EP:19☆眠るリオの正体!
ギルside
眠っている間、ずっと暗いトンネルの中にいるようだった。ひどく頭が痛み、胸は息苦しくてしんどかった。
そんな暗闇の中で、俺に話しかける優しい声が何度も何度も響いてきた。
「大丈夫ですよっ」
「早く元気になってください」
「ここにずっといますから」
優しい声とあたたかな手の温もりに、苦しさがすっと落ち着くようなそんな不思議な感覚があった。
あれから……どれくらいそうしていただろうか。
少しずつ意識がはっきりしてくると、俺は体が軽くなっていることに気づく。
それと同時に俺の手にはまだ温かさが残っていた。
……夢じゃ、なかったのか?
ゆっくりと目を開けると、俺はあたたかな手元を確認する。
そこには……俺の手を握りしめたまま、ベッドに突っ伏して眠るリオの姿があった。
あの優しい声とあたたかな手は……
「お前だったのか……リオ」
俺はゆっくりと起き上がると、すやすやと眠る綺麗なリオの顔をじっと見つめる。
目の下にはひどいクマができていた。
お前は寝ずに俺の看病をしてたのか……?
ボサボサの茶色の髪の毛に、目の下にはひどいクマ……、そして俺の手を一生懸命に握って眠る姿に俺は……
愛おしいと思った。
俺はそんなおかしな気持ちに焦りだす。
愛おしい……だと?
こいつは、ただリリィに似ているだけだろ……?親戚か何かかもしれないんだぞ?
男か女かもわかんない……、そんなやつだ。
はぁ……俺はおかしくなってしまったんだろうか……。
けれど、やっぱり眠るリオを見ると、どうしようもなく愛おしさが溢れる。
「……はぁ」
俺は繋がれたその手をそっと離すと、立ち上がり複雑な気持ちのままリオを抱き上げた。
その体からは、リリィと同じ甘く心地のいい匂いがしてきて、リオとリリィが重なり更に俺の胸を締め付ける。
本当に……頭がおかしくなりそうだ……。
色んな葛藤をしながら俺は、ベッドにリオを優しくおろすと毛布をかけてやった。
ずっと寝込んでたせいで体が気持ち悪い……、頭も冷やしたかった俺は、浴室に向かう。
湯を浴びると、少しだけ混乱してた気持ちがすっとした気がした。
そのまま部屋に戻り、濡れた髪をタオルで拭いながらベッドに視線を向けた俺は、思わず小さく吹き出した。
「ふっ……」
そこには、せっかく毛布をかけてあげたというのに、毛布はめくれ上がり豪快に大の字になって眠るリオの姿があった。
呆れつつも、どこか愛おしいそんな姿を俺はじっと見つめていると……
あることに気がつく。
「……なんだ……?」
リオにそっと近寄ると、茶色の髪の毛の下から淡いピンクの髪の毛がぴょんっと飛び出していた。
……ドクンッ
まさか……と、俺の胸の奥はドクドクと大きな音を立てる。
緊張しながら、リオの茶色の髪の毛に手をのばす。そして起こさないように、そっと引っ張った。
すると、その下から淡いピンクの髪の毛がはらはらと落ちていき、ベッドの上に広がった。
「……っ!!」
あまりの驚きに声も出なかった。
そこには、ずっと探していたはずのリリィの姿があった……。リオがリリィ……。
目の前の光景に信じられない気持ちと嬉しさで、胸が今までないほどに高鳴る。
ほんと、とんでもない姿で俺から逃亡したものだ。
……やっと……捕まえたぞ。
俺の屋敷にも間違えて来てしまったのだろうな……詰めが甘いところがリリィらしい。
さっきまであんなにも悩んでた自分が、馬鹿らしくなって笑いがこぼれる。
「……ふっ……お前ってやつは……どんな姿でも俺の心を乱すのだな……リリィ」
初めて会った時は、下着姿でびしょ濡れ泥まみれ、本当とんでもない姿だった。
次に会った時の令嬢としてのリリィは、人形のように可愛いらしく、みんなが振り向くほどの容姿だった。
そして、男装になったお前は、その綺麗な瞳で俺を見つめ、レオの話をするお前は今までで一番楽しそうに無邪気に笑っていたな。
本当に、どんな姿も魅力的なお前は、俺を魅了する天才だな。
綺麗なピンクの髪の毛を手に取ると、愛おしくてそっとキスを落とす。
今すぐにでも、思いっきり抱き締めてその可愛いらしい唇にキスを落としたかったが……
きっとお前はバレたとわかれば、またどこかへ行くのだろう?
