしら?
とりあえずリオ様のこの姿は誰にも見せられないわ……、しっかりと追い返さなくては
扉を開くと、そこには美しい顔を歪ませ、焦る顔をした旦那様が目の前にいた。
「リオが倒れたと聞いたのだが、リオは無事なのか?!」
「だ、旦那様っ!風邪がうつってしまいます!廊下にて説明させていただきます」
うちの旦那様は外では甘いマスクで有名だ、だけれど屋敷では冷静でとてもクール。
そんな今日は、いつもの旦那様の面影はなく、とても人間味溢れる様子をしている。
そんな姿に正直私は、びっくりしている。
とりあえず旦那様であっても中を見られてはいけないと思った私は、扉を無理やり閉めて廊下に出る。
「そこを退け、リオが無事なのか確認をさせろ」
「いけませんっ!旦那様も昨日まで体調を崩されていたのですよ?また風邪を貰ってしまったら、公爵領の皆様がとても悲しみます。リオ様は大丈夫ですので、今日はお引き取りください!」
私の言葉に、悔しそうに顔を歪ませる旦那様。
本当にこの方は旦那様なのだろうか?こんな表情はとても珍しいわ……。
そんなことを考えていると、廊下の奥から更に二人の影があられる。
「ギルっ!!リオは、無事なのか?!」
「兄上っ!リオは?!」
息を切らせてプラチナブロンドの髪を乱したアル様と、慌てているレオ様だった。
「申し訳ございませんが、リオ様は熱を出しております。皆様にうつしてはいけませんので、今日はお引き取りください」
私はそう言って頭を下げる。
「俺なら大丈夫だっ!中を確認させてくれないかい?」
いつもニコニコしているアル様まで必死な顔をしている……。
そして、いつも強気なレオ様も涙目で私を見つめてくる。
「俺にも会わせてくれよ!」
リオ様のことで、みんながみんな取り乱されていて見慣れないこの光景に驚くが、リオ様の名誉のためにもここは通してはいけない。
本当にすごいわね……。この三人をこんなにも必死な表情にさせるだなんて……リオ様はとても愛されているお方らしい。
皆様の顔を見て少し心が痛むけれど、なんとしても阻止しなくてはいけない。
「ダメなものはダメです。申し訳ございません」
私はそう言って一礼すると、まだ後ろで騒がしくする三人を無視して、無理矢理扉を閉めると鍵をかけた。
本当に……なんて面倒な事を……はぁ。
☆.*˚
リオside
「ミアお待たせっ、大丈夫だったかい?」
部屋の奥からそんな声が聞こえて、私の意識が少しづつ戻る。
まだ頭がズキズキとして……体は重くてしんどい……。
ぼんやりとする視界の中で、見知らぬメイドさんが小さくため息を吐いていた。
「旦那様にアル様とレオ様がいらっしゃって、とても大変だったんですよ……」
「ふふっ……ごめんね?ミア。苦労をかけたね。リオくんにご飯を食べさせるから、悪いけどもう一度廊下で見張りを頼んでもいいかな?」
「はぁ……かしこまりました」
メイドさんが静かに部屋を出ていくと、ベッドのシーツが沈み、誰かが優しく私の体を起こしてくれた。
クラクラする頭で顔をあげると、目の前には、美しく笑うロキさんだった。
「へ……?ロ、ロキさん……?」
な、なんでロキさんがここにいるの……と悩んでいると、ロキさんが困ったように眉を下げて優しく笑った。
「覚えてない?君は廊下で倒れたんだよ?公爵様のために無理をしすぎだね……ご飯、食べられそうかな?」
そう言えば……廊下でグラグラしてから記憶が無いかも……
納得はしたけど、食欲は全然ない……。
私は食べられないと頭をふるふると振った。
その瞬間自分の視界に入ったのは、淡いピンクの髪の毛がさらさらと揺れる様子だった。
「へっ……か、髪の毛……」
慌てて頭を手でおさえると、いつもあるはずのカツラがそこにはないことに気づく。
や……やばいっ……
目の前のロキさんを慌てて見ると、私の様子ににっこりと微笑んでいた。
「心配しなくても大丈夫だよ。俺は最初から君が女の子だってきづいていたからねぇ……」
「えぇ……う、うそっ……バレていたなんて……は、はずかしい……っ」
ひゃー……なにが完璧な男装よっ!!
……初日からバレてたなんて恥ずかしすぎでしょ……っ!!