ならば、俺は知らないふりをしよう。
そして、お前の心を絶対に俺に振り向かせて見せる……、覚悟するんだなリリィ。
次こそは絶対に逃がない。
そして、眠るリリィの頭に茶色のカツラをそっと被せると、起こさないように髪の毛を入れ込んだ。
もう手加減なんてしなくてよくなった俺は横になると、男装姿のリリィを引き寄せ、優しく抱き締めて眠りについた。
☆.*˚
リリィside
なんだか暖かくてきもちいい……
「……んぅ……」
意識がすこしずつはっきりしてくるにつれて、体に不思議な感覚があることに気づく。
ん……、なんか……ゴツゴツしているような……っ
ぱっと目を開けると私の部屋のベッドじゃない……。そして、違和感のある腰に視線を下ろすと筋肉のついた男らしい腕が絡みついていた。
「……っ!!」
ゆっくりと後ろを振り返ると、私の目いっぱいに広がるとても整った顔とサラサラの黒髪。
ギ、ギル様?!?!
「ひえっ……?!?!」
心臓が飛び出るかと思うほど、びっくりした私は声を上げてしまって、やばい!と口を両手で慌てて押さえる。
まってまってまって……!
どーゆー状況?!
私、看病してたはずじゃ……?!
寝相悪いから、いつの間にか寝落ちして寝ぼけてギル様のベッドに入った?!とか?!
襲ったりとかしてない……よね?!
もしそうだとしたら……ま、まずい……っ!
ギル様が起きる前に……脱出しなきゃ!!!
そっとその腕を掴み、退かそうと試みるが……、私の腰を抱きしめる腕は更にぐっと力がこもる。
ひいっ!!!
お、落ち着くのよ!私っ!!
ゆっくりよ……起こさないように……
ギル様の腕に再び手をかけると……
「……ん……どうした……?」
低くかすれた声が後ろから響いた。
「……ひっ」
恐る恐る後ろを振り向くと、ギル様は眠そうな目をしながら私を見つめていた。
バレたからには……、ここはもう覚悟を決めて謝るしかないっ!!
ガバッと起き上がると土下座をした。
「ご……ごめんなさいっ!!勝手にベッドに入ってしまいました!!僕はギル様を襲ってしまってないですかっ?!寝相が悪いのに……寝落ちなんてしてしまったせいで!!病人のギル様になんて事を……!!ごめんなさいいいいっ!!!」
涙目でてんぱりながら、まくし立てるように謝る私に、寝起きのギル様はキョトンとした顔をしたあと……くくっと面白そうに笑っていた。
「な、何を笑ってるんですかっ!!」
「いや…ふはっ…なんでもない…っ」
こんなにも私は焦っているというのに何が面白いのか、愉快そうに笑っているギル様がいた。
「こんなに真剣に謝ってるのに……」
「俺がお前に襲われると思うか?」
「え?僕は襲ってはないんですか?えと、勝手にベッドには……?」
キョトンとギル様を見つめていると
ギル様も私の目をじっと見つめて、意地悪に笑い、ギル様がすっと近寄ってくる。
え……なに?と思った次の瞬間
ふわっと体が再びベッドに沈んだ。
「……ふえっ?!」
目の前にはギル様のドアップがあって、私の上にはギル様が覆いかぶさっていた。
いきなりのことで、びっくりする私は心臓がバクバクとうるさく音を立てる。
そんな私に至近距離で見つめてくるギル様は怪しく笑うと耳元に顔を寄せてくる。
そして
「……きになるか?」
と、甘く色気たっぷりに囁く。
「ひいっ……な、な、なにするんですかっ?!も、もういいですっ!!」
あまりの刺激に悲鳴をあげて質問なんてどうでもよくなった私は慌てると、ギル様は反応を楽しむような顔をして、ふはっと声を出して笑った。
そして、私の顔をじっと見つめると
「男同士なら、別に構わないだろう?リオ」
「……っ!!!」
「男同士だと言うのに、そんなに慌ててどうした?」
お、男同士……っ!!
た、たしかにそうね?!私は今リリィじゃなくてリオなのだから…………
だとしても距離近すぎませんかっ?!
慌てている私に、ギル様は再び顔を近づけてくる。
そして、あろうことか私のおでこにそっとキスを落とすと離れていった。
「へっ?!」
「じゃあ、俺は着替えてくる。お前も服がシワだらけだぞ、着替えてきたらどうだ?」
びっくりして固まる私に、ギル様はそれだけ言うと、何事もなかったかのように颯爽とベッドから起き上がり、着替えに向かってしまった。
残された私は、おでこを押さえたままベッドの上で真っ赤になって固まっていた。
お、男同士だからって、キ、キスはないよね?!?!え?!おでこだとカウントされないとか?!
おかしいのは私ですか……?!