恥ずかしさで顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。
「ふふっ……風邪のせいかな……?頬は赤いし、目は俺を誘うように潤んでいて、すごく可愛いらしいね?」
ロキさんはそう言って、涙ボクロのある目を緩ませると色っぽく私の頬に手を伸ばし、そっと優しく撫でてきた。
で……でた……っ!いつもの色気と意地悪だ……っ!!
「な、な……っ!!」
慌てていると頭がクラクラとしてきて、ふらっとした。
次の瞬間、あ……倒れる……と思ったけれど
ロキさんの驚いた顔と、大きな腕が咄嗟に伸びてきて私の体を抱きとめてくれた。
「おっと……ごめんごめん。病人をからかっちゃダメだったね。あまりにも可愛いらしいから……つい、ね?」
ロキさんは私から腕をはなすと、悪びれる様子もなく、くすくすと楽しそうに笑っていた。
「ロキさんはいつも、私をからかいますよね……っ、私そういうの免疫ないんです、やめてくださいよっ」
私は両頬を膨らませて、精一杯ロキさんを睨んだ。
すると、驚いた顔をしたロキさんが少しだけ目を見開いた。
「ねぇ……前にも言わなかったかな?」
ロキさんは呆れたようにため息を吐くと私を見つめる。
「そんな顔をしていると……本当に食べられちゃうよ?」
ロキさんはよくこの台詞を言うけれど、何を言っているんだろう??
「私は食べ物じゃないです」
私はむすっとしたまま言い返すと、ロキさんは目を丸くしたあと、吹き出した。
「ふふふっ……そうだったね。君は心がとても綺麗だったよね……ふふっ。
あ……そうだ、君の本当の名前を教えてくれないかな?」
あ……、もしかして料理人のロキさんは私のことを知らない……?
「私、リリィです」
「リリィ……、とても可愛いらしくて君にぴったりの名前だね」
「ふふふっ……ありがとうございます」
私のことを知らなそうなロキさんに安心して笑うと、彼はおかゆの入った食器を手に取った。
「さてと、そろそろ俺がせっかく作ったご飯、少しでも食べてくれないと寂しいんだけど?」
ロキさんは優しく微笑むとスプーンを私の口元まで運ぶ……、だけれど、食べれそうにない……。
私は申し訳なくてしょんぼりとする。
「……食欲、ないです……」
「少しは食べないと、元気になれないよ?ね?ほら、食べて?
はいっ、あーん」
目の前で楽しそうにニコニコとしつこくスプーンを差し伸べるロキさんの執念に観念した私は、仕方なく小さく口を開けた。
口に入った瞬間、出汁がきていて優しい味のおかゆが口いっぱいに広がる。
それは、想像以上に美味しかった。
「わぁ……っ!!!」
さっきまで食欲なんてなかったのに、あまりの美味しさに私は目が輝く。
「ロキさんっ!!!やっぱり、ロキさんの作るご飯はとっても美味しいですねっ!!
私、ロキさんの作るものってなんでも大好きなんですよね〜っ!どれもこれも美味しいですもんね?
ロキさんは、将来絶対いい旦那さんになれますね〜っ!!」
あまりの美味しさに興奮した私は美味しさを語ると、満面の笑みでロキさんに笑った。
すると、カチャンッとスプーンが食器に当たる音がすると、ロキさんは片手で自分の顔を覆ってしまった。
「……ロキさん?」
不思議に思った私は、ロキさんの顔を覗き込むと指の隙間から見えたのは赤くなった頬だった。
「はぁ……何この破壊力……。俺お子ちゃまには興味はないんだけどなぁ……、ほんと次から次へと……ふふっ」
私の目の前でボソボソと、なにかを呟くロキさんに声をかける。
「どうかしましたか?ロキさん」
「……なんでもないよ」
顔から手を離したロキさんは、まだ少し頬が薄っすらと赤いまま、優しく微笑んだ。
「体調戻るまでは、特別に俺が毎日滋養のあるご飯を作ってきてあげるよ」
「えっ?!本当ですか?!ロキさんの特別メニューを私だけ食べれるなんて、私は幸せものですねっ!!約束ですよ?」
「ふふっ、そんなことで幸せになれるんだね君は……。別にいいよ」
「当たり前じゃないですかっ!こーんなに美味しいんですからっ!!」
私が大きく手を広げて体全部で表現すると、満面の笑みで笑う。
すると、少しだけ視線を逸らしたロキさんはお礼を口にする。
「……ありがとう」
「こちらこそありがとうございますっ!早く元気になれそうですっ!」
穏やかなご飯時間が過ぎていった。




